微睡みにおける雑多な幻覚の自動記述の例
この章は本編のストーリーに関わらないただの文章です。
もっとも本編のストーリーが存在していたらの話ですが。
「面白いことに、ちっとも面白くないがその通りなんだ。」
最終的に彼は彼一人を部屋に残し、冷房は依然として有る。微笑むだけ微笑んで、まだ立ち上がらない。
まだ立ち上がらない。さっき百年ぶりに睡眠検査が終了し、忌々しいか愛おしいか、どちらかの吸盤を、少なくとも可哀らしいナースの手によって、外しあぐねているのはナースが…か。
「いいや、ナースは死んだ。」
だから十分ごとに外していこうと決意された最初の手が、たった一本、モノラルイヤホンを外して終了する。
「ああつまらない。おはようございます。」
と事実、声を掛けて欲しそうだったクリーム色の卑猥なドアが、椅子の直角よりも若干前のめって起き上がった彼の首にその分だけ接近し、それを見てしまって態度を変える。
「いいさ…いいさ。私の趣味は人型であるし、用の有るのはお前の背後……」
それを言ったからか言わなかったからか、あと十分もしたならば、言っても言わなくても同じなあのヒト形は入ってきた。
今時流行りのサナトリウムの模倣品に赴いたはいいが、別にここはそれではないし……何でもない。当たり障りの無い名前の部室は、どうやらそれとして目的を隠しているふうでもなかったから尚のこと、言う必要が無い。
「コーヒーがね、苦いんだよ。」
その新しい人物が言う。
「どういうつもりなんだろう。」
その新しい人物が言う。
そんな気はしていた。だからという訳ではないが、
「どういうつもりも無いんだよね。きっと。」
するとやっぱり、
「なら大丈夫か。」
二人が言った…後。
その「大丈夫」について文句の有るのは、他でもない彼であるが、どの彼であるかを覚えていない為に、これ以降彼は全く以て一人であると言わなければならない。