77 元A級冒険者達
よろしくお願いします
「君が乙橘勇大君か、よろしくな」
そう言って握手していきたのは、A級冒険者の山方郷一さんだ。
普段は、日本ダンジョン協会で働いており、ダンジョンガーディアンとしても、ダンジョンの治安維持を務めている。年齢は31歳。大柄で引き締まった肉体の男性だ。海外のダンジョンにも潜った経験があるとのことだ。冒険者同士の争いに巻き込まれた経験もある。
「よろしくお願いします」
僕は、現在誰も召喚することなく、山方さんのA級冒険者パーティに参加している。その数六名。全員A級ダンジョン経験者である。
リーダーの槍使い山方さん、魔法使いの大伴さん、魔法戦士の蟻田さん、騎士の宇多田さん、射手の久米さん、召喚士の散田さん。
このメンバーが以前冒険者として、A級ダンジョンを潜っていた方達である。
A級ダンジョンは、凶悪で危険なモンスターが多い危険地帯である。ほとんどの冒険者がA級ダンジョンを諦めて、B級ダンジョンかC級ダンジョンのみクリアを目指す冒険者が多い。
E級ダンジョンは軽傷、C級ダンジョンで重傷、B級ダンジョンでは重体、A級ダンジョンは死傷だと言われている。ポーションがあるため、ダンジョンでは怪我を負っても、すぐに復帰できる意味だ。重傷に陥った場合は、ハイポーション。ただし、四肢欠損や重体に陥った際は、エクスポーションが不可欠となる。
これらがある限り、ダンジョンで死ぬ可能性が低くなるが、ポーションもハイポーションも一介の冒険者が買うことができない、高額商品だ。ジョブが魔法使いの冒険者が、エルフにポーションの作り方を教わり、薬師にジョブチェンジし、ポーションをつくることもできる。しかし、エルフが作ったものや、ダンジョンの宝物庫から見つかるポーションとは比べることができない出来の悪さである。
彼等は、死傷率が高いA級ダンジョンを潜り、クリアしたクランに参加したメンバーもいるという。山方さんもその一人だ。
僕達は冒険者の情報から、彼等がB級ドキューダンジョン五十階層にいるという情報を耳にし、探査を続ける。どうやら彼等は、すぐにドキューダンジョンを出る気はないようで、じっくりと歩を進めている様子らしい。それとも、なにかに阻まれているのだろうか。
B級ダンジョン五十三階層は湿地帯であり、亜竜種でも地竜系が多い。もちろん、亜竜だけではなく、凶悪なモンスターも多数存在している。ゴブリンやオークも存在するが、他のモンスターが凶悪過ぎて、生物が生きて行くには難しい地域へと逃げている。
そこを僕達は、サクサクと進んで・・・はいなかった。
『こちら蟻田、前方に異常なし。モンスターの気配なし。二日前に通ったと思われる巨大モンスターの足跡あり』
「ユーコピー。5分後にそちらに着く。アイコピー?」
『アイコピー』
『こちら散田、召喚モンスターによる索敵にて、後方にモンスターの気配なし』
「ユーコピー。散田さんは、その距離を維持してください。ユーコピー?」
『アイコピー』
そうなのだ。自分達は、百メートル進むのに、索敵と前進、後方左右確認を繰り返し、半日で着きそうな距離を一時間掛けて歩いていた。
正直、これが普通なのだと気付かされる。
なにしろ、ここはダンジョンなのだ。幾らマッピングによる安全なルートを通っているとはいえ、いつモンスターに襲われるとは限らないからだ。ネットが使用できない状況で、山方さん達は無線機を使い、自分達の位置を確認しあい、危険なモンスターの遭遇を避けて進んでいる。その地道な作業にどれだけ時間が掛かることか。さらに危険回避のため、迂回を繰り返しているため、時間はさらに掛かる。
僕はアマテの超索敵能力に、魔法アイテムによる気配遮断、アンティアによる臭い消し、ステラによる走行スピードによって、相手に気付かれないように、悠々と進んでいるが、本来はこうして周囲確認をしていかないと、茂みや岩陰に隠れたモンスターに襲われ、数分経たないうちに全滅もあり得るのだ。
特にドキューダンジョンは危険なダンジョンであり、彼等がこうして問題なく進めるのも、彼等自身のレベルの高さとダンジョン踏破能力と言える。
そして、もう一人―――。
何故かウェアタイガーの少女が僕の隣に歩いていた。まあ、妹を誘拐した冒険者パーティを捕まえるために同行するのはわかるのだが、何故か僕の隣をつかず離れず歩いている。
彼女が『コムドレッド』捜索に参加させて欲しいという要望に、日本ダンジョン協会会長も、ダンジョン省の役員も最初はいい顔をしなかったが、最終的に折れて、同行を許可されたのである。とはいえ、彼女は人間の言葉は理解できないし、喋れない。さらにいうと、僕も彼女とは会話できない設定だ。そんな獣人を山方さん達が警戒しないわけがなく、仕方なく僕の召喚カードに封印されるという条件のもと、同行を許可されたのである。
彼女が僕にカード封印されていいか聞くと・・・。
「お前は、オレに勝った。オレが封印されるのは当然だ」
そういう応えが返ってきた。そういうことで、僕は、このウェアタイガーの名前をシルヴァ・ジ・レイジタイガーと呼称することにした。彼女は特になにも言わずに、僕達のダンジョン探索をなにも言わずに着いてきていた。
『ピピ・・・、こちら蟻田、モンスターの気配を感知。アイコピー』
『ユーコピー。モンスターの姿形かはわかるか?』
『大きさ形状からしてリザードマン二体と思われる』
『こちらの存在に気づいているか?』
『まだと思われる。ですが、時間の問題と思われる』
魔法戦士の蟻田さんは気配察知と気配遮断に優れている。例え百メートル先の見えないモンスターに対しても、その存在を確認することができる。
『周囲に仲間、もしくは別の個体の気配は?』
『確認していないが、いないだろう』
『わかった。蟻田は、そのまま待機。モンスターの様子を探ってくれ。ユーコピー』
『アイコピー』
山方さんは、無線機を懐に仕舞い、こちらを見る。
「これから二体のリザードマンを倒す」
「避けないのか?」
聞いたのは宇多田さんだ。つまり、リザードマンの動きを警戒しつつ、別ルートから進むということである。ここでリザードマンを倒すよりも、相手が見つけるより早く、この場所を立ち去ることで、リザードマンの脅威を回避する手もあるということだ。
「相手はリザードマンだ。もし、こちらの存在に気付いて、仲間を呼ばれたらやっかいだ。気付かれる前にやる」
「わかった」と、宇多田さん。
「わかりました」「よし」と、久米さん、大伴さんが頷く。
山方さんは僕の方に振り返る。
「乙橘君、君はモンスターがおかしな行動を移さないか、様子見を頼む」
要するに、見学ということか。今回、僕は戦闘員に含まれていない。あくまで部外者として扱うつもりだろう。
「わかりました」
僕は頷いた。
「では、後方の散田を戻ってのち、蟻田と合流。プランBでリザードマン二体を倒す」
山方さんは、周囲を見渡して作戦を決定する。
所用のため、早めに投稿しました。
次回は日曜日投稿になります。




