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93 人間のモンスター化問題

よろしくお願いします

大久戸文彦・・・日本ダンジョン協会会長

山方郷一・・・コムドレッド捕縛のための即席A級冒険者パーティのリーダー

 日本ダンジョン協会の会長である大久戸文彦は、会長室でギルド『エウメニデス』の社長である津上から、ソロ冒険者の乙橘勇大がD級ダンジョンでヴァンパイアと戦い勝利を収め、拉致された女性冒険者を救助したあらましを電話で聞く。詳しいことは後日直接会って話すという。


 電話を切って、大久戸はソファに腰を下ろす。


(また、乙橘か)


 このところ、全て大がかりな事件は、乙橘勇大が大きく関わっている。


 大久戸は、犯罪者冒険者パーティ『コムドレッド』事件終結後のことを思い出す。


 『コムドレッド』のメンバーはほとんど死に、まとめ役と思われるスガチャンだけが投降という形で終わった。その後の尋問により、彼等はモンスターの違法捕獲や禁止アイテムの密売、そして殺人まで行なっていたようだ。


 すでにマスコミも嗅ぎつけだし、大々的な事件になるだろう。『コムドレッド』の所属していたギルド『ゴルゴン』も警察が立ち入り調査しており、『ゴルゴン』の社長と幹部、それに所属冒険者パーティが捕まるのも時間の問題と思われる。


 後日、即席A級パーティのメンバーに事件の経緯を聞く事となった。その中に乙橘勇大のことも含まれていた。


 彼は心臓を抉られ胸がぽっかりと空きながらも、バーサーカーと化した『コムドレッド』のボウクンこと、黄義英他が自分達を襲い窮地に陥ったところを、乙橘勇大が一人で立ち向かい、倒したということだった。


 最初は半信半疑であった大久戸だったが、録画したカメラの映像を見ると、その態度を改める。


「これは・・・」


 黄義英他は、明らかにモンスター化しており、人間では無くなっている。


 モンスター化した人間は、殺人に該当するかと問われれば、ダンジョンという異界では当て嵌めることができない。


 ダンジョンが現れて三十年。モンスター化した冒険者を日本だけで確認したたけでも、八十を超える。それにはゾンビ化した者、獣人化した者も含まれる。自分からモンスターになる事は稀であり、ほとんどはモンスターに噛まれたり、憑依されたり、呪術による影響が大きい。


 これまでもモンスター化した冒険者を討つことに対しては、何度も国や世界各国で議論されたことはいうまでもない。異形の姿になったとはいえ、人間だったものであり、生きているものを殺すことに対して、それは殺人に値するのか、否か、残された遺族の中には、モンスター化を解くことはできなかったのかと訴える者も多い。


 だが、できるかもしれないし、できないかもしれない。


 しかし、そんな悠長なことを考えている間に被害者が増えていくのも確かなのだ。


 以前、モンスター化した息子を殺した冒険者パーティを訴えた親と、そのモンスター化した息子に殺された冒険者の親が法廷で言い争うことがあった。


まさしく泥沼状態だ。


 これにより、国はモンスター化した冒険者を元に戻す方法と、もし、そのモンスターが襲ってきて捕縛できる状況ではなかったら、倒していい法案を作ることになる。


 国にしてみれば、そんな危険なダンジョンに息子を入れるなと言いたいであろう。


 それでも自衛隊という国の要をダンジョンで大勢失うよりは、ギルドや冒険者に頼りたいというのが実情なのである。


 今回の黄義英他のバーサーカー化は、明らかに救助困難事案だとわかる。ともすれば、即席A級パーティは全滅したであろうことは明白である。


 ダンジョンガーディアンも、警察も乙橘勇大に対し、事情聴取したであろうが、目撃者もおり、録画された動画を見れば、黄義英他はモンスターであり、状況的に討伐する以外に選択枝がないのが明白だろう。


 そして、今回のヴァンパイア事件だ。


 ヴァンパイア。


 人間を襲い自分達の眷属、すなわち吸血鬼化させる忌むべき存在である。


 人間のモンスター化が問題視される中で、その最たるモンスターが、ダンジョンに隠れて、人間をモンスターに変えていたのだから。これは国や世界としてではなく、人類種としての最重要事案である。


 そして、それを討伐し、幾人かの女性冒険者を救ったのが、乙橘勇大だという。


 即席A級冒険者パーティである、山方郷一を含むメンバーは、大久戸や国の役人の前でギルド『コムドレッド』の事件を語ったことがある。


「彼、乙橘勇大は魔力の流れが見えているのだと思います」


「魔力が見えている?それは魔眼や視ることができる魔法の術を持っているということか?」


 実際、魔力というものは、ダンジョン全体に空気や酸素のように存在するものだが、魔法使いや魔術師が魔法を行使すると、その色が見える視えることがある。


「いえ、違います。なんといいますか・・・、スキル、能力のようなものです。現に彼がバーサーカーと戦った際、彼はバーサーカーの暴走した魔力の流れを突き止め、そこに剣で穴を開け、吹き出させたように見えました。まるで風船に穴を開けて破裂させるように」


「つまり、乙橘勇大は、魔法や魔術、魔眼の類を使わずに、本来視ることが出来ない魔力の流れを視ることができると?」


「視るのではなく、感じることができるのかもしれませんが」


「それができるとどうなる?モンスターの弱点を突くことができると?」


「それもできますが、我々はもう一つの可能性を見出しました」


「それは?」


「危険な魔力と危険ではない魔力の査定です」


「ほう」


「ダンジョンの中は魔力で満たされており、凶悪な力を持つモンスターも、強大なエネルギーを有する魔石も魔力を発し続けています。そして、それは今の我々では、強大な魔力としてしか感知することしかできないものです」


「つまり、あれか、強大な魔石を発見したと思ったら、凶悪なモンスターだったというオチになる可能性もある、というわけか」


「ええ。しかし、もし彼が、その魔力の善悪の正否を感じることができ、その流れを掴むことができるのなら・・・」


「なにがどうなる?」


「彼はある程度の苦労で、危機を回避し、レアイテムや魔力濃度の高い魔石や魔宝石を手に入れることができるということです」


「なんだと?」


 山方はある資料を提示する。


「我々は日本ダンジョン協会が集めた、乙橘勇大と、彼が所属するギルド『エウメニデス』についての資料に目を通し、我々なりに推測しました」


「なぜ、彼がここまでレアなモンスターを召喚することができるのか、有名な冒険者とはいえ、津上正愛が作ったギルド『エウメニデス』の躍進はなんなのか、その資金はどこから出るのか、を」


「ふむ」


 それは、大久戸も気になるところではあった。ギルド『エウメニデス』は、公正な取引で濃度の高い魔石や鉱石、魔宝石を売り、莫大な利益を得ている。


 日本ダンジョン協会は、ギルド『エウメニデス』の調査と共に、乙橘勇大の冒険者としての痕跡を追った。彼は幾つものダンジョンで確認されており、本来レベルの低い冒険者では立ち入ることができない、魔力濃度が高すぎて普通の冒険者では発狂してしまうダンジョンにすら姿を見せていることを知る。こういう危険ダンジョンは、国や日本ダンジョン協会のHPにMAP付きで載っており、全冒険者の周知となっている。そういうダンジョンに入ることは自己責任とされ別に違法ではないため、問題はないのだが、信じがたいことではあった。


「おそらく、乙橘勇大は、新人冒険者でありながら、ソロで難易度の高いダンジョンに潜り、魔力の流れを読み取り、凶悪なモンスターの出現を回避し、高価なレアアイテムを乱獲しているものと思われます」


「なんと!」


「津上正愛もそれを知っているのでしょう。だからこその、津上正愛と乙橘勇大という、ギルドの社長とそれに所属する、一冒険者である乙橘勇大との相互の利益関係が生まれているものと思います」


 情報によれば、ギルド『エウメニデス』は、乙橘勇大発案で、津上正愛が尽力して作ったものだという。ちょっとありえない話しだが、乙橘勇大にそのような能力があれば、津上でなくとも、会社を立ち上げようと思うだろう。


「しかも、彼は自身の魔力を操れる可能性があります」


「魔力を操れる?」


「はい。内の魔力を操り、本来適正値を出すはずのレベル鑑定を掻い潜り、レベルの上げ下げを自由に行なうことができるものと思われます」


「そんなことが可能なのか?」


「わかりません。ですが、レベルという概念もダンジョンが発生して得た人類の能力。まだ見ぬ未知のスキルがあってもおかしくありません」


「どうして、乙橘勇大はそのような魔力を感知し自在に操るスキルを得たのだろうな」


「おそらく、彼が落ちたD級ダンジョンにシークレットダンジョンが隠されていたと思われます」


「しかし、あの後調査したが、そのような隠された場所はなかったぞ」


「一人でも入ったら消えてしまうワンオフダンジョンだった可能性もあります。乙橘勇大は崩落した穴から落ち、そこで新たなスキルに目覚めたものと思われます」


「推測ではないか」


 しかも荒唐無稽といえるほどに。この世界での常識が通じないダンジョンとはいえ、それは人間の常識のみにといえる。人間は科学という物差しで地球という生物の棲む惑星を測ろうとしているが、未だに更新されている状態だ。人知を越えたダンジョンだが、なんでもありというわけではないのだ。ダンジョンにはダンジョンなりの法則は存在する。


「推測です。しかし、これが一番正解に近いものと予測されます」


「それを知るには、当人である乙橘勇大に聞くしかないわけか」


 それも難しいだろう。事実、日本ダンジョン協会に所属している冒険者や他ギルドも含め、自分の特殊スキルを秘匿している冒険者は多い。それを上に開示する正直者もいるが、大抵は誰にも話さず、自分や近親者のみの利益にする者が圧倒的だ。


 それほど、ダンジョン攻略は熾烈を極めているということである。


 階層ボスを倒し、誰よりも階層コアに辿り着く。そして、最下層ボスを倒し、ダンジョン攻略という名声を手に知れる。魔石や魔宝石、鉱石、レアアイテムを独占し、億万長者になるのもいい。


 冒険者パーティが他冒険者パーティの足を引っ張るのは日常茶飯事なのだ。中にはギルドとギルドの抗争にまで発展したケースもある。


 彼がどのようなスキルを持っているか、読心や自白の魔術を使用してもよいが、エルフ曰く、あちらにはハイエルフがいる限り、高位魔術のプロテクトが掛けられている可能性もあるということだ。


「だが、まあ、魔力感知や魔力操作できる者が今までいなかったわけではない。特殊ケースだが、予想の範囲内であり、いくらでも対処できる」


 事実、危機察知、魔力探知系を得意といる魔法使いはごまんといる。彼に対してそこまで危険視する必要はないだろう。


 いずれにしろ、津上正愛も乙橘勇大もまだ使えるということである。津上も乙橘も目的はギルド『ギガス』への復讐とダンジョン内での犯罪撲滅だろう。


 津上正愛は、冒険者の頃から有名人であり、彼が常日頃からダンジョン内での犯罪を嫌悪しているのは周知の事実である。乙橘勇大もそのシンパであると考えたほうがよい。


 大久戸は、日本ダンジョン協会の日本におけるダンジョン独占と、自身の地位さえ脅かされなければ、それ以外のことは問題ないのだった。


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