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第一話という名前であるところの第一話
この部屋は何も言うべきことの無いそれであって、明るくも暗くもない壁の色と、せめてもの天井。これには電灯が無い。物が無い代わりに人がいて、それが調度としてやっと機能していた。ここまで言ってもこれが部屋であるとするのは、ひとえに彼女のおかげであった。
どうせ寝ていたのであれば何も見てはいないから、ここがどこであっても同じだろう?と揚げ足を取られた気になって、意地を張り未だグルグルと見回している分に、やはりこの四角は素晴らしく単純で、私の想像力において事足りている印象である。つまり印象が無い。
既にもう別の場所にいるのかも知れないが、気付かない。ようやく飽きて、幸運にも会話の条件として与えられていた例の少女を探してみると、彼女が床に平行であることに気が付いた。見落としていたのである。純粋な見落としがそのゲシュタルトを生み、今まさに、殊更に、特筆すべき点がこの部屋に現れた。
簡単に済ませておこう。私がいないのであれば、この部屋には少女とベッドだけが用意されてあって、私は小一時間それを眺めていたのである。