89 冥醒の魔女
よろしくお願いします
どんな冒険者でも、つい二の足を踏んでしまうダンジョン階層というものがある。
それが、死霊系が存在する階層地域だ。
主にゾンビやグール等が存在し、幽霊が闇夜に浮かぶ地域。
死霊系は強い弱い関係なしに、相手を恐慌状態にさせて、普段通りの戦い方や思考を麻痺させてしまうのだ。
落ち着いて対処する、という基本に対し、もっとも縁遠くさせてしまうのが、死霊系モンスターといえよう。
ゾンビ等は物理系で倒しきることは非常に難しい。悪霊にしろ、ゾンビにしろ、白魔法による浄化や除霊、退魔効果のある武具、武器でなければ対抗できない。
回復系の魔法を使う魔法使いは多いが、浄化、除霊を得意とする魔法使いは少ない。死霊系モンスターにしか使わない除霊、浄化は需要が少ないのだ。
そのため、それを得意とする白魔法使いを雇うのも、退魔系の武具を購入するのも高額なのである。
では一般の冒険者は、どう対処するのか?
答えは近づかないことである。ギルドや日本ダンジョン協会、ネットでの情報を元に死霊系モンスターが出る区域にはできるだけ近づかない。値は張るが、退魔用より安い除霊、悪霊が近づかないアイテムを購入するしかなかった。
僕こと、乙橘勇大は、その死霊系地域に足を運んでいた。
ゾンビや悪霊の類は、夜にしか現われない。そのため日中に通った方が良い。しかし、その地域に入ると、深き森に霧が覆い、日の光が当たらなくなる。
そこに現れるモンスター、レーシィ。美女の姿をした人を喰らうモンスターである。
旅人を惑わし魅了し、ほいほい付いていった旅人は、明け方死体で発見される。
レーシィの群れが手招きして、こちらを誘惑するが、僕達は低級なら防ぐことができる状態異常不可のアイテムを全員所持しているため、効果がない。効果がないと知ると、レーシィの群れは、凄い勢いでホバークラフトのように、こちらに迫ってきた。
「リリカ、頼む」
「はい。勇大様」
サッキュバスプリンセスのリリカ・ジ・モリガンは歌唱する。その絶大な魅力は、レーシィの群れを一瞬で魅了し、状態異常化させる。
地上やネットで絶大な人気を修めているリリカは、今や超絶的な人気により、誰もを魅了するカリスマを伴う魅了をもっていた。
「相変わらずえげつねえな。ここまでワンフレーズ歌わずに一発だぜ」
「いえいえ、そんな・・・」
「謙遜しなくていいぞ。これでもカフェは褒めているんだからな」
「褒めているとはなんだよ。うちは元から褒めてるんだっつうの!はったおすぞ!」
僕は、ダークエルフであるカフェ・ジ・ビターの事を知っているが、彼女の口調は他の人が聞くと、皮肉にしか聞こえないのが、カフェの悪いところだ。
そんなこんなで、霧深い森の中を進んでいくと、ちょっとした広場に出る。
すると、霧が渦巻くように一カ所に集まり、おどろおどろしい人の顔になる。
(この森になんのようだ)
頭の中に入ってくるような、耳障りな声。霧自体が生き物のように自動で操っているのだろう。
「くっだらねえことしてんじゃねえよ。この森の主に会いてぇから、さっさと出せや」
(貴様の名はなんだ?)
「は?名前を聞かなくちゃわからねえ程ボンクラなのか。カフェ・ジ・ビターが来たと伝えやがれ」
その名前を聞いた途端、霧が晴れて、目の前に大きな木製の屋敷が見える。あまり手が届いていないらしく、かなり痛んだ様子がみられている。
扉が開き、僕達に入れと言っているように感じた。
僕、カフェ、リリカが足を踏み入れると、屋敷の中が一変して研究室のような造りへと変わった。
多種多様のモンスターの死骸が水槽の中に入れられ、剥製や人体模型図のように飾られているのもある。
「久しいな、カフェ。いつ振りか?」
そこにいたのは、二十代くらいの女性だった。身長は高く、出ているところはかなり出て、へこんでいる所はかなりへこんでいるボリューミーなスタイル。かなり整った美人だが、目の隈が少し台無しにしていた。
彼女はいきなりカフェ・ジ・ビターに抱きついた。
「久し振りでもねえだろが。ちょい前に会ったばかりだろ」
「仕方なかろう、ダンジョンではこちら側の人間はおらぬし、話しの通じる亜人種も少ないから、こうやってコミュニケーションとってくれる人って少ないからのう」
「それは、おめえが、ここを探索する冒険者を、死霊共を使ってびびらしちまうからだろ!」
「ここまで辿り着けぬ時点で、お察しであろう。胆力が弱い戦士に興味はないぞ」
「いいかげん離れろや!」
もぞもぞと身体を弄る女性に、無理矢理引き話そうとするカフェ。
「ふふふ。魔王軍にいた頃からいけずよのう」
「お久し振りです。冥醒の魔女」
僕は彼女の呼称を言い、挨拶する。
「久し振りだな。乙橘勇大。今日はどの要件で来たのかな」
彼女は、うって変わって真面目に返答する。
「もちろん。あなたを召喚カードに封印させてもらうためです」




