表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/154

69 社マジメ

新章です

よろしくお願いします


 巨大なヒュドラが俺達を襲う。D級やC級ダンジョンにいるような子供のヒュドラではない。成熟した大人のヒュドラだ。九つの蛇首の牙は、それぞれ猛毒を宿しており、その息を吸うだけで、並の冒険者では即死してしまうほどだ。


 大木のような胴体は硬くしなり、普通の魔力の込められた剣では傷一つつかなかった。

 襲い掛かる蛇頭に大盾が数人横一列に並び、蛇の牙を防ぐ。しかし、二、三人、毒に侵されたようで、膝を着き戦闘不能となる。だが、俺はその隙を見逃さなかった。蛇の首を掻い潜り、手に持つ魔剣で一閃する。


 この剣は炎の剣であり、刃から炎を吹き出し、斬った相手の傷口を燃やす。ヒュドラの一首を斬り落とし、剣から吹き出る炎で焼かれ、ヒュドラが呻き悶える。

 それ見たクランメンバーが歓声を上げる。


 クランメンバーは総勢六十名。このB級ダンジョンの最下層ボスを倒すために、自分達が所属するギルド『ギガス』から集めた精鋭達だ。


 ヒュドラとは戦ったことはある。成獣ではなかったが、牙の猛毒に気をつけさえいれば、倒せない相手ではない。


 大盾持ちが俺達の前に立ち、蛇頭を防ぐ。その後ろにいる弓手が速射で矢を放つ。さらに詠唱を終えた魔法使いと魔法少女が火の玉を放つ。


「よし、槍使い、戦士、剣士は左右に分かれてヒュドラを攻撃!一列目は槍使い、二列は戦士、三列は剣士!ヒュドラを囲み、九つの首を全て斬り落とす!」


 一応、戦う前に練った戦術を再び口に出し、再確認させる。それぞれが持ち場について行動に移す。無数の矢と火の玉を受けたヒュドラの動きはない。このままヒュドラを囲み、一斉に攻撃すれば、難なく倒すことができる。


 しかし、それは希望から絶望へと変わっていく。中央で戦っていた大盾、弓手、魔法使いがヒュドラの猛攻で崩れ始めたのだ。さらに左右に分かれた部隊もヒュドラの吐息で状態異常を起こし、戦闘不能へと陥る。


「そんな馬鹿な?ここにいる連中は、毒耐性持ちだぞ。それなのに、何故こんなに速く毒が回るんだ?」


 俺はもう一度、ヒュドラに立ち向かい、胴体を斬る。


 硬い。胴体は斬ることができず、ヒュドラは煩わしそうに首を振る。


 ヤバい!


 俺は盾を構えて、蛇の攻撃に備える。その瞬間、強烈な衝撃が襲い、吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。


「う、うぐぐ・・・」


 なんとか生きている。レベルの高さが俺を助けたか。


 痛みを堪えて立ち上がる俺の元に一人の戦士が駆け寄る。このクランでも指折りの冒険者である。


「おそらく、あのヒュドラは、A級ダンジョン相当のヒュドラだ。このB級ダンジョンに生息しているモンスターじゃない。今まで発見されなかったのは、ダンジョン奥深くで身を潜めていたのかもしれない」


 身を潜める?つまり、今いる凶暴なヒュドラは、このB級ダンジョンの奥底で冬眠でもしていたというのだろうか?


「そんなことが・・・」


 ある。


聞いた事例は幾つもあった。F級ダンジョンにC級ダンジョン並の強さを持つモンスターが現われたことがある。だが、それは少ない数例だ。


「ここは撤退を進言する。今なら少数の犠牲で済むはずだ」


 どうする?ここで撤退するか?


 周囲を見渡すと、ヒュドラの暴威に腕の立つ戦士や剣士が倒れていく。戦士の一人がヒュドラの毒で血反吐を出し、苦しみながらヒュドラに喰われて飲み込まれる。剣士の数名がヒュドラの巨大な鞭のような胴体に押し潰され、首や足がおかしな方向に曲がり、動けないところを丸呑みされる。


 ダンジョンは冒険者がモンスターの狩る場所ではない。モンスターが人間を蹂躙する場所でもあるのだ。このままでは全滅は必須だ。


 出した俺の答えは・・・。




「あああああああ!」


 ベッドから若者が悲鳴を上げて起きる。隣で眠っていた裸の女性は何事かと目を覚ます。


「ど、どうしたの、マジメちゃん?」


「はあっ、はあっ、はあっ」


 社マジメは、汗だくになりながら、ベッドから出て冷蔵庫からペットボトル水を取り出し、コップに入れて飲み干す。


「ちくしょう。またあの夢だ」


「夢?」


「なんでもねえ。今日は帰る」


「えっ?ちょっと待ってよ。どういうこと?」


 服を着てホテルを出ると、まだ暗い。始発の電車が動くまで1時間程ある。マジメは、コンビニに寄ってコーヒーを購入し、夜が明けるのを待つ。


 五年。あのダンジョンの件から五年が過ぎた。


 五年前、十六歳の俺は歴代五位でF、D、C級ダンジョンを踏破し、期待の新人として、ギルド『ギガス』に迎え入れられた。


青髪の下には端正な容貌と、鍛えられたダンサーのようなルックス。冒険者としてのジョブも魔法剣士だ。素の剣術としての腕も優れている。C級ダンジョンをクリアした際は、テレビや雑誌のインタビューで引っ張りだこだった。


 B級ダンジョンの最下層の主であるヒュドラを打倒しようとしたが、その凶暴な強さにやむを得ず撤退を下した。だが、ヒュドラは逃走する彼等を逃がすわけもなく暴れ続け、六十名のクランメンバーの内、二十名の死傷者を出した。なんとか残り四十名を失うこと無く、ダンジョンから出た自分に対して、マスコミやテレビ、ネットの反応は、誹謗中傷の嵐だった。


 マジメは地位と名声を失い、ここまでこられたのは運が良かっただけと言われ続けた。


 当時付き合っていた彼女も別の男に奪われ、家族からも連絡が途絶えた。


 その後、なんとかメンバーをかき集め、B級ダンジョン攻略に向かおうとしたが、日が経つにつれて、動悸息切れが酷くなり、頭痛や耳鳴りまでするようになった。精神科の病院に通い続け、友人の支援もあり、徐々にダンジョンに入ることができるようになった。

 そして、ギガスに頭を下げて、もう一度B級ダンジョンに入ることが許されたのだ。目的はB級ダンジョン最難関、ドキューダンジョンの制覇である。


 彼が冒険者として名を上げるには、ドキューダンジョン攻略しかなかった。だが、ドキューダンジョンは、相当の腕利きの冒険者が集まらなければ、攻略することなどできない。

 この5年間、折れた心を取り戻しつつ、リハビリにリハビリを重ね、地道にダンジョンを攻略しつつ、仲間を募り、『ギガス』に頭を下げ続けた結果、B級ドキューダンジョンでも充分通用するメンバーを集めることができた。


 そして、今、社マジメ達は、B級ドキューダンジョン五十階層まで辿り着くことができた。途中クランメンバーであった、ハイ・D・レンジアが不祥事を起こし、抜けることがあったが、それでもここまで辿り着くことができたのだった。


 B級ドキューダンジョンは八十階層。ここから三十階層は、前の階層よりも厳しい冒険が待っている。それでも俺は、この困難を乗り越えて、一流の冒険者に再び返り咲かなければならなかった。


 苦いコーヒーを飲み終えて、始発の電車の時間になる。マジメはダンジョン踏破の準備のため、一旦家に戻って一眠りした後、ギルドに向かうのだった。




 BWダンジョンにある、冒険者ギルド本部『ギガス』の城に着く。


 さすがに大手ギルドであり、ギルドランキング一位だけあって、その城は王侯貴族のように豪華で大きかった。


 城のエントランスルームにいる受付から、上が呼んでいると言われた社マジメは、エレベーターを使って、上司がいる客室へと通された。


「次はない」


 そう平周一郎は、開口一番にマジメに言う。


「もう一度言う。今回は温情でドキューダンジョン攻略を許可した。だが、失敗したなら別のギルドに移籍か、ギガスから除籍してもらう」


「わかっています」


 マジメは深く頷く。


 平周一郎は、ギルド『ギガス』の会長である平金十三の次男である。長男は問題を起こして謹慎処分を受けており、実質時期会長候補と呼ばれていた。


「俺はお前の腕を買っている。冒険者として、パーティを纏めるリーダーとしての素質も、魔法剣士としての実力もな」


「ありがとうございます」


「だが、圧倒的に足りないものがある。それはわかるか?」


「それは・・・」


「運だ」


「運・・・ですか」


「どんなに家柄だろうと、素養があろうと、才能があろうと、運がなければどうしようもできん。もちろん努力とコネで運を引き寄せることもできる。だが、それは確率を上げるだけで、完全に運を手に入れるのは不可能だ。社会の変動をいち早く察知し、世界の情勢を掴み、自分を生かす手立てがあろうと、運がなければ全てが終わりだ」


 それは、彼自身の兄を差しているのかもしれない。素養も才もあった彼の兄は、金に溺れ、女に溺れ、権力に溺れた。最後にはギルド『ギガス』の傘下に半グレギルドを入れて、違法行為を繰り返した。兄はもういない。ギルドの会社員のパワハラと未成年淫行で訴えられ、ギルドから追い出されたのだ。そして兄が残した半グレギルドは内部で存続しているし、『ギガス』を腐らせ、窮地に追い込んでいる。

 


「俺は、自分の手で、運を掴んでみせます」


「期待はしている。だが、運を逃した時点ですぐ切る準備はさせてもらう」


 マジメは強く頷いて、ギルドを後にした。


 自分が運だけでここまできたとは思っていない。冒険者としての才能も、その才能を伸ばす努力もした。情報収集も怠らず、最下層ボスがヒュドラという情報も手に入れていた。仲間に助けられながらもクランをまとめ上げた自信もある。しかし、最後の最後で、ヒュドラの実力を測ることができなかった。


 本来いるはずのない凶悪なモンスターが現われたことで、運を掴み損ねたのだ。


 次はない。マジメは背水の陣で挑むしかなかった。


お読みいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ