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灰色の記憶と紅い秘密  作者: 天音タク
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事件の解剖 -悠華-

 二〇二三年 一月十日 火曜日 午前九時 事件発生後日 警視庁にて――


 警視庁捜査一課理事官の宮口と部下の徳本は、事件発生から一日が経ったある日、事件後に行方不明となった「稲崎悠華」という少女についての情報を整理していた。彼女は私立高校を全焼させ、六〇〇人以上の犠牲者を出した犯人であるという疑いが持たれていた。しかし、彼女の背景は謎に包まれており、動機も不明であった。


 徳本は被害者や目撃者の証言を整理し、悠華が十六歳の少女であること、そして彼女がその学校に通っていたことがわかったこと、放火にはガソリンと思わしきものが使われた可能性があることを宮口に報告した。


「そうか……。それで、彼女が犯行に至った動機については分かっているか?」

「まだ、情報が揃っていない状況です。ただ、周囲の人たちの話によると、彼女は事件よりも前から不登校になっていたようです。あっ、こちらが今回まとめた資料です。」

「あぁ、ありがとう」


 徳本は宮口の机に書類を置き、一礼してからその場を去った。


「不登校か。何か精神的苦痛があったのかもしれないな」


 宮口は口を噛みしめ、資料を手に取った。その紙に書かれた情報はあまりにも少なく、用紙の半分にも達していなかった。宮口は資料を置き、立ち上がった。彼女の行方をつかみ、真相を明らかにするためにも時間は待ってくれないと思い、彼はさらに多くの情報を集めることにした。


 宮口は徳本と部下を連れて悠華の家の家宅捜索を行った。悠華の部屋を含め全ての部屋を捜索したが、家庭環境に少し問題がある可能性があった以外、これといった手がかりは見つけられなかった。


 数日後、捜査チーム彼女の母親に話を聞くことができた。母親は悲しそうな表情で「家では大人しくしてました。私たちの言うことに反抗もせず、何も言わずに従っていました」と話した。捜査員たちは、このことに驚きを隠せなかった。彼女が事件を起こす前に、母親に何かしらのサインを出していたのではないかと疑っていたためだ。結局この日も事件の決定的な証拠は見つからなかった。


 だが捜査が進むにつれ、悠華の背後にある真実が徐々に明らかになっていった。彼女は都内の公立高校の入試に失敗し、最低候補となっていたこの高校に入学したことがわかった。しかし、彼女がそこで待ち受けていたのは、あまりにも残酷な現実だった。悠華はいじめにあっていたというのだ。それは日常的なことであり、周囲からの冷たい視線や、罵声が彼女を襲っていた。そして、彼女はその苦痛を誰にも訴えることができず、孤独な闘いを強いられていた。


 宮口と徳本は、この事実に驚愕した。彼らはいじめが悠華を追い詰め、最終的に犯行に至らせたことを悟った。だからといって、主犯である悠華を見過ごすことはできない。宮口と徳本は、捜査を進める中で、様々な情報を集めることに努めたものの、事件から数日が経っても悠華の行方だけは分からなかった。


 その後二人は、会う約束をしていた心理学者に会ってきた。その人によると、悠華が事件を起こした背景には、様々な要因があったのではと言った。彼女がいじめに遭っていたこと、受験失敗による失意、そして何よりも、自分が受けた不公平な待遇に対する怒りや不満が、事件を起こす原因となった可能性があった。また、悠華がどのような心境で事件を起こしたのかについても、予測される情報が集まった。彼女が孤独感や自己否定感を抱えていた可能性があること、そして自分自身を追い込むような思考回路に陥っていたのではないかという結論に至った。さらに、彼女が家庭では自分の感情を抑えていたことも、事件を引き起こす原因の一つになったのではないかという指摘があった。彼女は家庭でのストレスを解消するために、外で攻撃的な行動を取ってしまったのかもしれないとも話した。二人は心理学者に礼を言って再び捜査に着手した。


 しかし、捜査は頓挫し、悠華の行方は未だに分からなかった。宮口と徳本は、彼女を見つけるために全力を尽くしたが、結局のところ、彼女がどこにいるのかは分からなかった。彼らは、事件の真相を解明できずに悔しい思いを抱えながらも、同様の事件が二度と起こらないように、今後も警察活動を続けることを誓った。


 事件から半年が経ち、宮口と徳本は引き続き彼女の捜査にあたっていた。都内だけでなく、隣接する県にまで捜査を広げたが、彼女の行方は未だに分からなかった。宮口は、自分たちが捜査していることを公表するため、警察庁の広報担当者に連絡を入れた。その結果、たくさんの情報が寄せられた。しかし、その中には信憑性が低いものも多く、捜査の手がかりにはなり得なかった。宮口は、事件の捜査を諦めることはできなかった。彼は、悠華がどこにいるのかを探し続ける決意を新たにした。同じような事件が二度と起こらないよう、彼女を見つけて責任を取ることが必要だと思っていたのだ。


 それから数週間後、宮口と徳本は学校全焼事件当日に欠席していた悠華の同級生に話を聞くことができた。しかし、その生徒はなんと、悠華をいじめていた人物だった。宮口は、彼女に事件発端の詳細を聞き出した。すると彼女は事件前に悠華が置いていた手紙をスマホに残していたといった。その写真には「近いうちにこの学校を燃やしてやる。イタズラなんかじゃない。嘘だと思うなら、この手紙は捨ててもらっても構わない。だけど、私は『本気』だから」という文字が刻まれていた。


 宮口と徳本は、その手紙に書かれていた内容に驚きを隠せなかった。手紙を見た彼らは、悠華が事件当日に何を考え、何を感じていたのか、理解することができた。悠華はその手紙を置いた時点で、自分が犯行に及ぶことを決意していたのかもしれない。そして、彼女が置いた手紙は、その意思を決して曲げないという強い決意が込められたものだったのだ。宮口は深いため息をついて語り始めた。


「これは稲崎が犯人であると裏付ける決定的な証拠になるはずだ。だがもし……もし誰かに強要されて書かされて犯行に及んだとしたら……」

「……」


 徳本は何か言うべきだと思ったが、言葉が見つからなかった。


 続けて二人は、悠華のことについて聞き出そうとした。すると、彼女はまるで自分たちが悪くないかのように言い訳を始めた。


「あたしは悠華をいじめてない。ただあいつの遊び相手になってあげた。私たちは感謝されるべきなのよ。それなのに悠華は学校を燃やして私の友達を全員殺した。恩を仇で返された。あたしたちはあいつと一緒に遊んだだけ。それがいじめなの? あたしが悪いの? あたしは友達を殺されたんだよ? そんなのひどい……! あいつ……許さない!!」


 彼女は部屋から出て行った。宮口は、彼女の言葉に胸が痛んだ。自分が担当する事件に関わりを持っていた人物が、こんなにも無責任であることに憤りを感じた。徳本は彼女に対して怒りを覚え、彼女を追いかけようとしたが、宮口に止められた。その後、彼女はしばらく戻ってこなかった。


 二人は今後の捜査方針を話し合うために部屋を出た。彼らには、この事件の真相を解明するだけでなく、同様の事件を未然に防ぐためにも、更なる探求が必要だという強い意志があった。


 その後、宮口は再び心理学者に話を聞きに行った。悠華がいじめられていたことも原因で、心に深い傷を負っていることを知った。


「悠華さんは大変な人生を歩んできたようですね。劣悪な家庭環境や学校環境、人間関係、そして今後の人生にも絶望したのでしょう。それが引き金となり、このようなことを起こしたのでしょう」

「ですが、このような事件を見過ごすわけには……」

「当然です。ですが、彼女を見つけた際には注意してください。もしかしたら、すべての人間が敵だと思っているかもしれません。攻撃や抵抗をする恐れもあります。ですから彼女と話すときは、しっかりと心に寄り添いながら話をしてください」

「……わかりました。ありがとうございます。」


 宮口は部屋を後にした。捜査課に戻ってこのことを伝えると、少なからず共感の声も上がった。しかし捜査チームは学校を全焼させた上、生徒や教員を含む六〇〇人以上を犠牲にした罪が重大であると認識しており、決して手を緩めることはなかった。事件発生からさらに数か月が経ち、捜査は続けられていた。警察署内では、捜査員たちが悠華の行方を追っている情報や、事件当日の証言などを交換していました。捜査の進展はなかなかなく、焦りが募る中で捜査員たちは再度、周辺地域を徹底的に捜索した。しかし、悠華の行方はそれでも分からないままだった。

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