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第参幕(その二)

物語の所々にオリジナルシリーズに出てきた登場人物や小ネタを含みますので、

オカ研の旗のもとを先に読んでいただきましたらより一層楽しめていただけます。

沙織と綾乃が翠と由香を背負い路頭に迷っているころ、銀世界に染まった丘には黒い軍用ヘリコプターが音も無く着陸した。

「すっごい・・、荒れようね・・」

ヘリコプターの自動ドアが開き最初に降り立ったのは特殊部隊班長、升池真夢だった。

「これじゃぁ、捜索するのが大変だぜ」

後に続いて降りてきたのは同じく特殊部隊隊員、マーティン・ビシェップだ。

「とにかくサンプルを集めましょう」

女性班長は小型の特殊な箱を取り出し、雪のように積もった結晶をすくい出していった。

「ところで何でまた俺たち二人だけの任務なんだ」

男性隊員は愚痴のように不服を言っている。

「人手不足と人件費の問題よ」

女性班長の言い方は本音とも冗談とも取れる。

「こんなに広い面積じゃ、ひと苦労だぜ。時間がいくらあっても足らないよ」

男性隊員は最初からヤル気0(ゼロ)だ。

「それをするのが今回の任務でしょ!さっさと始めなさい!」

そう言いながら女性班長も空元気である。

「あら・・、あの大きな建物は何かしら・・。ヘリコプターのレーダーには映ってなかったわ」

銀世界の靄で霞む視界の悪いなか漂い歩きながら作業をしていると、しばらくして女性班長が天に上るような大きな影に出くわした。

「マーティン。こっちに来てみて」

女性班長が男性隊員を呼び寄せ二人してその“塔”へと足を運んだ。

「土台の造りからいって何かのデカい“塔”だったかんじかな?かなりの高さがあったみたいだぜ」

男性隊員は巨大な土台となる四本の足場のひとつの真下から見上げている。

「しかし残念な事に半分以上は崩壊しているわ」

女性班長は特殊なゴーグルを付けて真上を見上げている。原型を留めずグチャグチャになった姿は雪のような結晶が霧のように覆いかぶさっていた。

「もともとの姿はどういったものだったんでしょう?それに何の目的でこんなものを・・」

女性班長はデータを記録した。

「例の物体はこいつを目掛けて突進してきたんじゃないのか・・?」

男性隊員が何気に言った。

「それか、気付くのが遅れてブレーキとアクセルを踏み間違えたのかもね」

女性班長も何気に返した。誰しもが同じことを考える。しばらく二人は“塔”を探索した。

「見て!真新しい足跡が残っているわ」

女性班長がくっきりと残る踏みつけられた足跡を発見したのは間もない頃だ。

「サイズからして女二人・・、まだ子供だな」

男性隊員が指で寸法を測った。

「正しく今さっきまでいたって感じね。しかもこんな所で何をしてたのかしら・・?」

女性班長は写真を撮りデータを残した。

「そして何処に行ったか?だな・・」

男性隊員は付近を見渡している。

「その女の子たちを探しましょ。何か分かるかも知れないわ。一旦ヘリに帰るわよ」

女性班長は荷物の入ったリュックを背負い直し、もと来た道を歩きだした。少し行くとヘリコプターの影が蜃気楼のように見えてくる。ようやく近づくと・・。

「あーーっ!今まであった最新鋭のヘリがいなくなっているぅーー!」

いまの今まで待機していた莫大な金額が掛かったであろう軍用ヘリコプターは忽然と跡形もなく消えていた。


ところで、沙織と綾乃はゆく宛もなく山道を彷徨い歩いていた。

「つかれたよぉーー、おなかへったよぉーー」

翠をおんぶした沙織は疲労と空腹で悲鳴を上げている。

「この道だと麓まで下りれるはずなんだけどなぁ」

沙織の後に続く綾乃は由香を背負い一抹の不安を抱えている。遠く長く続く一本道が気を滅入らせる。

「なんだか段々と急勾配になってない?」

沙織の上る坂道の傾斜が凄い。

「見知らぬ誰かさんを背負っているからそう感じるのよ」

綾乃も足を踏ん張りながら坂を下りている。

「綾乃はタフねぇ、あたしゃもうクタクタだわ」

沙織の重い足がようやく坂の上に差し掛かった。

「私だって慎重に歩いているわよ」

下り坂に足を取られ滑らないようにして歩く綾乃がため息と一緒に言った。

「んっ!?何かおかしくない??」

沙織は会話のバランスの悪さに気付いた。・・その時。

「沙織~、悪りぃなぁ~」

背負っていた翠が沙織の耳元で弱々しく言った。

「わぁー!急に軽くなったー!」

沙織の背中がストンッといきなり軽くなった。

「ちょっとー!沙織!沙織っーー!背中、背中ーー!」

沙織の真後ろを歩く綾乃が途轍もない悲鳴を上げ叫んでいる。

「ひゃーー!この子!べろーんと皮だけになってるぅー!」

沙織の背負っていた翠の体が裂け、大きな殻の分厚い卵のようなものが産み落とされた。それはネバネバとした粘液質に包まれドスンという音と共に地面に転がった。

「綾乃ー、あんたってひとはー」

次に由香が綾乃の耳元で気だるく囁いたと思うと、同じくドスンッと重いものが地面に落ちる音がした。

「ちょっとちょっと!綾乃も!」

沙織はヘラヘラと皮だけになった翠をおんぶしたまま大声で言った。

「あぁーー!こっちも脱皮状態になってるぅー!」

同じ様に急に綾乃の背中が軽くなったと思いきや、背負っていた由香がヒラヒラと紙のように折りたたまれたかと思うと、翠と同じく皮だけになってしまった。

「また卵ができているわ・・」

「卵というより隕石ね・・」

二人はしぼんだ翠と由香を背負ったまま、その不可思議な卵のようなものを眺めていた。

「これからどうしよっか・・」

「あの二人の亡骸よ。持っていきましょう」

少しすると二人は皮だけになった翠と由香をまるで風呂敷のように広げ卵のようなものを包み込み肩に担いだ。

「これも執行部への手土産よっ!」

「どんどん森の奥深くに入っていくんだけど、ほんとにあってる?」

「道は一本しかなかった筈なんだけどなぁ」

途方にくれていると、空の上から昆虫の羽音のようなモーター音が聞こえてきた。

「なにっ!あれっ!大きな丸い球っ!」

沙織と綾乃のすぐ真上には銀色の大きな球体が浮かび、ゆっくりと前方へと進んでいた。

「球はもともと丸いものでしょ。考えている余地はないわ。お空に浮かんでいるあの大きな銀の球について行くのよ」

「長い時間、こんな卵を担いでいるとやっぱり疲れてくるわ」

「リュックサックのようにして背中に背負えばいいのよ」

綾乃は器用に皮だけになった由香の体を縛り、リュックサックにしていた。


「あっ!あんなところに民家がある!」

「ほんとポツンとね」

二人は最後の力を振り絞り、玄関をドンドン叩いた。

「開けてー、入れてー、泊めてー」

沙織はここ一番の大声を出した。

「どなたじゃな?」

そう言って出てきたのは初老の男性だった。

「先に何か食べさせてー」

いちはやく沙織と綾乃が二人して玄関めがけてなだれ込んでいった。


一方、特殊部隊の二人も道に迷っていた。

「コンパスも利かない場所で本当にこっちであっているのかよ」

男性隊員は女性班長の後を追いあぜ道を歩いている。

「大丈夫。私たちの空の上には水先案内がいるのよ」

ニコニコと笑っている女性班長の指差す二人の頭上には、ゆっくりと飛んで行く大きな銀色の球体があった。・・つづく。

沙織「上り坂と下り坂どっちがいい?」

綾乃「どっちも嫌」

沙織「風呂敷の使い方も知っていれば便利よね」

翠、由香「風呂敷じゃないって!」

全員「次回、10月5日土曜日更新!」

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