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『朝の光』

掲載日:2026/01/12

とりあえず読んでみてください。


朝の光が、障子を透かして、

そっと、部屋の奥へと忍び込んでくる。

何事もなかったような顔をして、

畳の上に、淡い影を落としていた。


けれど、その光が照らすものは、

もう、かつてのそれではなかった。

湯気もなく、声もなく、

器に満たされた静けさだけが、置かれていた。


あの頃──

朝の光は、ひとつの舟の中心に、

囲む者たちの食卓を照らしていた。

笑い声が、湯気とともに立ちのぼり、

それが、わたしたちの朝だった。


舟は、くだっていく。

音もなく、時の流れに身をまかせながら。

岸辺に着いた者から、

ひとり、またひとりと、舟を降りていく。


気がつけば、

わたしひとりが、舟の記憶を宿すこの食卓に、

取り残されていた。


それでも、朝の光は、変わらずここにある。

けれど、その光が照らす食卓には、

もう、誰の影もない。


その不在のかたちが、

わたしの風景を、静かに、かたどっている。


ときおり、心の奥に、

あの頃の談笑が、ふと、よみがえることがある。

なごやかで、そして、どこかさみしい──

まるで、遠い夢のなかの出来事のように。


悔いという名の小石を、

ポケットに忍ばせながら、

わたしは、凍てついた荒野のような日々を、

ひとり、歩いている。


そして、ふと立ち止まり、

あの光景に、そっと、まなざしを落とす。


それは、もう戻らぬもの、

もう届かぬものへの、

終わらぬ葬送だった。





読んでくださった方々、ありがとうございました。

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