78 助言
よろしくお願いします
リザードマン二体は周囲を警戒しつつ、獲物を探しているようだ。おそらく、食料を求めて遠出をしているようにみえる。
人の形をしているが、蜥蜴の顔をしており、時折チロチロと舌を出している。先端が尖った棒状の物を数本背負っているため、投擲に使うものと思われる。
獣人は基本自身の爪や牙を使用する。槍を投擲に使うのは、遠くの獲物を突き刺し、身動きを封じるためだ。それに自分達より凶悪な巨大モンスターへの威嚇でもある。
その時、射手の久米さんが放った矢が、リザードマンの頭部に直撃する。久米さんが持つ魔法の弓矢と久米さん自身の射撃技術、レベルの高さにより、硬いリザードマンの頭部を突き刺す。
仲間が射殺されたことへの驚愕と、どこから矢が飛んできたのかの混乱により、判断が一瞬遅れる。そこに大伴さんの魔法により、音と存在を消し、身を潜んでいた山方さんが槍を構え、リザードマンの背後から、リザードマンの心臓を突き刺す。
当たり前の話しだけど、正面から戦う必要はないのだ。別にリザードマンと冒険者は正々堂々の戦いをしているわけではない。もし、リザードマンが先に自分達を見つけていれば、同様の手口で、槍を投擲して身動きを封じた後、自身の鋭利な爪と牙で、こちらの命を噛み砕いていたことだろう。
リザードマンが死んだことを確認し、山方さんは潜めるように離れる。
「作戦終了。リザードマン二体の遺体を回収する」
リザードマンの遺体は、穴を掘って埋葬する。万が一、リザードマンの仲間が遺体を見つけ、報復に来る可能性も考慮してのことだ。できるだけ、血痕等残らないように手間を掛ける。
「周囲にモンスターの反応は?」
山方さんが魔法戦士の蟻田さんに訊く。
「いや、今のところいない。が、早くここを立ち去ったほうがいい」
「よし。もしもを考えて、迂回して別ルートから進む」
山方さんが地図を出して、通過可能なルートを選択する。
つまりさらに遠いルートを選び、コムドレッドがいると思われる場所に辿り着くために、遅延するということだ。危険ルートを避けて時間を掛けて目的の場所を目指す。それが普通の冒険者のダンジョンの行き方だった。
その日は目的の場所に辿り着くことは出来ず、テントを張って寝泊まりすることになる。三人一組で四時間事の哨戒任務となる。もちろん僕も手伝うこととなり、山方さん久米さん、宇多田さんと一緒に夜間の見張りを行なう。
僕はマジックアイテムを使用して、眠気を抑える。このマジックアイテムは、BWダンジョンで売られている公式ものだ。それに夜間火は使えない。火の光りでモンスターに発見されるためだ。獣はともかく、ゴブリンやオーク等のモンスターは火のある方に寄ってくるためだ。だからこそ、魔法使いである大伴さんが、焚き火を中心に魔方陣を描き、視認することも、熱を感じることも、枝が焼ける臭いもできなくする。自分達もこの魔方陣の中に入っていれば、低級モンスター程度なら襲ってくることはない。
さらに夜間でも暗闇を視ることができるアイテム、マジックランタンがある。これらはエルフからの情報を元に作られたものであり、ランタンからの光をモンスターは視認することはできない。
とはいえ、B級であるドキューダンジョンだ。全てのマジックアイテムが通用するわけではない。だからこそ、こうして夜間見張りを行なっている。見張りはテントを中心に三人が北、東、西に三角に囲み、周囲を警戒する。
「やあ」
「散田さん?」
僕が周囲のモンスターがいないか目を光らせていると、テントで就寝していた散田さんがやってくる。
「まだ交代時間じゃないですよね?」
「そうだね。ちょっと君と話したくて抜けてきた」
「はあ・・・」
散田さんは、年齢は40過ぎたぐらいだろうか。黒髪の中に白い髪がちらほらと見える。話しを聞いたところ、散田さんは日本ダンジョン協会に身を置いており、時々新人召喚士の指導を行なっているとのことだ。
「ダンジョンに潜っている僕の生徒から聞いてね。ソロにもかかわらず、もの凄い勢いで難関ダンジョンを踏破している召喚士がいると、ね」
「そうですか」
「協会のほうでも噂はあったけど、そういう噂の類は眉唾物が多くてね。ああ、眉唾とは信憑性がないもの、と言う意味なんだけど」
「はい」
知ってはいたが、僕は散田さんに合わせて同意する。
「でも、エルフやケンタウレを連れたソロの召喚士が凶悪なモンスターを薙ぎ払うように倒していくのを見たというのを、信頼できる知り合いから聞いてね。そして、近頃、うちの会長がギルド『エウメニデス』とコンタクト取り合っていて、そこにエルフを召喚する召喚士がいると聞いて、それが噂の召喚士じゃないかって思ったんだよ」
「噂の召喚士ですか・・・」
まあ、確かに津上社長に言われていたが、そこまで噂になっているとは思わなかったな。
「君みたいに召喚士の中には、レアなモンスターを手に入れることがある。そして、それに乗じるように、召喚士自身も強くなることもね。私は、強いモンスターを手に入れて、二人三脚で強くなっていく召喚士を何人も見てきた。君程じゃないがね」
「散田さんもA級ダンジョンを攻略したんですよね?」
「ああ、そうだ。私がA級ダンジョンを目指したのは、二十代後半になる辺りだった。ドキューダンジョン程ではないB級ダンジョンを踏破し、当時A級ダンジョンを目指すクランにパーティごと誘われて、総勢百二十名でA級ダンジョンクリアを行い、クリアしたときは、三十代後半になっていたよ。気がついたら、三十代のほとんどはA級ダンジョンに潜っていたかな」
この人の人生は、ダンジョンの人生だった。大学で学費が払えず困窮していた際、友人に誘われてダンジョンに潜り、二十二でB級ダンジョンに挑んだ。ほとんどのパーティメンバーがB級ダンジョン踏破に脱落し、古参は彼だけになったことがある。強豪の冒険者クランの誘いを受けて、総勢六十名のクランでB級ダンジョンをクリアすることができたという。その後、A級ダンジョンをクリアした彼は、知人の紹介で日本ダンジョン協会の社員として入社することとなった。
ちなみにいうと、冒険者パーティ『コムドレッド』を追っているのは、山方さん達のチームだけではなく、日本ダンジョン協会と国の支援を受けて、幾つもの冒険者パーティがドキューダンジョンを包囲している状況である。
冒険者パーティ『コムドレッド』に逃げ場はなかった。
「その、『コムドレッド』もなかなかの冒険者パーティだね。ギルドの支援を受けているとはいえ、階層ボスを倒すことが目的ではないとはいえ、ドキューダンジョンでレアアイテム探しを続けているなんて」
そう、階層ボスを倒さなくても、いろいろとレアアイテムを使えば、他の階層に行ける手立てなんて幾らでもある。例えば転移石。
転移石。
階層ボスを倒した先に存在する階層コア。この階層コアに転移石を合わせ、魔法の呪文と一定の魔力を与えることにより、一度通ったその階層に戻ることができる便利アイテムである。しかし、リスクも高い。
転移石を使うには魔法使いによる呪文、そして膨大な魔力量が必要になる。膨大な魔力量を持った魔法使いがパーティに居れば問題ないが、そこまでレベルを上げるとなると、相当数のモンスターを倒す必要があるし、呪文の習得も難しいものがある。これを可能にするには、多大な魔力を含んだ魔石か魔宝石と、呪文をメモリーさせ、代りに呪文を唱えてくれるマジカルレコードが必要になる。
彼等が犯罪に手を染めているのであれば、それらを裏ルートで手に入れることも可能だろう。それらを通常価格で購入するとなると、プレミアがついている高級車が五台は買える程だ。
だげど、そのレアアイテムを手に入れたとしても、ドキューダンジョンでレアアイテム探しをするなんて、命懸けの相当の実力が必要なのだ。
冒険者パーティ『コムドレッド』。それだけの実力がありながら、犯罪に手を染め、さらにこれからも罪を犯し、それと引き換えに違法で大金を手に入れようとする冒険者達。
そういう輩達を津上社長は酷く憎んでいた。自分が殺されかけた恨みもあるのだろうと思う。
「並大抵の相手ではないですね」
「君も気をつけたほうがいい」
「えっ」
唐突に散田さんは僕を見て、そう言った。
「僕は君も違法な手口でダンジョンを次々と攻略したとは思っていないよ。だけど、まだ誰も知らない手口やレアアイテムを所持しているとは思っている」
「・・・・・・」
「実際、そういう冒険者は多いよ。ダンジョン攻略の最短距離を見つけても、レアアイテムを手に入れても協会に報告せず、ダンジョン攻略のために独り占めする冒険者はね。それだけ他冒険者パーティにダンジョン攻略を出し抜かれたくはないのさ」
「命懸けですしね」
僕は他人事のように応える。実際、ダンジョンは命懸けだ。運が悪ければ死ぬ。せっかく苦労しても、階層ボスや最下層ボスが他冒険者パーティやクランに倒されてしまったら、今までの苦労が水の泡だ。
「命懸けだ。だからこそ、奪う奴等もいる」
「金を払えば済むなら、情報もレアアイテムも買えるなら、どんな手口を使ってもいいと思う輩は一定数いるというわけだ。特に君は難関ダンジョンを次々とクリアしてしまっている。なにかしらの強力なレアアイテムを手に入れたと考えても不思議じゃあない。例えば『運』を操れるとか、ね」
「『運』ですか・・・。それこそダンジョン伝説ですね」
「だが、魔術師や魔女の中には、未来視の魔術ができる者もいるというし、ここはダンジョン、不思議な能力を手に入れることができても、おかしくはない。それこそ『奇跡』も手に入れることだって出来るかも知れない」
「そういう人を散田さんは見たことがあるんですか?」
「実際のスキルはないよ。だけどね、B級ダンジョンやA級ダンジョンを大所帯のクランで潜っていると、豪運を持っている冒険者に出遭うことだってある。私だって、A級ダンジョンをクリアできたのは、皆の実力があればこそだが、それでも運が良かったと思っているしね」
「確かに僕もそう思います。もちろん実力や経験は必要です。でも、不確定要素が強いダンジョンでは運がなければ危なかったと思うことは、多々あります」
「そうだろうとも。だけどね、その他人が持っている『運』を奪うことができるなら、人はなんでもしれしまうものさ。例えば、ダンジョン攻略に必須な君が持っているレアアイテムや情報を力尽くで奪い、抵抗するなら拷問し、それでも駄目なら殺して奪い取る連中がね」
「それが『コムドレッド』みたいな冒険者パーティですか」
「もちろん『コムドレッド』だけじゃない。欲しいと思う連中がいる限り、それを暴力で手に入れて法外な値段で売りつける悪党はどこにでも現われるというわけだ」
「そうですね」
「ダンジョンが危険地帯であることも、その危険がある限り、国の法が通じない場所であることに変わりはない。もし、私が引退していなかったら、君に対して充分嫉妬しただろうしね。例え君がレアアイテムやスキルを持っていなくても、なにかしら持っていると疑ってしまうのが、下劣な人間の思考回路だからね。どんな時でもダンジョンに潜っている限り、周囲は警戒するものだ」
僕は頷く。
「ご助言ありがとうございました」
「そんな大したものじゃないよ。同じ召喚士としての、年配からのちょっとしたアドバイスみたいなものさ」
そう言って散田さんは立ち上がって、中央のテントに戻っていった。
捜索して三日後、僕達と同じく『コムドレッド』捜査に協力してくれる冒険者パーティから、彼等の形跡を見たとの情報が入った。どうやら、追い立てられるようにダンジョン奥深くに潜り込んでいるらしい。僕達は急いでその場所に向かうこととなったが、マッピングにないルートも含まれており、さらに時間が掛かりそうだった。




