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73 ライカンスロープ②

よろしくお願いします

 僕こと、乙橘勇大は、B級ダンジョン六十階層を攻略中だ。


 六十階層は、無数に存在する断崖絶壁と大きく広がる樹林で覆われており、道を通るのも困難だが、さらに厄介なのが存在する。


 それが獣人、ライカンスロープである。


 ここB級ダンジョン六十階層では、幾つもの獣人の集落があり、なにも知らずに樹林を通ろうとすれば、武装した獣人に襲われて餌になるのがオチだろう。


 ここを通るには、どの地域にどの獣人が支配しているか、知る必要がある。


 そのため、対ダンジョン攻略の自衛隊は交渉人を作り、比較的話しが通じる獣人とコンタクトを取るという。なら、自衛隊に頼めばいいという感じだが、そういうわけにはいかない。何故なら、自衛隊を救助したのは、ついこの間だし、今津上社長が自衛隊の偉い方と話しをしているから、そんな頼れる雰囲気ではないのだ。


 というわけで、自力でなんとかするしかない状況である。


 五十階層あたりの亜竜種が多いエリアよりも、ライカンスロープの方がやりやすいと思う冒険者もいると思うが、このエリアのライカンスロープは獲物を狙う狩人のように静かに襲い掛かってくる。逃げようとしても罠に嵌まり、追い込まれ捕食される。


 僕はギルドから得た情報で、どの地域が安全か、危険かを判断して進むしかないのだ。

 放たれた一矢が、追ってくる獣人に刺さる。勢いよくバランスを崩し、獣人は転倒する。僕は愛馬『ウォーリー』を駆り、草原系ダンジョンを走っていた。


 隣では、ケンタウレのステラ・ジ・サジタリウスが人馬形態で、次々と矢を放ち、追ってくる獣人を撃ち落としていく。


 僕達は階層クリアのために馬を使用した。そして、一気に階層コアまで辿り着こうとしていたのだが、草むらに潜んで餌を求めていた獣人に襲われたのだ。


 普通なら、危険な獣人がいる地帯には近寄らず、遠回りしながら階層コアに辿り着くのが基本中の基本である。でも、僕は早期階層クリアのために、敢えて危険なエリアを選び、それを速度で、解決を図ろうとした。


 草むらには、獰猛な獣人が潜み、上空では、空を飛ぶ鳥人が獲物を狙っている。普通の冒険者なら、一瞬で襲われて喰い殺されるのがオチだろう。しかし、彼等が得意とする強襲による速度を上回れば、問題は解決する。


 僕はケンタウレのステラや、エルフのパフェと一緒に、愛馬ウォーリーを徐々に鍛え上げていった。とはいえ、僕も学業をこなしつつ、冒険者をする上で、そこまでウォーリーに関われる時間があったわけではない。鍛え上げるのは、パフェとステラに任せ、僕は乗りこなすことに集中した。


(ご主人様、前方左に獣人が潜んでいます)


 カードから、オオカミのアマテの声が聞こえ、僕に危機を教えてくれる。アマテ・ジ・ロックドアーもオオカミであり、走る速度はかなりのものだが、速度のレベルを上げたウォーリーやステラには及ばない。カードから出ない分、感知能力は低くなるが、それでも僕よりも危機察知に優れている。


 僕はハンドサインでステラに状況を伝える。こくりと頷いたステラは、敢えて前方左に突進する。潜んでいた獣人は驚き、思わず顔を出す。そこにステラの矢が一射され、頭部を撃ち抜く。隠れるのを止めて、身を乗り出した獣人二体を僕はマジカルハンドガンで撃ち倒す。こうして僕達は最短速度で、階層コアに向けて六十階層を突き進んでいった。

 とはいえ、どの動物にも休息は必要だ。


 危険地帯を抜けきった僕とステラは、オオカミのアマテを召喚し、襲ってくるモンスターがいないことを確認して、ウォーリーを休ませる。


 レベルアップに伴う魔力の身体能力倍増により、ウォーリーの速度は新幹線レベルである。僕も、僕自身のレベルアップによる強化がなかったら、走り出した瞬間、空気の圧に押し潰されて振り落とされていただろう。


 しかし、これで一週間以内に六十階層の階層コアに辿り付きそうである。


 川の流れる森林で、ウォーリーとステラを休ませていると、アマテがピクリッと鼻を動かす。


「ご主人様、獣人の一体がこちらに近づいてきます」


「わかった」


 一体・・・一体か・・・。


 僕は思わず勘ぐってしまう。普通の獣なら一匹で獲物を狩るのもいれば、集団で狩るのもいる。しかし、このB級ダンジョンでは、ほとんどの獣人が人間部分に引っ張られているのか、集団での狩りを好む。無論、一体で行動する獣人もいるが、暇つぶしか、群れから追い出された一匹狼である。


「我が君、私が行きましょうか?」


 休んでいたステラが槍を構える。


「いや、僕が行こう」


 ステラもウォーリーも頑張って走ってくれた。ここは僕が相手をするのが妥当だろう。まあ、アマテも敵感知に役立ったしね。


 僕は立ち上がって、ステラと共に、モンスターが潜んでいると思われる方向を見る。


 さて、単なる獣のお遊びか、群れを追い出されたボッチか・・・。


 目の前の森林がガサリッと鳴り、一体の獣人が現われる。


 真っ白い体毛のウェアタイガーが姿を表す。


(白のウェアタイガー・・・。白虎か)


 つい先日に戦った亜竜種の白虎を思い出す。あれがふさふさした白い体毛の竜だったが、白虎と呼ばれている、ネームド・ドラゴンである。今回会ったのが、本物の名前の通りの白虎といった感じ。


 ウェアタイガーは、所々に傷を負っているが、目は死んでいない。こちらを伺い襲う気満々といった感じである。


 僕は剣と盾を構える。僕とウェアタイガーとの距離は、じりじりと近づいていく。最初に動いたのは、ウェアタイガーだった。圧倒的な初動速度で一気に距離を詰めて、爪を剥き出し、僕を切り裂こうと襲い掛かる。僕はウェアタイガーが動き出すタイミングを計り、横に回り込む。ウェアタイガーの動きを見て、動いては間に合わなかっただろう。ウェアタイガーに向けて一閃する。


「グアッ」


 横薙ぎに斬ったはずだが、ウェアタイガーは構わず爪で切り掛かる。僕は寸手で躱しつつ、チャンスを狙う。


 それにしても、と思う。虎にしては動きが鈍い。本来、虎は俊敏であり、こちらに主導権を奪われることはないはずだ。


 ガムシャラに攻撃してくる、ウェアタイガーをいなしつつ、僕は懐からある小袋を取り出し、そのままウェアタイガーの顔に投げつける。ある粉が入った小袋だが、興奮状態のウェアタイガーは意に介さず、粉が降りかかる中で僕への攻撃を続ける。受け流し、躱し続ける僕だが、少しずつだが相手の気迫に押され始める。窮鼠猫を噛むという言葉がある通り、時間が経てば経つほど、相手の気迫が死に物狂いとなり、劣勢を覆そうと躍起になり始める。


 ウェアタイガーが爪で顔を切り裂こうとするのを躱すが、それはフェイントで蹴りを繰り出す。僕は思わず後ろに下がるが、そこには大樹があり、思わずぶつかってしまう。


 しまった!


 牙を剥き出しにして、僕の首筋を狙い噛みつこうとする。あの尖った牙と口筋力で首を噛みつかれれば、首ごと抉り取られかねない。


「我が君!」


 ステラが悲鳴に近い声で叫ぶ。しかし、獰猛な虎の牙は僕の首には届かず、ウェアタイガーは、崩れるようによろける。僕は剣の柄でウェアタイガーのこめかみを叩いて、昏倒させた。


「ふうっ」


 アンティアに貰った眠りの花粉がようやく効いたようだ。


「我が君、倒さなかったのか?」


「ああ、なにか理由ありのような気がしたから、取り敢えず拘束してから話しを聞こうと思う」


 僕は魔法の縄を取り出して、ウェアタイガーを縛り上げる。これは伸縮性で、例え人間形態になって小さくなったとしても、相手を縛り続ける優れものだ。


 僕は倒れているウェアタイガーが起きてこないか確認してから、怪我の状態を診る。どうやら、僕と戦う前から満身創痍で、特に足の怪我が酷いものとわかる。


 ここ六十~七十までの階層は、獣人が多く存在し、それぞれ自分達の村を作り生活している。例え獣人だとしても、種族も違えば肉食や草食、科も違う。同じ虎のライカンスロ―プでも、生まれた場所が違えば、縄張り争いをするのだ。そんな場所で、一人で行動すれば、他のライカンスロープのテリトリーに入り、襲われるのは必然だった。


 僕は多少痛みが和らぐ程度の治癒魔法を掛ける。完治してしまい、再び暴れるのを防ぐためだ。


「アンティア、召喚」


 僕はカードを翳し、アンティアを召喚する。


「咲き誇る一輪の大華、アンティア・ジ・チアフラワー。マスターの求めに応じ参上しました!」


 ビシッと格好良いポーズを決めるアンティア。


「アン、そこで昏倒しているライカンスロープを起こしてくれ」


「ええ~。私、このために呼ばれたんですかぁ。私も獣人と戦って活躍したいです!」


 とは言っても、アンティアは、不服を口にする。彼女は戦う少女アニメのヒロインのように、正面切ってモンスターと戦いたいらしい。いや、アンティアのスキルは後方支援に適しているんだけど。


「アン、気持ちはわかるけど、君がいるから僕はここまでこれているし、君のスキルも君自身も必要なんだ。頼む、力を貸してくれ」


「キュンッときました。ふふん、マスターはそんなに私が必要なんですね。いいでしょう。マスターの役に立ってみせます!」


 顔を真っ赤にしたアンティアが嬉しそうに微笑む。よかった。機嫌が良くなったようだ。


「ありがとう」


「我が君は、相変わらずのスケコマシだな」


 ステラがワケのわからないことを言う。


 アンティアは、気つけ効果のある草花のスキルで、白虎のライカンスロープの意識を戻す。


「ウガアアアァ!ガアアア!!」


 目を覚ましたウェアタイガーは当然のように吠える。僕達に襲い掛かろうとするが、魔法のロープで身動きがとれず藻掻く。


「さて、これからどうする、我が君」


「そうだね。誰かこのウェアタイガーと会話できる人いる?」


 僕は今いるメンバーに訊いてみる。なにしろ、ここにはケンタウレのステラにオオカミのアマテがいるのだ。一人くらいライカンスロープと話しができてもおかしくないだろう。しかし、二人とも表情を曇らせる。


「正直、ライカンスロープとケンタウレでは、種族が違う。そもそも肉食系と草食系で、敵と味方ぐらい大きく分かれている。もちろん、人馬である私は肉も食べるが、ウェアタイガーのように肉食専門で、どちらかというと私を襲って食べる側なのだ。言葉の疎通は難しいだろう」


 ステラは、説くように僕に語る。


「アマテもオオカミですけど、異世界では生息する地域が違いますし、ご主人様のいる世界でも、国が違えば言葉が違いますでしょ?アマテの言葉が通じるかと言われれば難しいです」


「ふうむ」


 まあ、予想通りか。


「じゃあ、僕がやるか」


「「「え?」」」


 僕の言葉にステラ、アマテ、アンティアが声を上げる。僕はウェアタイガーに話しかける。

「ウガ、ウガガガ、ウーガ」


 それまで騒いでいたウェアタイガーが、耳をピクリと動かし、こちらを見た。


「ウガガガ?」


「ウーガ、ウウーガ」


 僕の言葉に徐々に大人しくなるウェアタイガー。


「我が君、なにをしているんですか?」


「いや、ウェアタイガーと喋っているんだけど」


「いやいやいや、どうして喋れるんですか?ライカンスロープと?」


 珍しく取り乱すステラ。僕がウェアタイガーと喋っているのが、信じられないようだ。

 それもそのはずだ。僕は『ダンジョン超裏技大辞典』によって知識を得ており、すでに全ページに書かれた内容一文一句記憶している。さらに何度も実施、実験を繰り返して信憑性を確かめて、もっと違うアプローチがないかも試してきた。ライカンスロープの発語も、隠れて彼等の会話をラーニングすることで、カタコトながら覚えることができたのだった。自分の世界の英語や仏語は、テスト勉強以外で覚えることも覚える気もなかったが、ダンジョンに関してのエルフ語、ドワーフ語、ハーフリンク語、ゴブリン語、オーク語、ライカンスロープ(肉食動物)、ライカンスロープ(草食動物)、そしてサッキュバス等の魔族の言語等、覚えるのが楽しくて楽しくて、食べる寝る時間が惜しいぐらいだった。


「まあ、ダンジョンが好きだからと言っておくよ」


「いや、いくら好きといっても限度が・・・」


「ステラちゃん」


 食い下がろうとするステラに、アンティアが口を挟む。


「マスターがなにかを隠しているのは確かだけど、今はマスターを信じましょ」


「アン・・・・・・」


「私はマスターを信じると決めた以上、マスターを信じるわ」


「わかった。私にしてはどうにかしていたな。私も我が君を信じよう」


 ステラが覚悟を決めたようにこくりと頷く。


「まあ、ご主人様がなにかを隠しているのは、前からですし。ゴブリン語を話していた辺りから、おかしかったじゃないですか」


 なにを今更と言いたげに、アマテはやれやれといった態度をとる。


「だが、我が君。いずれ我が君の秘密を私達に話してくれると、私は嬉しい」


「ああ、ありがとう」


 まあ、ただ言い出す切っ掛けが掴めなかっただけなのだけれど。実際、これほどの重要なアイテムを隠していることは、僕はかなりの犯罪者なのだろう。本来なら、ギルドなり、日本ダンジョン協会なり、国なりに手渡すべきなのだが、もし、彼等が『ダンジョン超裏技大辞典』を手に入れて解析したとして、平和な未来が待っているとは、到底思えなかった。他の団体も同様だ。そっちの方が手に入れた瞬間、碌でもない未来が待っているだろう。これはあくまでも、僕の趣味として使うのが、比較的平和な有用方法だと思う。


 まあ、それはそれとして、今はウェアタイガーとのコンタクトが重要だろう。


「ウガ、ウガ?」


 僕がそう言うと、ウェアタイガーは人間態になる。そこに現われたのは純白の髪をした少女の姿へと変わる。荒々しいが美しい容貌に、筋肉質だが、出るところは出ている十代後半ぐらいの見た目である。


「これが、人型形態か・・・」


「ウェアタイガーにしてみれば小柄よねと思っていたけど」


「ウー、ウーガー」


「で、我が君、この雌のライカンスロープは、なんと言っているのだ?」


 僕は少女の獣人が、言った言葉を翻訳する。


「人間に攫われた自分の妹と、それを追う兄と仲間達を探してほしいそうだ」


 こうして、僕達の前に一つのクエストが生まれたのだった。


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