第弐幕(その三)
物語の所々にオリジナルシリーズに出てきた登場人物や小ネタを含みますので、
オカ研の旗の下を先に読んでいただきましたらより一層楽しめていただけます。
はしごを登る先頭の沙織が最上段に足をかける時、頭に何かが打つかった。
「いたーいぃ、何がどうなってんのよっ!」
「先頭が前に進まないなら、こっちも真っ暗で何がなんやら分からないわよっ!」
二番目に後を追う由香が気だるく金切り声を上げた。
「誰か明かりのひとつでも持ってきていないの!」
次にはしごに足を掛けている翠が残念そうに溜息を付いた。
「いつも儀式に使っているロウソクよ」
最後に綾乃が火の点いたロウソクを手に走って持ってきた。翠、由香と順番に最後に沙織とロウソクが手渡され、沙織が照らした天井部は木で覆われ閉ざされていた。
「ここまで来たんだから、それを押し上げてみなさいよっ」
「何であなたに言われなきゃならないのよっ」
翠にけしかけられ、沙織がその木をゆっくりと押し上げると、いとも簡単に口を開き、そこから生暖かい空気が吹き込んできた。沙織が恐る恐る顔を覗かせると、暗闇のなかロウソクの小さな灯火に照らされた空間は、これまた勝手知った馴染みの自分たちの教室が目の前に広がっていた。
「なんだかこの“塔”の中は私たちの学校の生活感いっぱいだわ」
一番に這い上がった沙織がロウソクを照らしながら“教室”を見渡した。
「なんかそのままよねぇ」
沙織の横から翠が顔を出し手に持った禿びたロウソクに火を灯した。
「あっ、このまえ机に落書きした由香と噂の彼氏の相合傘まである」
綾乃が由香の机を灯すと削った相合傘がくっきりと残っている。
「彼氏なんかじゃないわよっ!」
そう言いながら由香はそれをハンカチで優しく綺麗に大事そうに拭いている。
「今度は皆んなして私をいじめる気っ!」
教壇の前に立った同じ学校の制服を着た年頃の髪の短い少女が四人を睨みつけ立っていた。
「わっ!幽霊!?それとも座敷わらし!?」
その声に驚き沙織は目の瞳孔が開いた。
「どっちかと言えば幽霊より座敷わらしのほうが可愛げがあるわ・・」
由香はダルそうに死んだ魚の様な目をしている。
「どっちも同じ様なもんじゃん」
翠は関係なさそうに落ち込んだ目で見た。
「それはちょっと違うわ、幽霊は怖いイメージだけど座敷わらしは愛着があるじゃない」
そう言う綾乃の目は活き活きしていた。
「もしかして妖怪の“陽子”ってあの子のことかしら?」
沙織は下を向き由香と綾乃にボソボソと小声で伝えた。
「今度は妖怪扱いするつもりーっ!」
少女は地獄耳である。
「陽子、陽子と先っきから引っかかってんだけど・・。“陽子”ってどこかで聞いた名前なんだけどなぁ」
由香が過去のクリスマスの記憶を遡ったがなかなか出てこない。
「そうよ!あなた達皆んなして“引き篭もりの陽子”って陰口叩いている私が“陽子”本人よっ!」
少女は教壇の机を力強くバンッと叩いた。
「そんなの今が初のご対面だし、端っからいじめられているなんて知りもしないわ!」
沙織がトバッチリをくった顔で跳ね返した。
「学校っていう場所わね!他人の悪口を言いにくる場所じゃないのよっ!勉強しにくる場所なの!」
少女はもうヒートアップして話など聞く耳を持たずだ。
「あのぉ~、ひとの話聞いてるぅ~」
綾乃が少女に優しく問いかけた。
「何よっ!その!ひとを馬鹿にした言い方!それとも小馬鹿にしているの!」
まったく少女は意見も聞かず頭に血が上って収まりがつかない。
「そうよっ!この三人だって私の事なんてまったく覚えていないのよっ!」
なんだか翠も少女に加勢している。
「なにっこのひと!陽子って子を挑発して火に油を注いでいるのよ!」
沙織が慌てて翠の口を抑えた。
「こうなったらあなた達に私の辛い思いを知らしめてあげるわ!」
少女がそう言うと暗がりの教室のいたる所から魑魅魍魎が蠢き出し四人に迫ってきた。・・つづく
沙織「いるのよねぇ、いきなり自分がリーダーっての」
翠 「だから部長だといいているでしょ!」
由香「妖怪の“陽子”って覚えやすいわね」
綾乃「私たちの名前のほうが覚えにくいわ」
全員「次回、9月14日土曜日更新!」