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91 暇つぶしのD級ダンジョン

よろしくお願いします

 僕こと、乙橘勇大は高校の教室で、進学するための単位を得るために補修を受けていた。


 ダンジョンに潜っていると、勉学が追いつかなくなるし、最悪来年も一年生になることもありえる。中間テストも期末テストも赤点ギリギリだったが、なんとかなった。


 この学校はパソコンでオンライン授業もしているし、ダンジョン冒険者の対応にも優しい。今の世の中、ダンジョンで回収する魔石等のアイテムによる、エネルギー問題解消は日本経済の基盤になりつつある。


 災害が起こった際、比較的モンスターが少ない低級ダンジョンに避難すれば、生きている物以外は、ほぼ無限に詰め込めるマジックポケットにより、食料問題、仮設テント、トイレの解消ができる。


ダンジョン自体が災害で埋没してしまう可能性があるが、それは県や市町村が避難用に管理しているため、災害対策と安全管理は万全であり、倒壊しないように補強はしっかりしている。モンスター対策もバッチリといった感じである。


 そんな中、ダンジョンに潜り込む冒険者は、金儲けのために危地に飛び込む命知らずであり、社会基盤を支える調達者である。


 ダンジョン冒険者を希望する者は年々増えてきており、一応義務教育卒業から冒険者になることができるのだが、未成年に危険なダンジョンに潜らせることに反対する団体は一定する存在する。


成人である十八歳から冒険者になればいいという大人の声も上がる。


 しかし、ダンジョンのレベリングシステムを考慮すると、早い年齢からレベルを上げていけば、命の危険性を回避できるというのが、科学者とエルフの言葉であった。


「この世界は魔力値が低く、精々妖精やモンスターを視るか、低級霊を除霊するぐらいが関の山だろう。それではダンジョンでは通じない。成人になってからレベルを上げるには遅すぎる程だ。早い段階でダンジョンに入り魔力を感じ、レベルを上げた方が命を救い、ダンジョンで生き残り戦う術を得ることができる」


 ならば兵器により、ダンジョンからモンスターを一掃し、安全にアイテムを収集すればどうか?


「ダンジョンが認める者は、戦い抗う者だけだ。強欲に物を奪い取ろうとする者には、罰が下るだろう。お前達は海を越えた近隣の国がどうなったか、もう忘れたのか?」


 ・・・・・・・。


 ダンジョンに化学兵器、各種ミサイル、そして核を使用した国の末路は、誰もが知る通りである。今も呪いにより地獄の風景が待ち受けている。


 僕の春休みは、ほとんど補習授業で終わってしまう。実績があれば、補習無しで進学できるんだけど、今でも僕はギルド『エウメニデス』に在籍してダンジョンに潜っているという情報のみで、どのクラスのダンジョンまで潜っているかは不透明のままだ。


 稲実アスカ先輩のようにテレビに出て、ネットに発信しているなら、もう少し便宜を図ってくれるだろう。


 まあ、仕方のないことだ。高校中退だけは控えたいから、今は勉学に集中することにした。




 僕はなんとか二年に進学できる目処がつきそうだった。


 その間、ダンジョン攻略は伸びてしまったが、致し方ないことだろう。


 スマホでニュースを見ると、ダンジョンにおける暴行、殺人、恐喝問題が取り上げられていた。犯罪を行なっていた者が地上を追われ、ダンジョンに潜み犯罪を行なう。


 これについて、日本ダンジョン協会、警察、自衛隊が取り締まりを行なうという。


 とはいえ、ダンジョンは広大で深淵だ。今だ未開な地が多く存在し、シークレットやエクストラな階層が多く存在する。F級やE級ダンジョンではスマホやカメラによるライブ中継ができるが、それ以上の階層では録画しかできないため、犯罪を止めることは困難を極めるだろう。


 それでも動かないよりマシだろうとは思う。


僕は一旦家に戻り、気分晴らしにその足で一番近ダンジョンに向かった。


 この辺りで一番近いダンジョンは、D級ダンジョンだ。


 自転車で15分、D級ダンジョンに着くと、受付け機で身分証の電子カードをスキャンする。これでダンジョン内に入ることができる。


入り口では、数名の若いパーティが出てくるのが見えた。


BWダンジョンにあるダンジョンマーケットで購入したのだろう。


大怪我はないようだが、全員傷だらけの様子だった。


 冒険者の中でも難易度が低いD級ダンジョンでも、稲実アスカ先輩のように友達と一緒に簡単にクリアできるダンジョンもあれば、C級ダンジョン並に困難なダンジョンもある。

 低級ポーションや低位の治癒魔法があれば、軽傷を負ったとしても、すぐに活動を再開できるが、なければ初心者には難しいだろう。


 こういうときはネット情報で、自分達でもクリアできそうなD級ダンジョンを探すべきだと思う。


 僕は、召喚カードを取り出し、モンスターを召喚する。


 オオカミのアマテ・ジ・ロックドアー、セイレーンのメルジナ・ジ・ネレイス、ウェアタイガーのティガ・ジ・ドゥルガだ。


「ご主人様、今日はD級ダンジョンなんですね」


 周囲を見渡してアマテが聞く。周囲の魔力濃度からD級ダンジョンだとわかったようだ。


「ああ、地上での勉強が終わったから、気分転換にね」


「主様も大変ですね。勉強とダンジョン攻略と・・・」


 三つ叉の槍を両手に持つメル。彼女は人魚ではなく、人間の姿をしている。今回はこの三人を連れて、ダンジョン探索をする。


「まあ、勉強も必要だからね」


「勉強よりもダンジョンだろ、ボス。ちゃっちゃと強い奴倒しに行こうぜ!」


 右拳を固めて、左手の平をバンバンッと叩くティガ。しなやかで筋肉質であり、出ている所はしっかり出ている肉体を、動きやすい皮の軽甲冑で包んでいる。


「ティガさん、ダンジョン攻略も大事ですが、地上の勉強も大切なんですよ」


 メルジナが、ティガに向かって言う。


「そうなのかい、先輩」


「わたし達は主様の下で戦う亜人なのですから、メルで良いですよ。

 とにかく、地上で学ぶ事は多いのです。

 と、く、に、少女漫画が素晴らしいです。格好良いイケメンとそれを思い慕う少女の恋愛模様は、それはもうキュンキュンしますし。

 さ、ら、に、少女同士が好きになっていく百合系や、男の子同士が好きなるBL系も、最初は邪道と思っていましたが、試しに入ってみた所、これはこれはもうストライクですで、少女同士の柔肌、男同士の固くしなやかな肉体、見つめ合う目と目、触れ合う手と手、考えただけで鼻血が・・・。ネットで検索が止まらなって、気がつけば朝になるほどですから!」


「あ、ああ、そうなのか?」


 ちょっとティガがドン引きしてるぞ、メル。


「テレビゲームも面白い」


 会話に入るアマテ。


「ゲーム?」


「FPSや、恋愛ゲーム、レーシングや、ロールプレイ、ソシャゲとか、それはもう楽しいもんが一杯あって、ずっと部屋で籠もりたいぐらいです、うひひ」


 素が出てるぞ、アマテ。


「恋愛ゲーム!恋愛ゲームといえば、先週発売した音ゲーとしても遊べる云々・・・」


「MMOオンラインのVRが云々・・・」


 メルとアマテの談義に付いていかなくなって、飛んでいる蝶々を目線で追い始めるティガ。


「まあ、話しはそれほどにして、今はダンジョン探索に向かおう」


「はい、すみません」


「はい、うひひ」


「あ・・・ああ」


 とまあ、こんな感じで、今回はD級ダンジョン探索となった。


 出てくるオークやゴブリンを、メルの三つ叉の矛で突き刺す。人魚とはいえ、BWダンジョンや爺ちゃんのダンジョンで訓練を重ねているだけあって、メルの矛の腕はかなり上がっている。


 D級ダンジョンとはいえ、一日や二日でクリアできるわけではない。今回は本当に息抜き程度に回るだけだった。だけど、一つだけ気になることがあったのは確かである。


「近頃、このD級ダンジョンで行方不明者が出るらしい」


「行方不明者ですか?」


 オオカミのアマテが首を傾げる。


「ああ、近頃、このD級ダンジョンで戻ってこない冒険者パーティが多数いるらしい」


「でも、主様、ダンジョンはモンスターも多く危険な場所です。D級ダンジョンでも命を落としかねません。行方不明の冒険者がいてもおかしくないのでは?」


 メルジナが顎に右手の人差し指を当てて考え込む仕草で言う。


「僕もそう思う。だけど、救助の冒険者が入っても遺留品の一つも見つからなかったし、僕はなにかあるんじゃないかと思っているんだ」


「なるほど」


 メルジナはこくりと頷く。

「じゃあ、ボスはここになにかあると思ってるんだな」


「まあ、それもあるかな」


「確かにこのダンジョンはちょっとおかしいですね」


 クンクンと鼻を鳴らしてアマテ。


「ああ、なんか血生臭い臭いがプンプンするぜ」


 ティガも彼女の言葉に同意する。


 僕もこのダンジョンの異質さに気付いていた。普通のダンジョンに見えるが、それが本物じゃないというか、カモフラージュのような気がするのだ。なんとなくだが、爺ちゃんのダンジョンに似ている。


「皆がそういうなら、このダンジョンはなにかあるかもな。ちょっと調べてみるのもいいのかもしれない」


 そういうわけで、僕達は近場のD級ダンジョン調査を急遽思いつきで行なうこととなった。たまにはこういうのも有りだと思う。


 ダンジョンには空もあり、太陽もある。そしてそこに動物や草木も生えている。しかし、その生物や植物も地上の植物と多少の違いがあった。これはこの世界と異世界との環境と進化の違いにあるものだろうというのが定説だ。


 地上では毒のない果物にダンジョンの似たような果物には毒性が含まれていたり、毒を持つ爬虫類がダンジョンの似たような爬虫類には持っていなかったりと、見た目で判断してはいけないものが多数ある。


 よくある異世界もので、主人公が前の世界で似たような植物や動物を確保し、それを料理したとしても、同じような味になるとは限らないということだ。逆に毒性があり死ぬこともありうる。


 どこの世界でも、モノを食べるというものは、臨床実験により確かめる必要があるのだ。

 ダンジョンの果物を地上に持ち帰っても、魔力のない地上ではすぐに朽ちてしまうため、もし調べるなら、BWダンジョン等、危険性がなく魔力のある場所で調べるしかない。さらに語るなら、階層によって魔力濃度が違うため、果物の毒性も変化することがみられるため、ダンジョンにあるものを食べる際には、注意が必要であるのだ。


 空と雲、太陽がある以上、夜と日中に朝がある。


 そして、雨も存在した。


 ダンジョンでの雨は、好機でもあり、危険でもある。


 雨の音と匂いでモンスターから気づかれにくいというのもあるが、逆に雨を好むカッパやケルピー等の存在にこちらが気づかず襲われる可能性が高いからだ。


 さらに雨は体温を奪い、泥濘んだ土は歩きにくくなり、濡れた衣類は体を重くする。雨風を防ぐアーティファクトを使用すれば、なんとかなるだろうが、気分転換のD級ダンジョンでそこまで使用する気にはなれなかった。


 僕はマジカルバッグから、雨合羽と取り出して着込む。ティガやメルジナは大丈夫と言って拒否していた。獣人のティガや人魚のメルジナ、まんま獣形態のアマテには必要なかったか。


 雨も止み、そろそろ先を行こうとした矢先、オオカミのアマテ・ジ・ロックドアーがなにかに気付く。


「待って下さい、ご主人様。おかしな臭いがしています」


「におい?」


「はい。どうやら雨で僅かながら不穏な臭いが溢れた感じです」


「そんな臭いするか?」


 ティガは気付かなかったらしく、鼻をクンクンさせている。とはいえ、僕はアマテの索敵能力と周囲の警戒を信じている。ここは彼女が感じた臭いのある場所へ行くべきだろう。


「とりあえず、その場所まで行ってみよう」


 僕達はアマテの案内で、臭いのする場所まで行ってみることにした。


 そこは深く昏い森だった。草花や樹木も黒く、ここになにかあると示しているようだ。


「ここまで来るとオレでもわかるぜ。ここにはなにかある」


 クンクンと鼻を鳴らすティガ。


 やはりここに隠しダンジョンがあるわけか。


 僕は少し躊躇する。なにしろ情報が少ない。今まで『ダンジョン超裏技大辞典』の情報に頼ってここまで来たわけだが、今回のはなんの調べもせずの隠しダンジョンである。

 多数の冒険者が行方不明となっており、危険なダンジョンとわかる。そして、この魔力の流れ、邪悪な気配がプンプンである。ここで引き返して、準備を整えてからでもいいのうだが・・・。


 その時には、シークレットダンジョンが閉じてしまう可能性も捨てきれない。


 時期とタイミングにより、ランダムで現れる確率が高いのだ。


 例えば雨が降った後に現れるとか・・・。周期が関係している場合もある。


 僕は召喚した彼女達を見渡す。そして、まだ召喚されていないカードを見る。


 そういえば、僕が『ダンジョン超裏技大辞典』を拾ったのも、『爺ちゃんのダンジョン』で転移してくれる泉の女神に出遭ったのも、シークレットダンジョンだった。


 今までシークレットダンジョンには、幸運が付きまとっていたが、今回のシークレットダンジョンは、明らかに危険性が高く、罠そのものである。被害者も出ている。


 しかし、僕と共にダンジョンを攻略してくれる彼女達が居れば、なんとかなるかもしれない。


「よし。行こう」


「はい!」と、メルジナ。


「わん!」と、アマテ。


「ああ!」と、ティガ。


 こうして、僕達は、このまま隠しダンジョンに入ることになった。


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