75 ウェアタイガーとの面談②
よろしくお願いします
一度再考することとし、会議は一旦終了することとなった。
「我々としては、村を襲った冒険者を引き渡してくれれば、それで構わない。我々だけで、その冒険者に罰を与えるだけだ」
罰とは死に他ならないだろう。もしくは、苦痛を与えた後に殺すか、だ。
「もし、引き渡す気が無いのならば、先程の提案は全てなしだ」
「はい。わかっています」
日本ダンジョン協会の会長もウェアタイガーの言葉に頷く。確かに彼等の提案は魅力的だが、そのために法を破ってまで、犯罪の疑いがあるとはいえ、いち冒険者パーティを引き渡すわけにはいかないのだ。
ウェアタイガーには護衛をつけて、丁重に帰ってもらう。今後、ドキューダンジョンを効率良く探索するためには、彼等との交渉が重要になっていくだろう。
「さて、先程のサイコメトラーについて詳しく聞こうか」
切り出したのは、ダンジョン省の役人だ。
「謂わば遺体から残存思念を読み取り、現場を検証するというものです」
日本ダンジョン協会の会長は、額に右手を充てて考えなら応える。
「そんなことができるのか?」
「二年前、国と契約した死霊魔術師がいたでしょう」
「ああ、ネクロマンサーか」
ダンジョン省の役人は渋い顔をした。ネクロマンサーは、死者を操る。彼等の魔術の本質は、生と死の世界、その狭間だ。彼等は生きることと死ぬことの真理を識るために、死体を弄り、生者を玩ぶ。ダンジョンで自衛隊が連れてきたネクロマンサーは、死を知ることこそ、生への真実があると言っていた。
ネクロマンサーには、死体をゾンビ化する、生者を吸血鬼化する者もいるとのことだ。
ちなみに、このダンジョン省の役人は、ホラー映画が苦手で、ゾンビ映画はもってのほかだった。視聴したら、夜眠れなくなるくらいだ。だからこそ、ネクロマンサーと契約したことは知ってはいたし、優遇はしていたが、ほとんど近寄らなかったのが現状だ。
「確か、あのネクロマンサーは、遺体から生きていた頃の思念を読み取り、そこから生者の記憶を読み漁るのが趣味だったな」
「はい。そして、私ども日本ダンジョン協会の魔法使いも、国から許可を得て、ネクロマンサーから遺体から残存思念を聞き出す魔法、サイコメトリーを教わり、ダンジョン探索に役立てております」
「それは知っている。だが、サイコメトリーでダンジョンの事件を暴くのは、まだ法律で認められていないのではなかったか?」
「すいません、事務次官」
そう言って手を上げたのは、ダンジョン省の秘書らしき男性だった。事務次官とは、ダンジョン省の役人の事を差していた。
「中谷?」
「ダンジョンにおける残存思念使用による事件の解明ですが、一ヶ月前に改正されまして、すでに実施されております」
「そうなのか?」
「はい。事務次官は、そういう、その、死霊魔術を忌避されているため、あまり目を通されていないと思いますが、この間の閣議で既決しております」
「ふむ」
完全にダンジョン省の役員の失態だが、秘書の中谷はそのことには触れず、話しを進める。
「しかし、どうして今頃決められたのだ?」
魔術とはいえ、サイコメトリー能力で事件を調査するなど、荒唐無稽と誰もが思うだろう。実際、今や当然となっているDNA検査すら、実施当初は眉唾もので誤認逮捕が多く、信憑性が薄く打ち切りになるのを防ぐために、罪のない者を犯人に仕立てることが多く見られた。死者の思念から犯人を暴くとはいえ、それが真実とはいえ、事実に辿り付くとは到底思わないのだ。それに魔法や魔術に対して懐疑的な政治家も多い。なにしろ、魔術とは、十数年前まで手品の口上句でしかなかったのだから。
「はい。それはそこにいる乙橘勇大くんが関係しています」
僕に?
秘書官の中谷さんが急に僕に話しを振り、一斉に僕の方を見る。
「彼は去年の六月に学校のクラスメイトにダンジョンにて、崖から落とされ殺されかける事件がありました」
「そうだったな」
「しかも、彼が生還しなかったら、知的好奇心により、一人でダンジョンに踏み入れて、足を踏み外して崖から落下する事故という扱いになりかねなかったことです」
「うむ」
「この件を受けて、彼の行いに対して、無謀な行為と称して叩いていたネットユーザーやマスコミは一斉に掌を返し、自らの行いを隠すためダンジョンにおける法改正の早急を求めたのです」
「それは知っている。働きかけたのは私だからな」
胸を張って応えるダンジョン省役人。いうなれば、彼もまた社会の情勢に踊らされたといえるかもしれない。なぜ、その法改正の内容を彼が知らないかというと、提案をしたのがダンジョン省の役人で、提案の内容を作ったのは別の役員だったからというわけだった。
「その中の一つに、サイコメトリーの活用も含まれていたのです」
「ああ」
そういえば、そういう案も入っていたなとダンジョン省役員は思い出す。彼にしてみれば、サイコメトリーの活用は反対派、懐疑派が多くいたため、すぐに削除されるものと思っていたらしい。しかし、物事は急速に進んでいった。気がつけば、反対派や懐疑派の手が届かなくなるほど法改正が成された。
「そして、今回ダンジョンにおけるサイコメトリーにおける活用が決定される運びとなりました」
中谷さんが言葉を止めると、日本ダンジョン協会会長の部下であると稲島が繋げる。
「そして、日本ダンジョン協会の冒険者パーティで、サイコメトリーが使える魔法使いを引き連れてダンジョン探索したところ、冒険者の遺体を発見しました」
「なんと」
「本来、ダンジョンで死ぬということは、モンスターの餌となるのが同義でした。特にゴブリンやオークは腐敗した屍肉すら食す傾向があります。彼等は遺留品すら食べてしまうので、遺体を発見するのは奇跡といっても過言ではありませんでした」
「そうだな」
ダンジョンでの遺体の発見の一番の問題点は、モンスターに骨も残らず食べられることだろう。
「ですが、運良く冒険者の遺体を発見することができたのです。その遺体には斬り傷による出血死というのはわかっていましたが、それがモンスターによるものか、同業者によるものか、以前は判別できませんでした。しかし、その冒険者の遺体をサイコメトリーしたところ、冒険者パーティ『コムドレッド』の名前が上がったのです」
「で、あれば、すぐにでもコムドレッドに任意聞き取りができるのではないか?」
ダンジョン省役員の言葉に首を振る稲島さん。
「それが、現在冒険者パーティ『コムドレッド』は、B級ドキューダンジョンを探索中であり、その所在が不明です。彼等の狙いは、このままB級ダンジョンで雲隠れして、キリがいいところで、ダンジョンから出て逃走するものと思われます」
「ううむ。B級ダンジョン、しかもドキューダンジョンか・・・。彼等に事情聴取するにしろ、手間が掛かるな」
そこは悩ましいところだと日本ダンジョン協会会長とダンジョン省の役員も思うところであろう。
「そこで提案があります」
口を出したのは、僕の上司、津上正愛社長だ。
「なんだね?」
日本ダンジョン協会の会長とダンジョン省の役員が津上社長を見る。
「私は、A級冒険者の資格を持つガーディアンに、『コムドレッド』の地上への連行を依頼してみるのはどうでしょうか?」
「ふむ」
「A級冒険者資格のガーディアンか」
A級冒険者とは、A級ダンジョンを攻略、もしくは攻略中の冒険者を差す。A級ダンジョン攻略後は、その名声で自由気ままに人生を謳歌する者、もしくはダンジョンを護るガーディアンとして働く者等様々だ。実際、A級ダンジョンは、死傷者の数が他ダンジョンと比べても六割であり、再起不能者は七割、脱落者は九割の最難関である。B級ダンジョンを攻略した冒険者でも、Bの次はAと気軽に進む者はいなかった。
「悪くない手だが、応じてくれるのかが問題だな」
「日本ダンジョン協会会長のあなたでもか」
「彼等は、日本ダンジョン協会に登録はしているが、ほとんど善意でダンジョンを盛り上げてくれる者達だ。D級C級ダンジョンはともかく、B級、しかもドキューダンジョンに潜るとなると、かなり数が限られているな」
さらに、今回は殺傷事件にまで及ぼしそうである。なにしろ、相手はダンジョンで殺人を行なっているのだ。対人戦になる可能性があるのだ。モンスター退治では、プロフェッショナルな彼等でも、冒険者同士の戦いになれば、別物だ。
「となると、元自衛官のA級冒険者だな」
元自衛官のA級冒険者。ダンジョン攻略部隊に所属しており、怪我やPTSDで除隊した者。怪我はポーションで、PTSDは精神系の魔法で癒すことができるが、それでもダンジョン攻略を諦めて、機密保持を守る約束をし、自衛隊を除隊してダンジョンガーディアンになる者もいる。
「はい。もし『コムドレッド』が殺人に手を染めているのであれば、こちらの対応に対し、抵抗する可能性があります。もし、危害を加えるとするなら、生半可な冒険者では躊躇してしまうかもしれません。ですが、元自衛官であり、A級冒険者の肩書きを持つ元自衛官であれば、それなりの対抗処置ができると思います」
「ふむ。悪くないな」
ダンジョン省の役人も頷く。
「日本ダンジョン協会に契約している何人かに声を掛けてみます」
日本ダンジョン協会会長も前向きの姿勢を見せる。
「それに対して、お願いがあるのですが・・・」
津上社長の提案に、日本ダンジョン協会の会長もダンジョン省の役員も少し考えて、了承することとなった。




