告白ラッシュ! でも勇人は――
王都ラズフェリアの夜は、ようやく静寂を取り戻していた。
魔族の襲撃は防がれ、街は平穏を装っている。
だが、地下では依然として陰謀がうごめき、空気は重く張り詰めたままだ。
そんな中、勇人は久々に日常に近い時間を過ごしていた。
「……こんな時だけ、妙に落ち着いてんのな、王都」
騎士団の中庭に腰を下ろし、勇人は空を見上げる。
透き通るような夜空。だが、彼の胸はざわついていた。
(……明らかに、何かが起こる)
敵は王都内部にいる。
密書に記されていたグラムの名前――そして、枢密院。
それを考えながらも、勇人はどこか心が落ち着かない別の理由を、無意識に感じていた。
――今夜、何かが起きる。
そんな察しが、喉の奥でじりじりと燻っていた。
そこへ、足音。
「……ここにいたのね、勇人」
最初に現れたのは、セリナだった。
いつもの騎士団制服ではなく、ラフな私服。
頬を赤らめながらも、真正面から勇人を見る。
「……少し、話したいことがあって」
彼女が持ってきたのは、一杯のマグカップ。
中には、ほのかに香る甘いミルクティー。
「べ、別に、あんたのために淹れたわけじゃないからなっ! ……ついでってだけ!」
「……はいはい」
勇人は苦笑しながらマグを受け取る。
だがその直後、セリナの表情が引き締まった。
「勇人。あたし……あんたのこと、好きよ」
その言葉は、予告もなく飛び出した。
「前からずっと、あんたの言葉に救われてきた……怒ったり泣いたり、あたしが強がっても、ちゃんとわかってくれた」
「セリナ――」
「でも、わかってたわ。あんたが、わかってるくせに、わかってないふりしてるって」
真っ直ぐな視線。
勇人は、それを逸らさなかった。
「今だけは、察しなくていいから……ちゃんと、聞いて」
セリナの告白は、勇人の胸に突き刺さった。
だが――それだけでは終わらなかった。
「――勇人。あなた、ここにいたのね」
続いて現れたのは、エイリンだった。
光を浴びた白衣の裾が風に揺れる。
その笑顔は、演技ではなかった。
「ふふ、なかなかいいタイミングで来たみたいね」
「……エイリン?」
「セリナ。あなたの言葉、ちゃんと届いたと思う。でも、私も……負ける気はないから」
エイリンが勇人に向き直る。
「あなたが私の嘘を見抜いてくれた夜、私、決めたの……もう、自分に嘘をつくのはやめようって」
勇人は目を見開く。
エイリンの瞳は真っ直ぐに彼を射抜いていた。
「だから、ちゃんと言うわ。私はあなたが好き。嘘でも演技でもない、心からよ」
空気が震える。
セリナとエイリン――ふたりの視線が交差する中で、さらにもう一人の足音が加わる。
「……私も、言いたいことある」
そう呟いて歩み寄ってきたのは、ルーナだった。
黒銀の髪が月明かりに照らされ、静かな瞳が勇人を見つめていた。
「勇人……ありがとう。ずっと、優しくしてくれて……言葉、うまく出せないけど」
彼女はゆっくりと拳を握り、胸の前で言葉を搾り出すように続ける。
「……私、あなたのこと好き」
それは、誰よりも短くて、誰よりも真っ直ぐな告白だった。
三人のヒロインたちが並び立ち、それぞれに勇人を見つめていた。
その視線の重さは、軽くない。
それは――未来を委ねる本音だった。
沈黙のあと、勇人はゆっくりと口を開いた。
「……ありがとう。全部、伝わってきた」
「じゃあ……どの子を選ぶの?」
セリナが、一歩、勇人に詰め寄る。
エイリンも、ルーナも、固唾を呑んで見守っていた。
だが、勇人は――首を横に振った。
「今は……答えられない」
「え?」
「お前たちの気持ちは、全部嬉しい。でも、俺は本音が見えてしまうからこそ、軽く答えたくないんだ」
苦笑が滲んだ。
「言葉にすれば、誰かを傷つける。本当は、その先にある選択の覚悟が、まだ俺には足りない」
「……勇人」
「だから、答えを出すのは――最後まで、全部が終わったときだ」
セリナは歯を食いしばりながらも、頷いた。
「……あんたらしいわ。いいわよ、それまで待ってやる」
エイリンも笑みを浮かべる。
「むしろ、全員が本気だってわかった今、ますます競争は激しくなるわね」
ルーナは静かに勇人を見て、こくんと頷いた。
「……信じてる」
勇人は、そんな三人の姿を前に、深く息を吐いた。
(……だから俺も、迷ってちゃいけない)
その夜、情報屋クラリッサから一通の文書が勇人のもとに届いた。
そこに記されていたのは、王都枢密院内部に潜伏する裏切り者の名前――
《ロルフ神父》
エイリンの育ての親であり、彼女を偽りの聖女に仕立てた張本人。
「まさか……っ!」
エイリンがその名を見て、膝をつく。
「勇人……お願い、彼を止めて」
勇人は頷いた。
この戦いは、恋の勝負でもあり――
本当の信じる者を選ぶ戦いでもあるのだ。