第弐幕(その四)
物語の所々にオリジナルシリーズに出てきた登場人物や小ネタを含みますので、
オカ研の旗の下を先に読んでいただきましたらより一層楽しめていただけます。
気がつくと四人とも姿勢を正しく机に向かい椅子に座っていた。
「どうしてよ・・。まるで金縛りにあっているように立ち上がられないわ・・」
沙織の顔が強張り口元だけが動いている。
「まるでお尻から根っこが生えているみたいだわ」
由香が力づくで立とうとしたが無理だった。
「それはみんな後ろからしがみついているコイツラの所為よ」
綾乃の視線だけが後ろを向いた。そこには得体の知れない影が皆の背中を覆っていた。
「さぁ、皆さぁ~ん。お静かにぃ~、今からはテストのお時間ですよぉ~」
少女が教壇の机に向かって指揮棒をバンバン叩いている。
「勉強-ーッ!嫌らーいぃ!」
翠が頭を掻きむしった。
「あなた達は、そんな私が嫌がる事を平気でやってきたのよっ!さぁ、もっと嫌がりなさいっ!」
少女は、ほくそ笑みながら指揮棒を湾曲に曲げている。
「国語のテストだわ・・難しい漢字がいっぱい!」
沙織の前にテスト用紙が降ってきた。
「数学の計算なんてチンプンカンプンよっ!」
由香の顔にテスト用紙が飛んで張り付いた。
「なんで私だけ体育の実技なのよっ!」
なぜか綾乃は体操着になっている。
「とりあえず名前だけは書いておくわ」
翠は第一に名前を書くタイプだ。
「あなた達が嫌っているテスト勉強で苦しみなさぁ~い。テストが終わるまで私の仲間の“グリーングラス”がその席から立てないようにしてますからね。トイレなんかを理由に逃げ出さないようにしてくださぁ~い」
少女は嫌味っぽく明るく笑いながら言った。
「“グリーングラス”・・?どこかでチラっと聞いた言葉ね・・」
沙織の頭の中に?マークが広がった。
そう言いながらも四人は文句を垂れながらテストに向き合った。そして時間が経つにつれ・・。
「ひとつの言葉でも表現によって漢字が違うのね。なんだか勉強がたのしくなってきたわ。楽しくて愉しくて仕方がないわ」
沙織はレベルがアップしてややこしい漢字を書くことが好きになってきた。
「すべては数学で決まるのよ。もっと方程式や幾何学式を使って宇宙の謎を紐解きましょう」
由香もレベルがアップして小難しい計算式が好きになってきた。
「体力が付いて鈍った体が引き締まったわ」
綾乃のレベルゲージも上がり体重が軽くなっていることを実感した。
「なんだか私たちの体の横に付いているゲージとコメントが何かのゲームっぽいわね」
由香は少し目障りのように付きまとうレベルゲージを振り払っている。
「あっ!カンニングしてるぅー!」
そこに沙織は翠の不審な行動が目に入った。
「うるっさいっ!わね!ちょっと出来るようになったからって舞い上がらないでちょうだい!少しは陽子の気持ちも考えてあげなさい!」
翠は大胆にも辞書でカンニングをしている。
「やっぱし!私たちの仲間だとか言っておいてっ!おかしいと思ったわ。あなた!陽子とグルなのね!」
由香の気だるい声が教室に響いた。
「あなた達と仲間だってことは確かよっ!」
翠は少女とグルだということは認めているようだ。
「また皆んなして私の好意を踏みにじってーっ、私をのけ者にするのーっ!」
少女は指揮棒をへし折った。
「そうじゃないわ。あなたをどうのと言う事じゃない。私たちは今のこの嫌な状況の場面でも真剣に向き合ったからよ」
沙織のテスト用紙は30点だった。
「人間関係も同じ。クラスの皆んなに興味と関心を持つことが友達になる第一歩よ」
由香が見せたテスト用紙は35点だった。勉強好きになってもどちらとも点数は上がってはいない。
「もういいっ!私だって好きで引き篭っているわけじゃないわ!幽霊はもう死んじゃっているけど、妖怪は人間と同じ様に生きているのよ!」
少女は人間が知らない別の世界から転校してきたらしい。
「やっぱり妖怪だったんだ・・」
由香はテスト用紙を紙飛行機にして飛ばした。
「あの時・・、あんな事がなければ・・、皆んなと仲良く出来ていたのに・・」
悔しい顔をした少女の脳裏を嫌な思い出が通り過ぎったようだ。
「そういった悔いのある場面もあってもいいと思うわ。だってその時の状況で思った通りに出来ない場合があるじゃない。それに・・、後悔の念が残るっていうのは、その場の自分自身がそれが大事な瞬間だと気づいていないんだから」
綾乃はタオルで汗を拭きながら少女を説得した。
「ここにいる私たちはあなたの事を毛嫌いしているなんて思ってもいないわ。なんせ周りの皆んなは他人の事なんか構っている暇なんてないの。ほんとほったらかしよ!現代はそれだけ忙しい時代なの。誰しもが自分の事だけで手一杯、精一杯なのよ」
沙織も少女に同情している。
「いい事教えてあげようか・・。何年後かの未来の自分を想像するの。そしてその未来の自分が現在の自分の姿を観てどう思っているか?を想像して感じて欲しいの。あれ・・、なんだか過去にも同じことを言ったような気がするわ」
由香はどうも昔の記憶が引っ掛かる。
「どんなに足掻いても、その瞬間は戻ってこないわ。だからこそ、その悔しい気持ちをバネに良い思い出に変えて、これから失敗しないようにしていけばいいのよ。そうよ強い自分になりなさい」
翠は少女を元気づけようと頑張った。
「もう!どいつもこいつもっ!うるっさいわねっ!私の事などほっといてよっ!」
そう言って少女はそっぽを向いて魑魅魍魎たちと暗がりに消えていった。
「もう、ひとの言うことを聞かない子ねっ!」
沙織はふくれっ面になった。
「それにあなた。そんな陽子と仲良くなっちゃって意気投合して感化されちゃったんじゃないのっ!」
自由に体が動けるようになった由香が翠に詰め寄り怒っている。
「あの子の気持ちに胸が張り裂けて、私が庇ってやろうと思ったのよ」
翠が弱々しい表情になった。
「情けない。それで本来の自分の気持ちや感情を取り込まれてしまったのね」
沙織は翠が少女の妖術にやられたと思い込んだ。
「そうよ!自分らしい強い意志を持っていなくちゃ駄目っ!」
綾乃が最後に翠に一言で締め括った。
「ねぇ、見て!私たちの机の上に花が添えられているわ」
沙織が何気に振り返った本来の自分の机に悲しげな物が置かれている。
「今まで無かったのに!それに素っ気ない瓶の中に一輪だけよ」
綾乃も意味深な顔を浮かべている。
「どういうこと??」
由香が首を傾げた。
「その答えは最後の上の階にあるかもしれないわ」
翠が物悲しい花を見つめて言った。
「早速いってみましょう」
また沙織を先頭に四人は教室を出ていった。
三階に続く廊下の角の階段を上がると、そこにはまた通い慣れた通学路である山道が広がっていた。
「またいつもの道ねぇ~」
沙織の足が自然と前に歩いていく。
「季節的には穏やかな秋の気候ね」
綾乃は秋の空気を一杯に吸い込みまた自然と歩いている。今はちょうど通学時間だろうか、行き交う他の学生たちも学校に向かっている。
「なんやかんやで歩いていると遠くに学校が見えてきたわ。私たちも行きましょう」
沙織は手に持ったすすきを学校に向けた。
「ちょっとまって!このまま学校に戻ったら宇宙人さん連れてこれていないよ」
綾乃は肝心な事に気が付いた。
「それもそうよねぇ・・。だけど、また下の階に戻っても学校の中だし・・、それに妖怪の巣窟よ。宇宙人なんて人っ子一人見なかったわ」
沙織は立ち止まり考え込んだ。
「あなた達が思っている宇宙人って実は人間と隠れて生きている妖怪かもね」
横にいた翠が冷静に語りだした。
「妖怪は妖怪よ。宇宙人とイメージが違うわ」
沙織はそれはそれと考えている。
「由香はどう思う?・・あれっ、由香がいない・・」
綾乃が振り返ると、少し離れた所にしゃがみ込む由香の姿があった。
「どうしたの?由香・・」
綾乃が由香に駆け寄った。
「私もあの陽子と同じ様にこの“塔”に引き籠もるわ・・。なんだかこの猫も私に懐いてるし・・」
すると野良猫がニャーニャーと鳴きながら由香の胸の中にしがみついてきた。
「私があの檻に居たのも、入れられたんじゃなくて自ら望んで入っていったのよ」
カミングアウトした翠がまた冷静にそして大胆に語りだした。
「いきなりっ!突然の告白ねっ!」
沙織は慌てた表情で翠の顔を見た。
「#&*+`~=|$"^-\/,・・・」
すると翠の目が尖り理解できない意味不明な言葉を喋りだした。
「また!いきなりっ!どちらの惑星の言葉ですかっ!」
沙織は何が起こっているのか状況の展開についていけない。
「あれはなにっ!」
綾乃が指をさす上空には大きな銀色の球が学校に向かいゆっくりと飛んで行った。
人は皆、邪悪の根源なり。災いの種なり。大基より懴悔して悔改めよ。誰しも幼き頃は悪魔の心なり。そして次第に大きくなるにつれ愛情が生まれるなり。しかしまた反面に良い子ではいられなくなる。現代、我々は時代という名の群衆に感化されながら窮屈に生きて暮らしている。・・第弐幕おわり
沙織「グリーンピース・・?」
綾乃「いやっ、違うと思う・・」
由香「翠は何のテストだったの?」
翠 「お絵かき・・」
沙織「いきなりですがここでクイズです!」
由香「撫でるとゴロゴロいうのよ」
綾乃「すばっしっこいのよ」
沙織、由香、綾乃「答えをどうぞ」
翠 「yあ 間 N意 埜 b於 レ」
沙織「正解!」
沙織、由香、綾乃「次回、9月21日土曜日更新!」
翠 「 ~∥〝$’》≪?%」