悪役令嬢ですが、ドレスで世界を制しますわ
目を覚ました瞬間、すべてを理解した。
――ここは乙女ゲームの世界。
――そして私は、破滅フラグ満載の悪役令嬢、セシリア・ローゼンベルク。
「……最悪ですわね」
鏡に映るのは、完璧な美貌と、破滅確定の未来。
婚約者の王子はヒロインに恋をし、私は嫉妬に狂って追放――典型的な結末。
回避方法?簡単だ。
関わらなければいい。
「恋愛イベント?知りませんわ」
セシリアはスッと立ち上がると、ドレスの裾を整えた。
「それよりも――この世界、ファッションが遅れすぎですわ」
コルセットは苦しいだけ、色使いは単調、装飾は重すぎる。
前世で服飾オタクだった記憶が、怒りとともに蘇る。
「……よろしい。わたくしが変えて差し上げますわ」
その日から、セシリアの“戦い”は始まった。
⸻
「お嬢様、また針で指を刺して……」
「これは血の契約ですわ」
「ただの失敗ですよね?」
メイドの冷静なツッコミを無視し、セシリアは布と格闘する。
最初は酷かった。
ドレスは歪み、レースは破れ、使用人たちは震えた。
だが――
「……できましたわ」
数ヶ月後、彼女の手から生まれたのは、軽やかに揺れる新しいドレス。
無駄を削ぎ落としたシルエット。
動きやすさと美しさを両立した設計。
そして、今までになかった鮮やかな配色。
「……これ、売れますわね」
確信だった。
⸻
最初の顧客は、半ば無理やり捕まえた貴族令嬢だった。
「な、なんですのこのドレス……軽い!?」
「当然ですわ。踊るための服ですもの」
舞踏会当日。
その令嬢は、誰よりも目立った。
「どこの仕立て!?」
「今までと全然違う……!」
ざわめきは一気に広がる。
セシリアは遠くからそれを見て、静かに微笑んだ。
「流行は、こうして生まれますの」
⸻
気づけば、注文は殺到していた。
王都中の貴族が彼女のドレスを求め、
職人たちはその技術に驚き、
ついには王宮からも声がかかる。
「セシリア嬢、ぜひ王家御用達に――」
「お断りですわ」
「えっ!?」
「縛られるのは嫌いですの」
自由に作る。それが彼女の信条だった。
⸻
ある日、街で偶然、ヒロインと王子を見かけた。
仲睦まじく歩く二人。
本来なら、胸がざわつく場面――のはずだったが。
「……あら、素敵な色合わせですわね」
視線は服に向いていた。
「でもシルエットが古いですわ。もったいない」
完全に別方向だった。
そのまま踵を返す。
もう彼らの物語に、自分は必要ない。
「わたくしには、わたくしの舞台がありますもの」
⸻
数年後。
王都最大のファッションショー。
中央に立つのは、ひとりの女性。
かつて“悪役令嬢”と呼ばれた少女――セシリア。
「皆様、ごきげんよう」
彼女が手を上げると、照明が落ち、モデルたちが歩き出す。
観客は息を呑む。
誰も見たことのない美しさ。
誰も真似できない完成度。
「これが……新時代……!」
歓声が沸き起こる。
セシリアはゆっくりと目を閉じ、そして微笑む。
「破滅フラグ?そんなもの――」
軽くドレスの裾を翻す。
「布と一緒に縫い直して差し上げましたわ」
その日、世界は認めた。
悪役令嬢は、破滅しない。
――頂点に、立つ。




