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94 ヴァンパイア事件の被害者

よろしくお願いします

彌田茉子・・・シークレットダンジョンに潜んでいたヴァンパイアに襲われた被害者の一人

 四月。


 彌田茉子は、高校二年生に進級した。


 彼女は、冒険者である。しかし、今それを続けようか岐路に立たされていた。


 彼女は、数日前まで病院のベッドで治療を数人の女性達と共に受けていた。彼女らは、ヴァンパイアの被害者である。


 ヴァンパイアは、冒険者パーティの女性のみを拉致し、他メンバーは『ナリソコナイ』にして、石城周辺を徘徊させた。拉致された女性は、生娘かそうじゃないかに分けられ、生娘じゃなければ血を一滴も残さず飲み尽くし、生娘は大事に生かして保存していたのだという。


 彌田茉子は、吸血鬼に血を吸われる事無く、掛けられた魔法も魅了のみだったため、すぐに退院することができた。長期退院を余儀なくされたのは、血を吸われた女性達だろう。


彼女達は吸血鬼にされることはなかったが、噛まれた際に血に混じり合った吸血鬼の呪いが体を汚染している状態だ。


あのまま吸血鬼の石城で噛まれ続ければ死ぬか、吸血鬼になっていただろう。


今回の事件は、世間に口外されることはなかった。事実、冒険者パーティがモンスターに襲われて全滅することは珍しくなかったし、吸血鬼に襲われたというレッテルは、女性達の今後の人生に傷が残ると考えたからだ。


ヴァンパイアというモンスターは、強さ的にいうと手強いが脅威ではなかった。確かに物理攻撃が効かないという強みがあったが、白魔法使いの魔法で強化すれば物理的な攻撃も通じるし、対抗できる弱点も多いからだ。ヴァンパイアの脅威はその噛みつけられた人間は吸血鬼化するの一点にあり、人類側がもっとも危惧すべきことでもあったからだった。


彌田茉子は、両親と仲が悪く疎遠な関係を続けていた。


 少しでも早く家を出ようと考えていた矢先、友人から手っ取り早い金儲けの方法として、冒険者になることを勧められたのだ。正直、危険な冒険者になりたくはなかったが、体を売る仕事には就きたくなかったため、誘われるままにダンジョンに入る決意をした。


 自分に合った冒険者パーティに入れるアプリに登録して、自分と同じような仲間達と出会うことができた。ちなみに茉子のジョブは魔法使いだ。


 男三人、女性二人という編成で、全員彼女より年上だったが、チーム間も良好で、ダンジョン攻略も順調に進んでいた矢先だった。


 ヴァンパイアの結界の中に誘われてしまったのは。


 男三名は、『ナリソコナイ』に襲われて血肉を喰われ、もう一人の女性は、吸血鬼に血を吸われて、集中治療室で治療中だ。


無事戻れたのは、彌田茉子一人となってしまっていた。


 魅了によって状態異常に陥った茉子だが、気がつけば救助され、病院のベッドの上だった。


 現代医療に加え、白魔法使いとエルフによる治療を受けた茉子は早期退院できたわけだが、問題は病院での治療費と入院費だった。


 しかし、それも問題なく解決した。


 茉子がいたパーティのリーダーが、『入って万全!ダンジョン保険』に加入していたからだった。


 昨今低級ポーションさえあれば、切り傷、骨折や打ち身程度ならすぐに治るし、治癒系を得意とする魔法使いがギルドにいれば、大怪我しても数秒後には全快することができるため、保険に入らないパーティがほとんどだ。


 しかし、リーダーの強い勧めもあり、茉子のいたパーティは稼いだ金の一部を保険に回していたのである。結果、茉子は保険金を手に入れて、治療と入院費を支払うことができたのだった。


 茉子はこのまま冒険者を辞めようと考えていた。


 助かったのはいいが、パーティは全滅。もしかしたら自分もその中に含まれていたかもしれないと考えると、怖気が襲ってくる。


 このまま加入しているギルドも辞めて、冒険者を引退してもいいかもしれない。


 そう頭に過ぎった時、一人の少年が目に止った。


 制服からして、自分と同じ新二年生だろう。


 だけど、茉子はその顔に見覚えがあった。


 それは茉子がヴァンパイアの魅了によって支配されていた時、一匹の白い大型犬と二体の美しい亜人を連れた少年。彼はもう一体、矛を持った美少女を召喚し、ヴァンパイアの魅了の束縛から解き放ってくれた恩人。


「同じ高校の生徒だったの?」


 少し信じられなかったが、自分と同じように学生で冒険者になっている人も多いので、まさしくこれは偶然の産物といえよう。


(お礼が言いたい)


 しかし、人違いという可能性も高くはないし、今回の件は、日本ダンジョン協会から口止めもされている。もし、今回の一件が世間に広まれば、因幡茉子の今後の将来が懸念されるというのだ。


 それだけヴァンパイアに遭遇し、助かるという事例自体、レアケースということなのだろう。


 茉子は今も入院している元冒険者パーティの女性、戸月さんのことを思い出す。


 病室で会った戸月さんは、戸月さんのままだった。しかし、太陽の光を極端に嫌がり、夜になると血を求め、発狂するように暴れ出すという。


 ヴァンパイアに血を吸われたからだと、医者は話す。吸われた血の量は少ないが、吸血鬼に因子は紛れもなく彼女の体を汚染しているのだという。このまま吸血鬼になることはないが、日常生活に支障は出てくることは明白だった。いずれは退院できるが、しばらくは通院が必要とのことだ。


 ここで彼に自分がヴァンパイアの被害者であることを告白しても、マイナスに動く可能性すらありうる。社会は被害者に対して寛容に思えるが、実際は酷薄だ。


 被害者本人の気持ちよりも、自分達の妄想を優先するのが、第三者というものである。


 わかりもしない被害者の気持ちをわかった気になって、加害者を過度に攻撃して、被害者と加害者双方に損害をもたらす迷惑な輩達。マスコミやメディアの盛り込んだ情報に流されて、無関係にもかかわらず、まるで関係者のように口を挟む他人。


 茉子自身が想定している以上に、茉子の置かれている状況は深刻ともいえる。




(まさか、同じクラスだったとは)


 彌田茉子は、自分と自分を助けたと思われる少年が一緒のクラスという事実を知る。

 考えてみれば、同じ冒険者なのだし、当然の流れともいえる。


 現在、ダンジョンが出来て以降、一攫千金を狙って冒険者の数は急増している。皆遊ぶ金欲しさや、冒険者になってダンジョンに潜ったことを自慢したい連中の溜まり場となっているのだ。


 とはいえ、茉子自身も金銭目的で冒険者になったので、物言う立場ではないが。


 そのため、冒険者となった学生は、ダンジョンに長期潜ることが多いため、学校を休みがちになることが多い。学校を休めば当然授業内容に遅れが生じるため、他生徒にも影響が出てくる。そのため、冒険者をひとまとめにしたクラスが出来て当然といえば、当然であった。


「よお、彌田」


 席に着くと、彼女を冒険者に誘った空根木が声を掛けてくる。


 彼は、一年時は別のクラスだったが、中学は一緒であり、なにか良いバイトはないか探していた茉子に、冒険者を勧めた人物である。空根木自身は、彼女を自分が所属する冒険者パーティに入れたかったようだが、他メンバーに反対され、結果茉子は別の冒険者パーティに入ることとなった。


「なによ、ネギ」


「噂で聞いたんだけどよ、お前のいたパーティが全滅したってマジ?」


 やはり、その話しが出てくるかと、茉子は覚悟していた。


 彌田茉子が在籍していた冒険者パーティがなんらかの事故に巻き込まれた事など、調べなくても噂にはなる。


「そうよ、モンスターに襲われて、一人は入院中で、他は・・・亡くなったわ」


「やっぱマジか!どんなモンスターに襲われたんだ?どこで?」


「あんた、私にトラウマを思い出せと?」


 茉子は強く睨み牽制する。


「あ、いや、そうじゃなくて、だな。す、すまん」


 彼女の眼光に萎縮する空根木。


「お、お前さ」


「なによ」


「冒険者辞めないよな?」


 空根木の言葉に、茉子は息が詰まる。仲間をあんな無惨な形で失い、さらに空根木が知っているということは、茉子がいた冒険者パーティがなんらかのモンスターに襲われて、全滅したことは知れ渡っているだろう。


 このまま冒険者を続けていてもリスクしかないのだ。




 放課後、答えがみつからないまま、彌田茉子は乙橘勇大に話しかける決意をした。


 席を立ち、教室から出て廊下を歩く彼に声を掛ける。


「あ、あの、乙橘くん・・・」


「なに?」


 とくに特長といえる特長はない風貌。見た目、どこにでもいそうな学生である。


「わ、私、彌田茉子。この間は、どうも、あ、ありがとう。私達を助けてくれて」


「この話しは秘密にされてますよね。ここで不用意に喋らないほうがいいかと」


「じゃあ・・・」


 彌田茉子と乙橘勇大は、人気のいない校舎裏に回る。校舎裏には問題対策として監視カメラが設置されているが、生徒の中にはカメラが映らない箇所を知っている者も多く、茉子もカメラに映らない場所に移動する。


「やっぱり乙橘くんなのね、私達を救助してくれたのって」


「別にいいですよ。ダンジョンで人助けするのは当然だし。それに全員を救えたわけではないですし」


 ダンジョンという危険区域において、冒険者同士が助け合うのは当然という風潮があるが、大抵はうまくいかない。全員が危険と隣り合わせで有り、モンスターに襲われる恐怖、負ける=死が付きまとう以上、戦っている最中に逃げてしまう者もいる。冒険者として生き延びることを優先としている以上、誰もリスクを負いたくないのである。


「確かに仲間のほとんどは死んでしまったけど、私ともう一人は生きているわけだし、あのままいたら、私ももう一人も死んでいたわ。やっぱりお礼の言葉をさせてほしい」


 茉子は頭を下げる。命の礼だ。頭を下げて当然だろう。


「君が僕に話しかけてきたのは、それだけじゃないんでしょう」


「え?」


「君・・・、いや、彌田さんは、このまま冒険者を続けていくの?」


「それは・・・」


 今後のことを考えると、冒険者を辞めるというのが当然の帰結のように思える。お金に関しては、全滅した前パーティが残した保険金が残っている。この金を元手に高校を卒業したら、家を出て行くこともできる。


 彌田茉子はまだわかっていないが、死んだ前パーティのリーダーが残した保険金は多額のものであり、メンバー死後の保険金は、遺族では無く、生き残ったメンバーに渡ることになっていた。


 これだけでも怪しい事が多々あった。


ダンジョンでモンスターに襲われて、パーティが崩壊し、生き残った者だけが保険金を得ることができるシステムは、よくある犯罪の手口に使われていた。


いわゆる保険金詐欺である。


例えば、ダンジョンを探索中の冒険者パーティが、他冒険者パーティに襲われて、モンスターに襲われたと嘘の申告をし、偽装する案件が持ち上がってきており、近く改正する動きが出てきていた。


 茉子がいた冒険者パーティのリーダーは、裏の界隈で名が通っており、コムドレッドのスガチャンとも繋がっていた。もし、このままダンジョンをクリアしていけば、犯罪系冒険者パーティに襲われていた可能性が高かったといえよう。


 しかし、彌田茉子にとっては知るよしもなかった。


「私はメンバーの仇がとりたい・・・。皆良い人ばかりだった。なにも知らない自分にダンジョンについて一から教えてくれたし、つらい時は何度も励ましてくれた。このままなにもなかったで、普通の生活なんて送りたくない」


 それが彌田茉子の本心だった。いずれは年を重ねれば風化するであろう気持ち。数年後には、私はなんて馬鹿だったんだろうと思ってしまう、今の本心。


「そうですか」


「でも、私は乙橘君のようにヴァンパイアを倒せる力は持ち合わせていない。あんな化け物を相手にするなんて、到底無理だよ」


「別に僕のようにするだけが、ダンジョンの冒険じゃないさ。あれは、僕もあのモンスターの結界に巻き込まれて、結果的にモンスターに捕らわれていた女性達を救出に繋がっただけだし。それにモンスターを倒す方法は幾らでもある」


「幾らでもある?」


「例えば白魔法使い」


 白魔法使い。


 回復系魔法に優れているが、攻撃系魔法が劣ってしまうジョブ。死霊やゾンビ系を除霊することに優れているものの、ほとんどの物理系モンスターには役に立たないことが多い。得に問題なのが、モンスターと戦う際、身を守る手段が少ないため、護衛を一人つけなければいけないことだろうか。


 今や日本ダンジョン協会やギルドで、死霊系モンスターが徘徊する区域は特定され、除法が一般に出回っている昨今、ほとんどの冒険者パーティは近寄ろうとしないことが多い。


「ヴァンパイアは、死霊系だ。半人半魔といったほうがいい。白魔法使いが得意とする精神系魔法が効果的だ。もし、今回のように罠を張って襲ってくるヴァンパイアが現れた際、白魔法使いが一番役に立つ」


「でも、早々そんな機会なんて」


 起きるわけない。なにしろ、ヴァンパイアに遭遇すること自体レアなのだから。


「別にヴァンパイアだけを相手にしろと言っているわけじゃないさ。でも、人間の生気を吸い取るタイプや人間をモンスターに変えるタイプは、ダンジョンに潜んでいるのは確かだし。今後役に立つジョブだと思う」


「本当にそう思う?」


「僕は思うけど、後は君次第だと思う。なんなら、エルフに知り合いがいるから、紹介してもらってもいい」



「私は・・・」


 そうだ。今の私は役立たずかも知れない。それでも、少しでもいい、ダンジョン攻略の役に立ちたいのだ。


 メンバーとのダンジョン探索を思い出す。大変だったけど、楽しかったことも一杯あった。あの思い出をヴァンパイアに襲われて、バッドエンドのままにしたくなかった。


「気が向いたらでいい。冒険者を癒やすのも大事な仕事だと思う」


 その後、彌田茉子は、下りてきた保険金を使用し、正式にエルフの弟子となり、白魔法使いとなる。その後、彼女が剣を学び、白魔法騎士となり、最終的には聖騎士になるのは別の話しとなる。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] どこかに説明があったらすみませんが 彌田茉子 因幡茉子 苗字が二つありますね [一言] 続きを楽しみにお待ちしております。 今後もよろしくお願いいたします。
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