79 コムドレッドの焦燥
よろしくお願いします
「チッ、どうなってんだ、ああ?」
ボウクンが声を荒げる。それを聞いた仲間が怯える。
(こらこら、仮にも仲間なんだから、あからさまにびびらないの)
スガチャンが、ふうっと溜息を吐く。
確かによろしくない状況だった。近頃、獣人共に目を付けられているのがわかる。それなりの収穫はあったし、ドキューダンジョンから出るべく、階層入り口に向かおうとしていたのだが、ある日から獣のモンスターの視線を感じ始めていた。
最初は偶然かと思ったが、徐々に視線が強くなり、察しの鈍い奴でもわかるほどに視線を感じ居心地が悪くなるほどだ。一度罠士のゴンが罠を嵌めて見るが、モンスターは襲うつもりはなく、まるで自分達の存在を警戒している状態のため、なかなか罠に掛かる様子もみせなかった。
ボウクンが苛つくのもわかる。何度かボウクンは獣人を襲ったが、逃げられてしまった。獣の本質は臆病であり、吠えるのは威嚇であり、攻撃するのは自身を守る自衛本能である、と。生きるために獲物を狩り、生きるために逃げるのだと。つまり、獣人は逃げることこそが彼等の得意とするものなのだ。
その獣の視線から逃れる内に、自分達はドキューダンジョンの奥深くまで追いやられてしまった。場所は森林地帯で、足場は段差が幾つもある足場の悪い土地である。
(まずいよなあ、このままじゃ)
「おい、どうなってる!?」
ボウクンがイライラした様子で聞いてくる。その表情を見るに、今にも誰かを殴って憂さを晴らしたい様子だった。
「おそらくだけど、これは罠だね」
「罠だと?」
「ああ、俺等をここに引き込むつもりのね」
「どういうことだ。説明しろ!」
「つまりさ、あの獣人はなにかしらの理由、おそらく自分達より格上の存在の命令で、こちらを見張っているのさ。そしてつかず離れずの状態を維持したまま、俺等がここに逃げるよう誘導している。つまりは罠だよ」
「どうにかする方法があるんだそうなあ?」
「もちろんあるよ。だからゴンが周囲に罠を張っている」
特殊ジョブ『罠士』を持つゴンは、ジョブの名の示すとおり、罠を仕掛けてモンスターを狩ることに長けている。特にその陰湿な性格も相まって、いやらしい場所に罠を仕掛けるのだ。
「あいつの罠にモンスター共は引っ掛かっていねえようだがな」
「そりゃそうだろ、モンスターは今のところ、俺等を襲う気はねえんだから。こちらを警戒しているモンスターがゴンの罠に引っ掛かるのは難しいさ。ゴンの本番は奴等が仕掛けてきてからだ」
「それまで気長に待てってか?ふざけんな!」
ボウクンは、大樹を勢いよく蹴り、大きく揺れる。
「だったら、あのモンスター共の視線を無視して、このまま階層入り口まで行くか?」
「どういうことだ?」
「俺等を見張っているモンスターが襲ってこないのは確定している。俺達が何食わぬ顔して階層入り口に行ってもなにもしてこないさ」
「なぜわかる?」
「おそらくだが、奴等の格上のボスと俺等を戦わせるつもりなんじゃねえかな?奴等はなにかと面子を気にする。おそらくだが、これを指示している奴は俺等を恨んでいる。理由はわからねえが、恨みを晴らすために一対一に持ち込もうとしてんのさ」
「自分で決着をつけるために、ここまでお膳立てしたってことか?」
「そういうこと」
「ふん、面白え!だったら返り討ちにしてやる」
ボウクンは、バシンッと右拳で右手の平を叩く。
(そういうわけにもいかねえんだよなあ・・・)
ボウクン一人なら、それで良いかもしれないが、スガチャン含む三人はそうはいかない。
ギルドから派遣されている後方支援とも連絡がつかない状況の中で、凶悪な格上モンスタ―が襲ってくるまで待つ道理はないのだ。
(それにそれだけじゃない様な気がする)
これは勘だ。
だけど、スガチャンは、この勘で今まで補導されることも、捕まることもなく乗り切ってきた自信がある。万引きや窃盗、暴行に殺人、ボウクン程ではないが、スガチャンもやることはやっている。それでもここまでやってきているのは、根回しと場所と相手選び、脅迫と懐柔、そして勘と運があったればこそである。
その勘が警報を鳴らし続けている。周囲を張り続ける獣人共ではない。もっと別のなにかにが、こちらに目を向けている気がするのだ。かといって、このまま格上モンスターの登場に待つ必要はない。
「このまま待っていてもジリ貧だし。俺的には、このまま階層入り口まで突っ切るのがいいと思う」
「お前、びびってねえだろうな?」
ボウクンがスガチャンを睨みつける。このまま格上モンスターに対して、戦っても勝てないと思われたのが心外だったようだ。
「びびってるわけじゃねえよ。俺等はダンジョンクリアを目指す冒険者じゃねえ。あくまで金と暴力が目的の冒険者だろ。こんな雑魚モンスターに追い立てられるのは俺等の柄じゃねえ。向こうから来たら返り討ちすりゃあいい。ボウクンならそれができるだろうが」
「まあな」
「だったら、相手の展開通りにここにいるのも癪じゃねえか。ここは一つ、前に出て、相手がなにしようとぶっ壊せばいいんだろうからよ」
「ちっ仕方ねえ」
(ふう、なんとか言うこと聞いてくれたか)
ここを抜け出すには、なんだかんだボウクンの力も必要である。今、ふてくされて暴れてもらっては困るのである。
(しかし、どういうことだ。どうしてすぐに襲わず、ちまちまと追い込んでいく?)
もしかしたら、と。スガチャンは今回の収穫である数枚のカードを見るのだった。




