76 今後のこと
よろしくお願いします
僕と津上社長は、ギルド『エウメニデス』の本部に戻る。
「どうして、A級冒険者達の『コムドレッド』捜索に、僕を加えたんですか?」
本部の社長室に入って早々、僕は津上社長に切り出す。
そう、あの場で津上社長の提案は、『コムドレッド』の捜索のA級冒険者の中に、乙橘勇大も加えて欲しいというものだった。
津上社長は来客用のテーブルに着き、僕は対面の席に座る。
「君が急ぎすぎるからだ」
僕の問いに津上社長は、そう応えた。
「急ぎすぎるとは?」
「そうだ。君はダンジョン攻略を急ぎすぎる。『エウメニデス』が出来て、まだ半年にも満たないというのに、D級ダンジョン、C級ダンジョンを攻略し、さらにB級ダンジョンの深層にまで来ている。しかも、ソロでだ。本来、簡単なダンジョンでなら、D級ダンジョンなら一ヶ月で攻略できるかもしれない。だが、C級ダンジョンは、簡単なのでも一年、B級ダンジョンは五年掛かるといわれている。それでも、正確なマップとモンスターによる出現範囲を厳選した上で、だ。だが、君が行くダンジョンはプロですら躊躇するダンジョンばかりだ。特にB級ドキューダンジョンは、優秀なクランメンバーに、正確無比なマップ、高額のレアアイテムを使用した完全装備を使用して五年。一般のクランで十年は、攻略に時間を費やすだろう。それを君は、たった一ヶ月で最下位層に辿り付こうとしている」
「はい」
「いくら優秀な召喚モンスターがるとはいえ、異例だ。なにかチートなレアアイテムを使用していると思われていると思われていても仕方が無い」
ちらりと僕を見る津上社長。
「正直、君には感謝しているよ、乙橘勇大くん。君がダンジョンから持ってくる魔石、魔宝石は、あまりにも高価で、俺達のギルド『エウメニデス』の資金になっている。そして、政治家の件も、自衛隊の件も、君がいたからこそ、強いコネを持つことができ、他のギルドへの影響力も強まっている」
「いや、それほどでは。それにあなたが作ったギルドですし」
「君が発案者だ。俺は君との契約を忘れてはいないよ。俺がギルドを作る。君はその下で自由にダンジョンを攻略する。君がどんなに凄いレアアイテムを使用して、ダンジョンを攻略しても俺は一切を問うことはないだろう」
「はい」
「だが、ギルド『エウメニデス』の中での話しだ。世間、特に日本ダンジョン協会は、君のことをマークしている。『エウメニデス』の事を含めてね」
津上社長は、一旦喋るのを止めてお茶を飲む。
「いずれ監査が入るだろうが、特に問題にはならないだろう。しかし、これ以上疑われては、俺と君の願いである、ダンジョン界隈の暴力を排除することは難しくなる。ダンジョンを攻略するのも、モンスターを倒すのも苦労するのに、冒険者同士の争いが激化すれば、さらにダンジョン界隈がややこしくなるだろう」
「そのためのA級冒険者との暴力系冒険者パーティの捜索ですか?」
「そのA級冒険者は、間違いなく日本ダンジョン協会と国との繋がりが深いのが選ばれるだろう。君の身の潔白を晴らすなら、俺が言うより、君自身が示したほうが手っ取り早い。もちろん、俺も口を出させてもらうがね」
つまりは、僕を国や日本ダンジョン協会の息の掛かったA級冒険者に帯同させることにより、普通の冒険者である証しを示せというわけか。
「ドキューダンジョンについては、俺から提案がある、いや依頼に近いかな。それは後日報せるとして、ドキューダンジョンをクリアしたら、俺が君の足場を作るまで大人しくしていてほしい」
「大人しく?ダンジョンに入るのを控えろと?」
「控える必要はないけど、A級ダンジョンは時期尚早だ。A級ダンジョンは、B級ダンジョンとはワケが違うからな。こちらとしても、君が煩わしいことに巻き込まれないようにするつもりだ」
「ありがとうございます」
「それについては提案がある」
津上社長は、テーブルに一冊のパンフレットを置く。そのパンフレットには、冒険者らしき男子と女子の絵が描かれており、『BWダンジョン冒険者養成学校』の名が記されていた。
「これは?」
「BWダンジョンに学校ができるのは知っているだろう。その学校の科目にダンジョン科を作る。要は冒険者養成所みたいなものだ。これはダンジョンにおける若い未熟な冒険者の死傷者が年々増えているのが原因だな。俺が冒険者だった頃と違い、面白半分で冒険者となって、モンスターの餌になる輩が多くなってきたということだ」
「耳の痛い話しですね」
僕も何も考えず、廃ダンジョンに入り浸り、それをクラスメイトにつけ込まれて死にそうになったのだ。BWダンジョンが大きくなり、一般認知度が高くなれば、ネット配信目当てで、無謀にも難易度の高いダンジョンにスマホ一つで潜ろうとする輩がいても不思議ではない。
「今や、ネットでバズるために冒険者になる連中も増えてきたしな。彼等の死傷率を下げるために、こういう勉強もできる学園を作って、冒険者としての訓練と知識を与えておこうというものだ」
「でも、それって、日本ダンジョン協会やギルドが行なっているのでは?」
「冒険者が増えすぎて、それだけでは追いつかなくなってきたのが、現状かな。
ギルドが少人数で教えるよりも一括りにして学ばせるのが、都合がいいと考えたんだろう。BWダンジョンに学校ができるようなものだ。普通の学校にダンジョン科という、種目ができる程度だな。どうだ。君も今の高校から転校してみては?」
「冗談ですよね?」
「冗談だ」
僕は津上社長の顔を見る。その目は真剣だった。
「まあ、その学園の手伝いをしてもらいたいと思っているがな。時間が空いたときでいいから、ダンジョン科の校外研修を手伝ってくれればいい」
「わかりました」
「近頃、冒険者になって、学業を疎かにする高校生や大学生が増えているとのことだ。だったら、ダンジョンに学校を作って、学業も冒険者としても疎かにしないようにしようというのが、目的の一つだな」
正直、自分も高校に行けていないのが現状だ。このままだとテストの結果と出席日数がぎりぎりの状態である。
「そこは日本ダンジョン協会も出資している。もちろん、『エウメニデス』や他のギルドも入っている」
「君が高校を卒業する頃には、『エウメニデス』も地盤が固まるし、君もなんの憂いもなく、A級ダンジョン攻略に動けるだろう」
僕は考える。ドキューダンジョンを攻略したら、すぐA級ダンジョンの最難関、S級ダンジョンを目指そうと考えていたが、どうやら思った以上に世間がややこしくなっているらしい。
それにS級ダンジョンに行くと、なかなか上に戻ってこられないだろう。そうなると、リリカ・ジ・モリガンの歌手活動にも停滞する可能性がある。
彼女も歌手活動をして半年なのだ。売れたのはいいが、ここはじっくりと歌手活動を攻めていくべきではないか、とも思える。
「ある程度期間を置くことも重要ということですね。変な輩に目をつけられないように」
「そういうことだ」
期間が必要か。まあ、A級冒険者と共に『コムドレッド』捜索に手を貸してから、今後のことを考えていくとしよう。




