怪談
「幽霊を見た。ほら、あそこにいる。」
顔と名前の付いた友人は私の指さした方を見る。
そこにいたのは幽霊ではなく、所謂普通の美少女であったという様な話であるらしかった。普通の美少女はどこにでも一個以上が要請される例のあれであったから、私は信じなかった。
以てただ今、有りがちな一切の噂話をすっ飛ばして、彼女は私の方へと走り寄ったかと思えば、有りがちではないところの首チョップを与えてくれた訳である。有りがちなのかも知れない。
そうして、いたはずの友人は消えていて、いつの間にか埃っぽい密室の対談が既にここに在ったというのなら、元より何も、誰も言う必要の無いことであったのだろう。
私はそれと直立で向き合って、100人いた見物人が居なくなるまでは動かなかったらしいが、これも後の話である。
少なくとも伝聞型が過ぎ去るまでのこの今は、何が面白いのかが理解出来ぬこの今で、私といえば或る種の記憶喪失であるらしかった。皆が愛してくれるそれであるらしかった。
言うべきは密室というのが屋外に位置していたかも知れない可能性であり、つまり私の一切の寝言が聞かれていることへの病的な危惧である。
何度も言うがこの今、未だ終わっていないこの今に、目の前の少女は何者でも良いが、どうして私がそれの恋人であって、どうして周りには誰もいないのかと、これを尋ねるべき真っ当な友人はさっき消滅したのである。
「おはよう。幽霊。ネタバラシをしてくれ。」
ここまでで夢中遊行は一応終了し、次から記憶喪失です。