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80 妖精の誘い

よろしくお願いします

「対象が動き出した。我々も動くぞ」


 山方さんは、パーティメンバーにそう言って動き出した。


 僕は彼等とダンジョン捜査をしている間、僅かずつだが徐々に疑念が生まれていた。

 山方さんは、わざとコムドレッドを追うのを遅らせている?


 確かにドキューダンジョンはB級ダンジョンであり、さらにネームド・ダンジョンだけあって難所である。それにしては慎重すぎた。まるで、なにかを待っていたようである。


 そのため、捜査中にある推測ができあがったが、確証はなく彼等の後を付いていくしかなかった。


 ダンジョンのモンスターの動向がおかしい。この階層のほとんどのモンスターが獣人である。無論、他のモンスターも多数存在するが、この階層では、獣人が主と言ってよかった。




『もっと楽しみなよ』


『人を殺したいんでしょ。血が好きなんでしょ』


『暴れて暴れて暴れ回りたいんでしょ』


『相手を屈服させて捻り潰したいんでしょ』


またいつものウザい声が聞こえてくる。


 ダンジョンに入ると、時折俺を操ろうとする声が聞こえてくる。


 ボウクンにとって人生は相手を捻り潰して、怯えさせることだった。


 子供の頃から彼は上から押さえつけようとする輩を誰彼構わず暴力を振るい、屈服させていった。両親は離婚し、親族もいない。ただただ暴力を振るうだけの毎日。


 強い奴だろうが弱い奴だろうが、金を持っている奴からカツアゲし、歯向かってきたり、強い奴を数人寄越してくれば、返り討ちにし、もう歯向かうことがないように念入りに捻り潰す。少年院に入れられようが、半グレや暴力団に目を付けられようが、構わなかった。


 自分はただ、上から押さえつけようとする輩を捻り潰すだけだった。


 俺に逆らう奴は誰であろうと捻り潰す。俺を押さえつけようとする奴、上から目線で見る奴、逆らう奴、目障りな奴、全て力でねじ伏せてやる。


 だが、理不尽なことに俺の命を狙う輩が出てきた。いくら俺でも拳銃や刃物には命を落とす可能性があったからだ。


 そんな時だ。スガチャンに会ったのは。あいつは俺にダンジョンに誘った。ダンジョンであれば、レベルを上げさえすれば、魔力が拳銃や刃物から守ってくれるぞ、と。


 それから俺は、冒険者としてのダンジョン探索が始まった。


 といっても、俺のすることはダンジョン攻略が目的ではない。仕事で見ず知らずの冒険者から身ぐるみを剥ぎ、モンスターをカードに封印して違法売買し、表で殺してほしい奴をダンジョンで殺してモンスターの餌にする。集まる連中も金のためになんでもする奴ばかりだ。俺は俺に逆らう奴、文句言う奴は片っ端から捻り潰し、今の冒険者パーティを作り上げた。


 だが、近頃、ダンジョンに入ると耳障りな声が耳元で聞こえてくるようになった。


 やれ、血を見せろ、だの、暴れろ、だの。


 だが辺りを見渡すと、誰もいない。


 いや、いる!


 小さな羽のついたガキ共がむかつく笑顔を見せながら囁いてくるのが。


 黙れ!俺は誰の命令にも従わない。


 ただ、むかつく奴を捻り潰すだけだ。

 



それはいきなりだった。コムドレッドの索敵能力でも気付かない程の隠密能力で、ウェアタイガーが襲ってきたのだ。獣人にとって、戦いとは狩りである。正面から戦うのは狩りとは呼べない。

 ジョブが剣士であるスガチャンは、剣を抜く。


 スガチャンも冒険者である限り、こういうことになは馴れていた。しかも、今回は来るとわかっていたのだ。


奇襲であれ、強襲であれ、森から、茂みから、木の上から、崖の上から、川から、沼から、モンスターが不意打ちでやってくることは、珍しくないのだ。むしろ正面から襲ってくることのほうが珍しい。


 B級ダンジョンの、そして雄である、ウェアタイガーの攻撃は凄まじく、警戒していたはずの、罠士のゴンの体を爪で切り裂いた。抉るように肩から腰の辺りまで抉られて瀕死状態に陥る罠士。罠を作るというスキルはもったいないが、安いポーションでさえ使う義理はなかった。


 さらにウェアタイガーは、スガチャンと魔法使いのクズオを狙う。


「クズオ!」


「ああ」


 この声掛けだけで、なにをするのか理解できるほどには連携がとれている、スガチャンとクズオ。


 ウェアタイガーの動きは目で追うことができないほどに迅かったが、レベルを190にまで上げたスガチャンは、剣でウェアタイガーの爪を逸らし、袈裟斬りする。しかし、ウェアタイガーが纏っている重厚な皮の鎧に阻まれる。そのうちに、魔法使いのクズオが火炎球を放つ。ウェアタイガーは、潜るように火炎球を避けて、クズオに攻撃しようとするが、スガチャンが阻止する。どちらも後ろ後退し、距離をとって牽制する。


(おいおい、この剣を皮の鎧で防ぐかよ)


 スガチャンの剣は、裏取引で購入した一級品のレアアイテムである。他の冒険者が見つけたエアアイテムの武器を奪ってもいいが、それだと足がつく場合がある。昔の仲間がレアアイテムを拾った冒険者を襲い、それを自分のものにしたが、殺した冒険者が残したスマホには、レアアイテムを持ってポーズした写真があり、さらに日本ダンジョン協会に報告した記録が残されており、それが決め手となって捕まったケースがある。奪ったレアアイテムは闇市場に売り飛ばしたほうがいい。


 スガチャンの剣は足がつかないように配慮されているのだ。


 ウェアタイガーがグルルッと喉を鳴らして、こちらの隙を狙っている。


 その時、魔法使いのクズオは魔法詠唱が終わり、火炎球を連射する。このクズオもパチンコと競馬、競輪、競艇等の賭け狂いで、ダンジョンで儲けても、さらに賭け事をして首が回らないクズである。金が無くて強盗未遂を行なったこともある。それでも魔法の才能があり、連射魔法に長けていた。


 十数発の火炎球を全て避けることはできず、数発受けて足が止まるウェアタイガー。そこにスガチャンが前に出て、皮鎧をしていない部分、大腿部に向けて剣を振る。


「ガゥ!」


 深手ではないが、足を止めさせるには充分だった。だが、相手はライカンスロープである。回復再生も早い。


 スガチャンは、ここで切り札を出す。その手には数枚のカードが含まれていた。


「あんたらが取り返したいのは、このカードに封印されているガキ共だろ?」


「ガアァ!」


 ウェアタイガーが大きく声を上げる。その声は大きな怒りが含まれていた。


 この封印カードは召喚カードのように、モンスターを操ることはできないが、召喚士でなくてもカードに封印できる、違法カードだ。しかも、封印されているカードからモンスターを出せば、何度でも使用することが可能である。


 獣人の子供は、国内や海外の金持ちに売れる高額商品だ。これ一枚で海外のカジノで好き放題できるだろう。


「悪いが一歩でも動いたら、このガキ共の命はないぜ」


 高額カードを処分するのはもったいないが、命の方が大事である。


「グルルルルゥ」


 ウェアタイガーが威嚇する。


(おお、怖い怖い。取り敢えずここは退いて、ボウクンと合流するとするか)


 ウェアタイガーはこちらを追ってくるだろうが、このカードがある限り手出しできない。


 スガチャンはカードを見せびらかしつつ、動けないウェアタイガーを尻目に、魔法使いのクズオと一緒にこの場を離れた。


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