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第12話(ジェス視点)

 若菜を盾にされ、俺は捕まった。

 自分だけなら逃げられるが、若菜の命を握られている。

 逃げることは出来ない。


 若菜に必ず中和薬を飲ませると約束させ、俺は男に手足を拘束されて本拠地にある一際大きなテントに連れて来られた。

 室内は高級な絨毯が敷きつめられ、戦地にはふさわしくないような豪華な家具までが置かれている。

 美しい装飾の長椅子の後ろにはバルト国の旗と飾り剣が飾られていた。


 このテントの所有者など考えなくてもわかる。

 バルト国の最高権力者、オーガスト=ホリス=バルト国王陛下だ。


「そこに座れ」


 護衛の男に肩を押される。

 俺は黙って言われた通り地べたに座る。


 座った場所は無駄に豪華な1つの椅子の前。

 これからどうなるのかだいたいの予想はつく。

 自分のことはもう諦めてはいるが、残してきた若菜の事だけが心配だ。


 しばらく待っていると、入り口が騒がしくなった。


「くだらぬ! 我にそのような戯言を信じよと申すか」

「お願いです、陛下。まずは本人を見てくださいませ!」


 俺をここまで連れて来た男の声が響く。

 今は信じてもらえずとも、俺を見れば一目瞭然だ。


「ハイエルフとダークエルフの子など生まれるわけが……」


 布擦れの音がして声が止まった。


 俺はゆっくりと振り向く。

 無駄にあがいた所で意味がないからだ。


「……」


 中肉中背。

 緋色のマントと銀の鎧を身に着けた白髪交じりの50歳近い男が驚いたように俺を見ていた。


 しばらく呆然と俺を見ていたが、やっと正気に戻ったのだろう。

 嬉しそうな笑みを浮かべ俺に近づいてきた。


「なんと美しい……。まさに至宝」


 手が伸ばされ、俺の髪がひと房すくわれる。


「銀の髪。金の瞳。褐色の肌……。まさに光と闇の結晶……」


 顔にまで手を伸ばされ、さっと避ける。

 そのとたん、国王の顔が醜くゆがむ。

 王である自分を避けたことに腹を立てているのだ。


 髪を引っ張られ床に倒される。


「くっ!」

「名はなんと言う?」


 支配者ゆえの傲慢さで、他人を地位の力で支配しようとする。

 地位以外の力などないくせに。


「名は?」


 若菜の命がかかっている。

 あまり抵抗は出来ない。


「ジェスディラッド・リンディール……」

「ジェスディラッドか。よし、我に仕えることを許す!」

「……」


 まるで俺が王に仕えたがっているかのような言葉に笑ってしまう。

 手足を束縛されている者が喜んで仕えたがっているように見えるのだろうか?

 もしそうならなんて都合のいい思考をしているんだ。


 ……いや、この王はそういう男だ。

 自分の思う通りのことを思いこむ。


 俺のリンディールはアンネが娘のリンディールから取ってつけてくれた名だ。


 アンネはこの男の元専属魔術師だった。

 王宮のくだらない策略や欲望に我慢してきたのも全て、アンネの一人娘の為だった。


 アンネの娘、フロイライン・リンディールは、フレドリック・リンディール公爵に嫁いだ。

 しかし、この身勝手な王によって無理やり性的な暴行を受け、自ら命を経った。


 アンネは愛する一人娘を失い、何もかも捨てて神の森にやって来たのだ。

 この男はフロイライン・リンディールがアンネローゼ・プレシュオンの一人娘だとわかっていて手を出した。

 権力を振りかざす愚かな王なのだ。


 しかしどんなに低俗な王であろうと、若菜の命には代えられない。

 今は黙って従うしかないのだ。


「一緒にいた娘を捕らえているとか言っていたな?」

「はっ!」

「ではその娘に束縛の王冠をつけてやれ」

「かしこまりました」


 やはり束縛の王冠か……。


 束縛の王冠とは、頭飾りに魔法をかけ、それをつけている者をりいつでも殺すことの出来る魔法だ。

 俺が言うことを聞かなければ若菜は頭を潰されて殺される。


「言われたことはすべてする。その代わり、束縛の王冠を着けさせるなら彼女とは自由に会わせて下さい」

「なぜ?」

「俺はすでに交わした約束を破られている。彼女が生きているか毎日確認したい」

「……その娘がそんなに大切か?」

「俺は彼女に責任があるんです」

「ふむ……。まあ、いいだろう。好きにするがいい」

「陛下!」

「かまわん」


 止める臣下に手をあげて制止する。


 要求を聞き入れる余裕があるように見せたいのだろう。

 王は簡単に俺の要求を飲んだ。


 これで若菜のことを確認することが出来る。

 殺されていることに気づかないまま利用され続けるなんてごめんだ。


 それにずっと若菜と一緒にいたい……。


「部屋を1つ与えてやれ。娘と同じ部屋でかまわん。どうせ束縛の王冠を着けていては逃げられぬのだからな」

「我が君のお望みのままに……」


 近くにいた男はそう言って頭を下げてテントから出て行った。

 別の男が一歩前に出る。


「その者はいかがいたしましょうか?」

「しばらくはこのままでよい」

「このままとは?」


 王の言葉の意味がわからなかったのか、男が怪訝そうに俺を見る。


「これだけの美しい宝石だ。しばらく楽しみたい」

「……かしこまりました」


 王の言葉にぞっとする。

 確か王は無類の女好きなはずだ。

 よもや俺に興味はないはず。


 王は楽しそうに俺の髪に触れた……。



BL展開はないのでご安心ください。

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