68 ドラゴンニュート
よろしくお願いします。
青龍を倒した時、僕の傍には女天狗ヤタ・ジ・ハイペリオンだけだった。
「お頭」
「わかっている」
ドラゴン征伐している間から、ずっと僕達を観察している視線。その視線を感じつつ、僕は戦いに集中した。それはヤタも同様で、彼女は魔力と体力の消費を抑える眼帯を外したままだ。
「そこにいるのはわかっています。顔を出したらどうですか?」
僕は誰もいない、隠れることのできない草むらへと声を掛けた。すると、背が高く、顔は面長で、目が異様に大きい、額に角を生やし、臀部辺りに尻尾を生やした人型のモンスターが現われる。他にもその後ろに数人フードを被る一団が控えている。正体不明だが、おそらく、目の前の男性と一緒だろう。
「竜人『ドラゴンミュート』か」
ドラゴンミュート。人であって獣である、獣人のライカンスロープ、自然であって人の姿をした妖精と同様に、人の姿をした竜こそ、ドラゴンミュートである。
彼等は高度な魔術による透明もしくは迷彩で、隠れていたのだろう。だが、微かに感じた異質な魔力を僕とヤタは見逃さなかった。透明化して襲ってくるモンスターはごまんといるからだ。
「安心しろ。我々は危害を加えるつもりはない。いや、お前の連れのサッキュバスの歌で、我等のほとんどは行動不能に陥っている」
リリカの歌で動けないということは、おそらく僕等が四神と戦っている最中、僕等に危害を加えようとしていたのだろう。だが、リリカに命じた敵対するもの全てに状態異常を与えたことが、竜人にも該当したということだ。
「我々は主の言葉を伝えに来た」
「言葉?伝言か」
「同胞の一部を調べるのはいい。だが、無断で同胞の一部を複製し、我の庭で使用することまかりならん」
「竜骨と竜玉のレプリカのことか」
そして、主とはドラゴンだろう。亜種ではなく、純種の。
「そうだ。これはあくまで警告だ」
「何故、僕に伝える?僕より自衛隊に直接云うべきだろう?」
「それは、お前が勇者だからだ」
「勇者?僕は勇者のジョブを貰っていないし、スキルも有していないぞ」
「あのような仮初めの名付けではない。お前の行動全てに勇者としての資質が含まれている。異世界の勇者よ。ダンジョンをよく識ることだ。お前にはその資格がある」
「賛辞として受け取っておくよ」
「もう一度伝える。これは警告だ。我等の一部の紛い物でダンジョンを踏破しようとするな。次はない」
そう言って、竜人達は音も無く消えていった。
彼等が去った後、ぶわっと大量の汗が流れる。足が震えて動けない。ドラゴンミュートに怯えたのではない。彼等の後ろにいる強大な力が僕等を脅したのだ。
「大丈夫か、お頭?正直わっちも体が動かん。あの竜人達の後ろにいる大物の気配に臆してしまったようじゃ」
「ああ。どうやら俺達はとんでもないことに関わったみたいだな」
僕は今にも失禁して倒れそうになるのを堪えて、体の震えが止まるまで、しばらくヤタと一緒に固まっていた。
実験部隊の内、自衛隊の将校と整備班、そして企業のメカニックマン、システムエンジニアは無事だった。死亡者のほとんどはアームド・パワードスーツ『吉備』の搭乗者と『吉備』を援護する機動歩兵部隊の面々であり、一般人を含む後方支援部隊を全員護ったのは、面目躍如といったところだろうか。
僕こと、乙橘勇大は、パフェとカフェ、ステラ、リリカ、ヤタを召喚カードに戻し、絡繰りの魔女ファブリケ・ジ・ダンカイザーとオオカミのアマテ・ジ・ロックドアー、半人半竜のメリュジーヌ・ジ・エキドナを連れて、自衛隊の生き残りに合流した時、自衛隊の生き残りは警戒する様子を見せていた。それはそうだろうな、とちょっと思う。自分達が造ったパワードスーツをあっさり破壊され、多くの自衛官の命を奪ったネームド・ドラゴンを僕達が倒したのだから。
僕は、ドラゴンミュートに遭ったこと、その言葉を伝えると、周囲が大いにざわめいた。
「やはり紛い物とはいえ、竜骨と竜玉に頼るべきではなかったのだ。ドラゴンは脅威であり、手を出すものではなかった」
そう言ったのは壮年の男性で、首に掲げたプレートには、日本ダンジョン協会と書かれていた。
「まあまあ、確かにそうですな。我々はドラゴンを過小評価していたのかもしれません」
そう言ったのは、年齢は三十代程のイケメンと言っていい男性である。どこかで見た顔だが思い出せなかった。よく見ると、背広に議院バッチを付けている。
「そもそも、あなた方がレプリカなら大丈夫だと説いたからではないですか。そのために尊い自衛官の命が失われたのですよ」
「彼等の命は大事です。彼等も我々と同じ国民です。ですが、ここはダンジョン。ダンジョンである以上、過酷な状況下での実地試験であったことの覚悟はあったはずです。そして、彼等の死は無駄ではなかったと私は思いたい」
くるりと僕の方を見る議員。
「乙橘勇大くんですね。私の名前は特山田みつたろう。君の事は千田議員から聞いているよ。千田議員の息子さんをモンスターから救ったそうだね」
「はあ・・・」
「そして見せてもらったよ。君の冒険者としての実力を。自身の持つ召喚カードを使い、実質単身で三体のネームド・ドラゴンを倒すなんて。君の実力は一流のプロ冒険者に勝る」
「ありがとうございます」
まあ、褒められて嬉しくないわけじゃない。相手は政治家であり、自分と所属する政党と国の利益でしか物差しを計るしかできない人間だったとしてもだ。
「そこで一つ君に聞きたいことがある。玄武を倒した、あのロボットは君が使役したのかね?」
ロボット?ああ、ダンカイザーのことか。
「そうですけど、正確にはここにいる絡繰の魔女、ファブリケ・ジ・ダンカイザーが造ったゴーレムです」
僕は、アマテ達と戯れているファブリケに顔を向ける。
「ふむ」
特山田議員は、僕に顔を近付けて耳元で話す。
「実は私は魔女が苦手でね」
「そうなんですか?」
「ああ、西洋のお伽話であるだろう。魔女というものはなんでも願いを叶えるが、逆に人を誑かし、罠に嵌めるのが得意な生き物だ。そうでないのはわかっているが、民衆とマスコミはそうはいかない。政治家として魔女と関わり合いになったと知れ渡れば、それはリスクになりかねない」
「なるほど」
魔女や魔法使いというものは、童話のキーパーソンだ。善い魔女や悪い魔女もいる。そしてなんでも願いを叶える象徴でもある。夢と欲望の見分け方が曖昧なのと同様、魔女の叶えるものもまた曖昧である。魔女にとって相手の失敗と成功は二の次で、願いを叶えることこそが目的。政と仕事とする政治家にとって、魔女と知り合うということは国民に不信感を抱かせるのに充分なのだろう。
というのが、童話の魔女だが、ダンジョンにいる魔女は違う。ダンジョンの魔女は、自分の魔術の研究に全てを捧げ、人間を辞めた人達が大半だ。彼等に望みはなく、ただただ純粋に魔術の可能性を求め、失敗も成功も一つの事例として実験を繰り返していく。
願いを叶えるのではない。成功するか失敗するか症例の結果として試したいだけである。
「しかし、君の召喚モンスターであることは変わりない。そこでだ。君が彼女に命令して、次世代型のパワードスーツの設計に携わってもらえないだろうか?」
「ファブリケにですか?」
「そうだ。竜骨と竜玉が使えない以上、我々の計画は白紙に逆戻りだ。だが、逆に言えば、竜骨と竜玉等のドラゴンに関わり合いを持つ遺物に頼らなければいいだけの話しだ。しかし、それは『吉備』の性能を上回なければ意味がない。現にネームド・ドラゴンとはいえ、亜種に破壊されたわけだからね」
「それで、彼女の絡繰りの技術を借りたいと」
「そういうわけだ。このまま、なにも持ち帰らなければ、私も含めて誰かが責任を取らなければならない。我々は実験に失敗したが、得るものがなければならないのだよ。もちろん、君の所属するギルドにも、日本ダンジョン協会にも話しをつけとくよ。悪い話しではないだろう」
だんだんときな臭くなってきたなあ。特山田議員の目には、利権という文字がくっきりと見える。いずれにしろ、決めるのは僕じゃなくて、ギルド『エウメニデス』の津上社長か。
「わかりました。ですが、僕の一存では決めかねますので、一度ギルドに話しを持って帰りたいと思います」
「うん。そうしてくれると助かるよ」
こうして僕は、裏世界である竜人と表世界の政治家と関わりを持つことになるのだが、それによって、僕の人生が大きく変わっていくことに、僕はまだ気付かないでいた。
ようやっと、十枚の召喚モンスターの最後の一体、ファブリケ・ジ・ダンカイザーが出てきました。
重武装ゴーレムのダンカイザーは出てきましたが、その中身であるファブリケは初の登場となります。
これにて第一章の終了となります。
とは申しましても、第一章が終わったからといって期間を空けることはしません。
ほぼライブ感覚で書いているので、このままライブ感覚で書き続けていきたいとおもいます。
ただ話しが長くなり、登場人物が増えてきましたので、設定や抜けた穴の外伝のようなものを
書きたいと思っていますので、よしなに。
今までこの物語にお付き合いしてくれている読者様本当にありがとうございます。
拙い文章ですが、なるべく努力して書き続けていきたいと思っておりますので、お付き合いください。
では、これからもよろしくお願いします。




