第壱幕(その一)
物語の所々にオリジナルシリーズに出てきた登場人物や小ネタを含みますので、
オカ研の旗の下を先に読んでいただきましたらより一層楽しめていただけます。
この日のいつもの四人組は、朝日がもうそろそろ昇ろうかというまだ薄暗い時間から大きなリュックを背負い、まるで標高何千メートルもある山を目指し遠征登山でも始めようかという様な勢いの格好で、裏山の裏山のまた裏山のあまり他人が足を踏み入れた事の無い様な前人未到の道なき道を登り詰めていた。時には背丈を超える雑草をかき分け、時には切り立った断崖絶壁を乗り越え、難解不落のあぜ道を四人ともが全く一言も喋らず、ただ黙々と前へ前へと向かって歩くだけの単純作業が長々と続いている。長く厳しい時間が経ち、お日さんが真上になろうかというころ、ようやく目の前に開けた道が出てきた。四人は汗だくの体でハァーハァーと肩で大きく呼吸をしながら、その目的である場所を確信した。もうあとは残った体力を絞り出し、ふらつくおぼつかない足取りでおたおたとゴールを目指した。
「何よこれ!頭の中のイメージと違うじゃない!」
ようやく誰よりも先に第一声を上げたと思えば、怒鳴り散らして怒っているのは部長であり、まとめ役の鷹塚翠だ。しかしオカ研は、まだまだ同好会であるが・・。
「なぁーんだ・・、まるで電信柱ね・・」
その横であっけにとられた顔をしている早乙女沙織は情熱派。無我夢中でオカルト心に火が付いたら一直線である。
「だから、あまり期待しないのがいいのよねぇ」
唖然と立ち尽くす飾磨由香は批判的論者。どういう状況でもいつも冷静な眼差しで物事を見て気だるい声で皮肉を言う。
「だけどてっぺんを見て!大きな丸い球が乗っているぅ~」
慌てて皆をけしかけヤル気を起こそうと電信柱の頭上を指差した栗須川綾乃は図書係も務めるまさにオカ研の頭脳である。
その四人が目指したゴール地点は円柱形の正しく見るからに電柱といった感じの殺風景なものだった。しかし・・少し変わった所と言えば、その細長い柱とは対象的に、先端には巨大な銀色の球体が乗っていたのだ。
「騒ぎ立ててる噂話の蓋を開けてみれば・・。これじゃ、なんだか気の乗らないオブジェね」
由香の気だるい声が何もないだだっ広い丘に響き渡った。
「宇宙人の基地はほど遠い話ね」
沙織はいきなりあきらめムードに突入した。
「それより問題は誰が何の為にこんな殺風景な場所にこれを立てたか?よっ!もう少し探ってみましょう!」
綾乃はがっかりした内心とは裏腹にまだ必死に何かにすがり付こうとしていた。
「もう私たちのオカ研も終わりだわ・・。長い時間を掛けてようやくこの場所を特定したっていうのに!こんな事ってあるっ!」
翠は既に絶望的だった。
数ヶ月前・・。
とある日の放課後。四人組はいつものように文化祭での出し物について、あれやこれやと言い合っていた。
「今度の文化祭の私たちの出展は凄いわよぉ。宇宙人を此処に連れてくるのっ!」
“宇宙人との握手会”と書かれたホワイトボードの前に立つ翠が威勢よくホワイトボードをバンッ!と叩き鼻高々と言い切った。
「驚きーっ!それで何か当てはあるの?」
翠を正面に長机を前にして沙織はいつものようにワクワクしている。
「なんだか今回は今までと比べ肩に力が入っておりますなぁ~」
由香は薄ら笑みを浮かべ気だるい声で言った。
「そりゃそうよ!私たちオカ研の存続が掛かっているんだから!」
綾乃の声が裏返り甲高く部屋中に響いた。
「あぁ、最近出来たばかりで急成長を遂げている私たちと似たようなクラブ(・・・)の所為ね」
由香は長机に肘を付き寝そべり思いに耽った。
「“ホラー探究部”っていう私たちの二番千住のような名前だけど・・。そりゃぁ~、向こうはれっきとした“部”でありんさぁ~!・・で、部員数は15人も揃っているそうよ」
また綾乃の声が部屋中に膨れ上がった。
「私たちの方が老舗なのにぃ~。それもこれも学園執行部の入れ知恵の差し金よ!悔しいわぁ!」
イライラとした翠の爪がエゲツない音を立てホワイトボードを引っ掻いている。
「それで!また私たちに部員数を10人に増やせと言ってきた訳よ!執行部の奴ら本気で私たちを潰しに掛かっているみたいね!」
沙織が膨れっ面になった。
「オカ研は~、いまのところ私たち以外に幽霊部員の先輩と本当に幽霊の後輩だけだもの・・。実質、活動しているのは私たちだけよ・・」
綾乃は悲しげな顔になった。
「そこで言ってやったわ!文化祭の出し物で目玉が飛び出るようなものを見せてやるから、それでちゃらにしろって!!」
翠は勝ち誇った気であった。
「それでまた何故に宇宙人?」
由香は首を傾げた。
「知らない?一時期流行にもなった巷で噂の宇宙人の秘密基地。私たちの住んでいるこの辺らしいよ・・」
綾乃が由香の耳に手を当ててコソコソ話をした。
「らしい・・、なんとも曖昧な・・」
由香の気だるい声が増した。
「しかしそうでもなさそうよ。これこれ!戸棚の隠し戸から出てきた資料によると先代の大先輩方々も調査していた様よ」
翠がボロボロになったノートを持ち出した。
「どれどれ、バイオス・・?」
沙織がページを捲り読もうとした。
「そこじゃなくって!ここよ。“塔の丘”」
翠が終わった話をぶり返すなといった口調になった。
「なにかと事細かく書いてあるわねぇ。なになに“草木も生えない禁忌地帯にぽつんと目を引く場違いな塔が立つ。それは未知なる者が建てたこの世には存在してはいけないもの。宇宙の根源となるもの。”・・・これって!どういうこと??」
沙織はまさしくチンプンカンプンだ。
「宇宙人の造った建物だもの想像もつかないわ・・。だけど私の予想だと未知との遭遇的な綺羅びやかなものに違いないわ」
翠はホワイトボードに自分の想像した“塔”を絵心のない絵で描いている。
「つまり・・、行ってみないと分からないって事ねっ!」
翠の描いた落書きのような“塔”を見て綾乃がひらめいたように言った。
「それじゃ手分けして、その場所を探り当てるのよ!」
ホワイトボードに書かれた絵心のない“塔”に赤丸を入れ、翠の声に力が入った。
「エイ!エイ!オッー!」
四人はやる気全開で大いに盛り上がった。
元に戻って・・。
「その結果がこれなの・・。悲しくなるわ・・」
翠の力が入らない声に加え溜息まで出た。
「まだ時間もあることだし辺りも探りましょうよ・・」
綾乃がへたり混んだ翠の腕を引っ張り元気づけた。
「綾乃ちゃんはまだ元気ね・・。もうお腹がグーグー鳴って力も出ないわ・・」
沙織と由香も地べたに倒れ込んだ。
「あ、ぁ、綾乃ちゃん・・。zu・zu・zu・zuーーー」
綾乃は悪寒と同時に体を支えるエネルギーも切れ、お腹がグーグー鳴ってきた。
「君たちはこんな所で何をしておるのかね?」
四人とも目を回してへたり混んでいると、突然、初老の紳士が後ろから現れ声を掛けてきた。
「どうか私たちにおめぐみをぉ~」
・・つづく
翠「宇宙人連れて来ないとまた私たち危ないわよ!」
沙織「しかし翠は絵が下手ねぇ」
由香「ほんと私たちギリギリで生きているわね」
綾乃「それより誰よ、綾乃ちゃんって言ったの!」
全員「次回、8月10日土曜日更新!」