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90 奇跡の滴

よろしくお願いします

 ハーフリンクの中にもダンジョンを探索する変わり者もいる。彼は隠密スキルを持ち、前の世界から持っているモンスター除けの腕輪をつけて、自分達の住んでいる階層や他の階層の地図を作っているのだ。


 彼があるダンジョンの奥地である屋敷を見つけた。そこは崖の合間にあり、みつからないように隠されていたのだ。ハーフリンクは恐る恐る屋敷へと入る。屋敷内は、どこも荒らされた様子はなく、比較的綺麗だった。


 ハーフリンクは、なにかめぼしい物はないか好奇心で探していると、幾つかのアイテムと日誌と本を見つけた。彼はできるだけ荷物に詰めて、屋敷を後にした。その後、村に帰ってきたハーフリンクは、屋敷で拾った本を読む。このハーフリンクは異世界の人間の言語にも堪能だった。それは、とある貴族が今まで購入したレアアイテムを盗まれないために、密かにダンジョンに作ったセカンドハウスだったらしい。


 貴族は、誰にも見つからないように少しずつ、自分のコレクションをセカンドハウスに運びこんで、趣味を堪能していたようだ。


 ハーフリンクは、屋敷で見つけたアイテムを村のハーフリンク達と分け合う。彼はダンジョン探索が目的であり、探索で必要なアイテム以外は興味が無かった。


 その中に液体の入った小瓶があった。一人のハーフリンクが、これはもしやと花の妖精を通じて、アンティア・ジ・チアフラワーに報せたのだった。


 僕はハーフリンクの村に行き、その小瓶を見せてもらった。


「これは・・・」


 じっくりと眺め品定めする。それは『ダンジョン超裏技大辞典』に書かれている絵と特長がよく似ていた。僕の隣でハイエルフのパフェ・ジ・スィートも見る。


「間違いないわ。奇跡の泉から採取した『奇跡の滴』よ」


 やはり、これが・・・。


 小瓶の中身の液体が、奇跡の湧き水と類似していることから、間違いないと思う。


「本当にこれを貰っても?」


 僕はハーフリンクの村長に聞く。


「ええよ、ええよ。勇大どんには、いつもお世話になっとるし、儂等がこうして生活できとんのも勇大どんのお陰だべ。代りにもっと儂等を贔屓してくれれば、いうことないしな」


 がはは、とハーフリンクの村長は笑う。


「ありがとうございます」


 僕は頭を下げて、『奇跡の滴』が入った小瓶を受け取ることにした。


 実は奇跡の泉や奇跡の湧き水から汲んで、ただの容器に入れてもただの水になってしまう。それを保管することも難しい。


 このアイテムで、一番のレアアイテムは、この奇跡の滴を保存している小瓶だろう。おそらく高度な技術力を持つ魔術師が容器を造り、幾重もの魔術を掛けて、造り上げた一品だ。この小瓶もまた収穫ともいえる。


 僕は爺ちゃんのダンジョンに戻り、六枚のカードの内、三枚のカードを出す。この三枚のカードには、半人半竜のメリュジーヌ・ジ・エキドナ。純白の毛並みに黒の縞模様の獣人ティガ・ジ・ドゥルガ。そして冥醒の魔女ペルセ・ジ・ナイトウォーカーが封印されており、さらに三つのアイテムが入っている。


 三つのアイテムとは、玄武の甲羅と蛇の牙と鱗、青龍の角と鱗、白虎の牙と爪と鱗だ。

 メリュジーナには青龍のアイテムを、ティガには白虎のアイテムを、ペルセには玄武のアイテムをカードに入れる。


これに『奇跡の滴』をカードに掛けることにより、彼女達は強化されることとなる。


「勇大」


 ハイエルフのパフェ・ジ・スィートが僕に抱きつく。そして耳元で囁く。


「あたしはお前が好きだ」


「パ、パフェ?」


「あたしはハイエルフだが、一族ではポンコツ扱いだった。いざというときしか高位魔術を思い出せないし、得た知識もすぐど忘れする。人間の中ではエルフは奇異の目で見られ、エルフの中でも腫れ物扱いされた。そんなあたしをお前は大事にしてくれるし、あたしの無茶振りにも付き合ってくれる」


「パフェ・・・」


「だが、『奇跡の滴』とカードを使ったアイテムと生物との合成は嫌いだ。たとえ、あたしがいた異世界の技術だとしてもな。そのアイテムの意思に、元の生物の意思が乗っ取られる可能性がある。今までの自分になかった記憶まで混ざる可能性まである。

 お前がどうやって、その知識を得たのかは、あたしはまだ知らない。だけど、あたしは信じるしかない。お前を・・・な」


「痛っ」


 パフェは僕の首筋に強く噛みつき、くっきりと残る歯形を残す。


「これは罰だと思ってかまわないわ」


「ああ、ありがとう。パフェ」


 いろいろ思いはあるようだが、これで許してくれたようだ。痛てて。


 いや、許してくれたわけではない。見逃してくれただけだ。この首の歯形の傷は警告なのだろう。


 僕は召喚カードに『奇跡の滴』を垂らす。


 見た目に変化はない。


 だけど、明らかに魔力値が上がっているのがわかる。


 こうして僕は新しい召喚モンスターを得ることができたのだった。




 冒険者パーティ『ゼラ・ν・ム』のチームリーダー、社マジメはB級ダンジョン六十階層を潜っている。本当だったら五年以上掛かるB級ダンジョン各階層攻略は、順調過ぎるほどに進んでいる。


 理由は二つあった。


 一つは、自分達よりも先にダンジョンの階層攻略している冒険者チームがいる。


 階層攻略の最難関が階層ボス攻略だ。階層コアという強力な魔力に魅入られた強力モンスターを他の冒険者パーティと共にクランを作り倒すのだが、すでに階層ボスを自分達よりも倒している冒険者パーティが存在していることだ。


 階層ボスは一度倒されると、次の階層ボスになろうとモンスター同士で争いが起きる。そこで勝ち残ったモンスターが次の階層ボスになるのだが、倒された直後だと、モンスターは現状把握と他のモンスターがどう動くかで警戒するため、静寂な期間が発生する。


 社マジメは、そのダンジョンが静かな状態を攻略しているため、特に苦戦することなく階層攻略ができているのだ。


 二つ目は獣人との密約だ。


 どうやら国とB級ドキューダンジョンに住む獣人との間に密約が成されたらしい。それにより、以前は危険区域とされていた区域を通れることになった。


 ドキューダンジョンで一番危険とされていたのが、亜竜が棲む階層と獣人が棲む階層なのだが、亜竜が棲む階層は、どうやら強力な亜竜が倒されたらしく沈静化状態、獣人は国との密約で大人しくなっている状態。


 このため、ネームド・ダンジョンであるドキューダンジョンは、他のB級ダンジョンと変わらない、いやより見通しの良いダンジョンと化してしまっている。


 それまで通れなかった階層区域と通れるということは、誰も手に触れることなく埋まっているレアアイテムを回収できるということだ。まず自衛隊や日本ダンジョン協会の冒険者パーティが動き出し、さらに各ギルドの腕の立つ冒険者パーティが動き出すことだろう。

 いずれにしろ、早めにダンジョン攻略しないと、冒険者パーティでドキューダンジョン攻略の冒険者が溢れてしまうことだろう。


「まずいな」


 社マジメは嘆息する。


「なにがまずいんだ?順調すぎるほど順調じゃないか」


 聞いてきたのは重戦士の押田だ。


「そうっすよ。うち等の階層攻略絶好調じゃないっすか。正直、こんなに簡単にドキューダンジョンを進めるとは思わなかったっすよ」


 気楽に応えるのは、弓手の棟本だ。


「順調すぎるのがまずいんだ。ここまで盛り上がりがなさ過ぎる」


「ああ、まあ確かにB級ダンジョンだし、危険な出来事に何度も遭遇したし、手強いモンスターと戦ったが・・・」


「ネームド・ダンジョンって割には、歯ごたえはなかったっすね。もっと全滅決定ぐらいの絶望感はあると思っていたんすけどね」


 押田も棟本も、そして槍使いの香田も、冒険者として、いつA級ダンジョンに上がってもおかしくない程の実力者だ。ここまで幾度も死線を潜ってきたし、生き残ってきた自負はある。B級、しかもドキューダンジョンとして、仲間の一人くらいは失うと覚悟していたが、これでは普通のB級ダンジョンと変わりはなかった。


「これでB級ドキューダンジョンを攻略できたとしても、箔が付かない。今まで録画している動画を地上に戻って流したとしても、視聴者数も微々たるものだろう。それでは意味がない。もっと緊迫した状況がないと誰も喜ばないし、誰にも認められない」


 マジメは、ただの好奇心でダンジョンに潜っているわけではない。今まで失った自身のプライドと名声を取り戻すために、ドキューダンジョンを潜っているのだ。


 ただ単純にドキューダンジョンを攻略しただけでは、ギルド『ギガス』や社会からも認められないし、支援者も付かない。一生A級ダンジョンの冒険者パーティに加えられて貰えないだろう。


「だったら、やるべきことは一つだろ」


 まだなにも喋っていなかった香田が口を開く。


「香田・・・」


「このドキューダンジョンを最速で攻略することだ。そうすれば、誰も文句は言えなくなる」


 香田の言葉に、押田も棟本も頷いた。


 ドキューダンジョン最速攻略。今まで自衛隊でも五年は掛かったドキューダンジョンを、最速三年で攻略するのだ。


 残り半年で、残り二十階層を攻略し、どの冒険者パーティよりも早く階層ボスを倒す。


「なら、そのために越えなきゃいけない壁があるな」


「俺達よりも早く階層踏破している冒険者パーティか」


「いったいどんな冒険者パーティなんすかねえ。こんなに早く階層をクリアしているのに、名前が挙がってこないなんて」


 棟本が訝しむのももっともだった。これだけ早くB級ドキューダンジョンを階層踏破していれば、噂になるだろうに、ネットでも一向に名前が出てこない。


「これは噂だが、本当に信憑性が薄いが、その冒険者パーティに日本ダンジョン協会や自衛隊が支援しているという噂だ」


「マジッすか!?そんなんチートじゃないっすか」


 押田の言葉に声を荒げる棟本。


「チートではない。俺達もギルド『ギガス』の支援を受けている。どの業界も支援が大きいチームが有利なのは、どこも変わらない」


「まあ、そうっすね」


 大きなギルドに所属していれば、多岐に渡るダンジョン情報、優れた防具、武具、アイテムを使用できるようになる。自分達が活躍すれば、ギルドの広告にもなり、支援する企業も現れる。


「今は俺達ができることをしよう。目標は最速でB級ドキューダンジョンクリア。それで決まりだ」


「ああ」


「そうっすね」


「わかった」


 マジメの提案に皆が頷く。ダンジョンで思い通りにいかないことは多い。今、ここで躓くわけにはいかないのだ。


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