第弐幕(その一)
物語の所々にオリジナルシリーズに出てきた登場人物や小ネタを含みますので、
オカ研の旗の下を先に読んでいただきましたらより一層楽しめていただけます。
この日いつもの三人組は朝早くからハイキング気分な軽装でロープウェイに乗り込み、いま巷で有名な“塔の丘”と言われている噂話の場所へ向かっていた。そこは過去に“もしかしたら宇宙人の基地では!?”といった、これまたタブロイド紙で有名な学校新聞にも載ったくらいだ。
「今度の文化祭は宇宙人を連れてくるのよっ!」
沙織がギューギュー詰めのロープウェイの籠の中で喚いている。
「“宇宙人の基地”って確信もないし、そもそも“塔の丘”ってどんなのかも分からないし・・」
綾乃の体がひしめきながら身動きが取れない。
「だけど根拠が無かっても頑張らなくっちゃ駄目なのよねぇ~。学園執行部からの圧力が掛かっているんだもの・・」
由香が窓硝子にへばり付きながら独り言のように気だるく言った。
「そうよ!今回の文化祭のテーマである“宇宙人との握手会”でアイツ等をビックリさせて、吠え面をかかせてやるのよ!」
燃える沙織の勇姿が狭い籠の中を蒸し返させている。
「私たちの存続が掛かっているんだからねっ。だけど駄目もとでもいいじゃない、他の別の手でいけば・・」
綾乃の不安な顔から汗がひたたり落ちた。
「駄目もとだったら駄目じゃない!執行部の具の音も出ないようにしなきゃ!」
沙織の熱意は最高潮に燃え上がっていた。
「そうよ!問答無用で部員を50人も増やせって嫌がらせしてきたのよっ!こっちも黙っていられないわっ!・・だから・・、宇宙人なのよっ!」
由香も滅多に見せない感情をぶつけたが、一瞬だった。
「気持ちは分かるわ・・。そうよねぇ、私たち三人だけだし、顧問の先生は登校拒否だし、それに同好会だし・・」
綾乃は二人の熱気にのぼせてダウン寸前でいる。
「しっかし!このロープウェイ長いわねぇ。朝早くから乗り込んで、もうお昼近くにはなるわよ」
沙織が窓を開け顔を出した。
「発着場も無人駅だったのも珍しいわね。しかも自動で動いたしぃ」
由香の覗く開けた窓の後から湯気が外の空気に立ち込めた。
「そんなとやかく言っていると終着駅が見えてきたわよ」
湯気だった綾乃が前方を覗き込んだ。
長い時間ようやく駅に着き何気に自然と降りた三人だが、狭く感じられた観覧車の様なロープウェイの籠は大きな銀色の球だった事には誰も気にも止めなかった。
駅を出ると回りの山々を一望できるパノラマの景色が広がり、そしてそこから見下ろすと広大に広がる草ひとつ生えていない丘が三人を待ち受けていた。
「まさに歴代の先輩たちが書き綴った古もん書に載っていた様な場所ね」
綾乃の体からはまだ湯気が出ている。
「もしかして“塔”ってあれじゃない・・」
由香が怪訝な表情で指を差した。そこには、ぽつんと場違いなお寺などにある三重の塔がその存在をあからさまにしていた。
「空気が読めないわねぇ・・。宇宙人ってそうゆう趣味をお持ちなのかしら・・」
綾乃の言うように、らしくない日本特有の建物になっている。
「分かっているわねぇ~。此処に住む宇宙人は見る者を和ます“和”の精神の持ち主なのよ」
沙織は宇宙人たちを優遇して誇らしいと思っているようだ。
「多分だけど違うと思う・・」
由香はいつもはなっから否定から入ってくる。
三人は居ても立ってもいられなくなり、勢いよく急勾配の崖を滑走と滑り降り、その和風な“塔”の真ん前まで全速力で走り込んだ。
「間近で見るとやっぱり大きな建物ねぇ」
綾乃がその“塔”の真下から真上を見上げた。
「たのもぉーー!」
沙織がいきなり今日一番の大声を上げた。
「そんな急に返事も返ってこないし、誰も出てきやしないでしょ」
人気を感じない空気を読み由香が気だるく力なく言った。
「開けぇ~、ゴマッ!」
沙織がまたいきなり同じくらいの音量で大声を上げた。するとこれまた突然大きくギギぃ・・と、きしむ音を立てながら門が開いた。
「お主、やるわね!」
由香がニヤリとしながら感心した。
開いた門の前には何段かの階段があり沙織を先頭に続いて中に入っていった。三人が入ったと同時に門が閉まり、そこは何も見えない真っ暗な空間で埃とカビの臭いが充満していて鼻を突いてきた。
「真っ暗で何も見えないわっ!」
「この事を正しく漆黒の闇というのね」
「時期に目がなれるわよ」
最後に由香が気だるく言ったように次第に目が慣れてきた。するとそこには部屋のような作りになっており、視界が鮮明になるにつれ脳の認識の感覚が目覚める頃には、勝手知った見慣れた自分たちの部室が広がっていた。
「私たちのアジトそっくりだわ!」
綾乃が拍子抜けしている。
「そっくりというよりそのものよっ!」
沙織は部屋じゅう隅の隅から見回した。
「まさか時空の歪みで振り出しに戻ったんじゃないでしょうねっ!」
由香の頭の中の嫌な予感が止まらない。
「そんな事より早く私を助けなさいよ!」
突然、少女の大きな声が飛びかった。三人は一斉に、これまた反射的にその方向へ目を向けた。その軋めいた声は部屋の奥隅にある“コトリバコ”の檻の中から聞こえていた。・・つづく
由香「いつもギリギリに追われているわね」
沙織「余裕かませない性分なのよ」
綾乃「ところで私達って三人だったかしら」
翠「私はどこに行ったのぉ」
全員「次回、8月31日土曜日更新!」