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84 魔力の流れ

よろしくお願いします。

 アンティア・ジ・チアフラワーは、乙橘勇大と凶戦士の戦いを見守っていた。


 凶戦士との戦いは二度目だ。しかも、前回とは凶戦士の強さが格段に違う。凶戦士になった冒険者のレベルと凶戦士の適性が高いためだ。


 それでもアンティアは、手出しすることなかった。


 花の妖精である、アンティアは魔力を視ることができる。


(マスターは、魔力の流れを感じ、そのルートを把握している)


 凶戦士の攻撃を受け流せるのは、そのためだ。魔力の流れを推測しているため、未来視のようにどこからきて、どう逸らせばいいのかわかっているのだ。


 アンティアは、自分と同じように食い入るように戦いを見ている、白きウェアタイガーの少女を見る。彼女はまるで見定めるように乙橘勇大を見ていた。


 おそらく凶戦士は、あの胸の抉れといい、少女の兄に斃されたのではないだろうか、死の半歩手前で血に飢えた妖精の誘いにのり、自分を殺した白いウェアタイガーとこの少女を間違えている可能性が高い。


 いわば、凶戦士が自分達を襲ってきたのは、必然ともいえるべきだろう。もし、少女の兄が今一度凶戦士と化した冒険者と戦えば、命はないだろう。歴戦のウェアタイガーともいえども対策を立てなければ、疲れることなく、自分の命が尽きるまで再生と暴走を続ける凶戦士を相手にするのは無理だ。


 少女はそのことに気付いているのかはわからない。それでも、少女はこの戦いを見守るだけしかできなかった。


(このままいけば、倒れるのはマスターだわ。相手は疲れることも、痛みを感じることもない、戦う限り傷がすぐ治癒するモンスター。いずれマスターは疲労が重なって、隙ができてしまう。だけど・・・)


 勝つのはマスターだとアンティアは確信していた。




 魔力には流れがある、それは流動的であるが一定の法則のようなものがあることがわかることができた。それが凶戦士の魔力暴走だとしてもだ。ある一カ所に魔力を最大限に込めた一撃を与えることができれば、魔力は決壊し台風や嵐が霧散するように消えていく、はずだ。


 だけど、それは針に糸を通すようなもので、ただの一撃では意味が無い。全力の魔力を突き刺す必要があるのだ。


 何度も改造を施した強固であるライオットシールドが破壊され、無銘だが大事に使ってきた片手剣も限界にきている。僕はひたすら魔力の流れを読んで、その中心の隙を見定める。


 凶戦士の攻撃が苛烈さを増してきており、段々と捉えきれなくなってきている。

 斬ッと左腕が斬られるが、高揚感と緊張感のためか、痛みはない。とうとう持ってきた剣が破壊さ、刃が半分になった剣を僕は凶戦士に投げる。


 ザクッと首に当たり、大量の出血がみられているにも関わらず、出血は止まり、傷は癒えて突き進む凶戦士。だが、その血は彼の視界を奪っていた。


 僕は光の剣クラウ・ソナスに持ち替えて、魔力の流れの中心点、胸の右側、肩の辺りに全力の刺突を繰り出した。


 凶戦士はそれでも、攻撃を繰り出してきており、無防備になった僕に右蹴りする。


「ぐはっ」


 まるでトラックにぶつかったような衝撃を受けて、僕は吹き飛ぶ。当たる前に跳んで衝撃を緩和したはずなのに、その一撃は僕を戦闘不能にするのに充分だった。


(だめだったか・・・)


 半ば諦め欠けた時、ピキリッ異様な音が聞こえ、凶戦士の体がヒビ割れていく。


 人ではあり得ない形に凶戦士は崩れはじめ、終わりを遂げた。


 そこにあったものは、一人の人間であったボウクンではなく、凶戦士と化したモンスターの残骸だった。


『あーあ、やられちゃった』


『つまんないの』


『もっと派手に暴れてくれると思ったんだけどなあ』


 小さい声が聞こえた気がした。僕は、その魔力の流れを読み取り、残り僅かな力でクラウ・ソナスを握り締めて斬って捨てた。




 妖精達は、自分達になにが起こったのか理解できなかった。


 通常、人間達が自分達を傷つけることはできない。自分達は精神体であり、この世界とは隔絶した存在にある。消えたとしても再び現われることができるのだ。今、見えている自分達の姿形は、遠くにあるにもかかわらず、知くにあると感じる蜃気楼のようなものだ。捉えることはできても、完全に捕まえることはできないはずだ。


自分達を殺せるのは幻想界か妖精界の住人しかいないはずである。


 なのに・・・。


 目の前で二人の友達があっさりとやられた。


 本当だったら、人間の剣で斬られてもすぐに復活するはずなのに、蘇る気配がない。完全に魔力の核ごと斬られたのだ。


『うそだ、うそだ、うそだ、うそだああああああああ』


 仲良い友達だった。


 いつも一緒だった。


 一緒に遊び、笑い、ずっと一緒にいるだけで楽しかった。


 これからもずっと一緒だと思っていた。


 しかし、その気配が全く消えていた。


 そして、自分も・・・。


 痛みが走り、自分の核が傷つけられていたことを知る。


『え、うそ?死ぬ?ぼぉく、死ぬ、死ぬの?』


 妖精は不死である存在のはずだ。例え体が滅んでも、一時的なもので、すぐに生まれ変わるだけである。


 なのに、その魂そのものが消失するのを、痛みと共に感じることができた。


『いやだ。


死にたくない。


違うんだ、こうじゃないんだ。


なんでぼぉくが死ななきゃならないんだ。


なにもしてない。


なにも悪いコトしていないじゃないかああああああ。


助けて、助けて、助けて、ごめんなさい。


ふざけるな!


助けて!


いやだ、いやだ、いやだあああああああああああ』


 妖精は完全に消失した。




 凶悪な力が、溢れ出す暴力の衝動が、猛り立つ怒りの原動力が、ボウクンを突き動かす。

 全てを捻り潰し、叩き壊す破壊的衝動。


 むかつくもの、よわいもの、つよいもの、くちだすもの、くちをはさむもの、さからうもの、はんろんするもの、めいれいするもの、いかくするもの、みくだすもの。


 全てボウクンにとって敵だった。いや、敵ではない、壊すべきモノだ。


 ただただ破壊し、自分の言うことだけを素直に聞いていればいいのだ。


 だが、この目の前にいる奴は違った。


 ボウクンの全ての攻撃を受け流している。まともに当たろうともしない。ボウクンはまるで霞に対して叩きつけている印象を受けた。


 剣で人肉を断つ感触も、拳で破壊する重みもなにも感じない。


 これほどつまらない破壊は初めてだった。


 全てのモノは、為べからず壊れる。どこかで聞いた言葉だが、だったら全て捻り潰しちまえばいいが、ボウクンの信条だった。だが、今はそんな感覚はない。


 モノに当たることがないため、ストレスが上がり、苛立ちが増していく。


 だが、それが解消する時がきた。


 奴の持つ盾と剣を破壊したのだ。自分が相手をしているのは霞ではない、生きているモノなのだ。


 しかし、その手にいつのまにか光る棒状のものが、右肩辺りに突き刺さる。その瞬間、風船がパンッと割れるように、自分の中の大事ななにかが壊れたような気がした。


 割れた風船から空気が一斉に抜け出すように、凶悪な力が、暴力の衝動が、怒りが、弾け飛んでいく。


(なんだ、この清々しさは・・・?)


 自分の中に深く深く重く重く溜まっていたモノが一気に弾け飛び、崩れゆく自身の中で、ボウクンは初めての苛立ちからの開放を感じていた。


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