66 四神(の内の三竜)
よろしくお願いします
魔道ライフルからから放たれた弾丸は、恐ろしいスピードで赫光に輝きつつ玄武に着弾、爆発する。玄武の甲羅は抉り取られて、赤い血が飛び散る。その傷口に向かって、ハルバードを振り上げて叩き斬る。
「ゴアアアアアアアアアア!」
玄武は泣き叫び、大量の水を召喚させて、ダンカイザーをはね除けようとするが、ダンカイザーは大盾でそれを防ぐ。
三倉さんは今見ているものが信じられない様子だった。
まさにB級映画の怪獣と巨人の戦いである。玄武が吠え、ダンカイザーが叩き斬る。しかし、玄武の仲間は二柱いる。青龍と白虎だ。
青龍は上空を泳ぎながら、大地から襲い来る植物を発生させ、白虎が吠えると岩石が宙に浮き、飛びかかってくる。
リリカ・ジ・モリガンが歌い、相手にデバフを掛けて、ステラが雷の矢を放つが、金の属性を持つ白虎と木の属性を持つ青龍には効果はあるものの、致命的にはならない。アマテとメリュジーヌは僕の後ろに隠れている状態だ。
仕方ないと思いつつ、僕は二枚のカードを切る。
「スキル【召喚】。出でよ、エルフ、パフェ・ジ・スィート!」
カードより、パフェ・ジ・スィートが召喚される。さらにもう一枚。
「スキル【召喚】。出でよ、ダークエルフ、カフェ・ジ・ビター!」
カードより、カフェ・ジ・ビターが召喚される。
「おい!勇大よぉ、うちとパフェを同時召喚するなって言ったよなあ!」
「勇大!どうして、わたしとカフェを召喚するの!」
やっぱりか。僕の召喚モンスターである、エルフとダークエルフはすこぶる仲が悪い。会えば殴り合いが定番である。しかし、今回は二人の協力が必要だった。
二人もカードから外の様子は知っていたのだろう。この三柱を倒すには、どうしてもこの二人の協力が必要だった。
「お叱りはしっかり受ける!だけど、今回は僕を助けてくれ、頼む!」
僕は二人に頭を下げる。
「ちっ。貸し一つな」
「わかってますわよね」
「ああ、甘んじて受けます」
二人は睨み合いながらも、僕の言うことは聞いてくれそうだ。
「【召喚】ペガソス!」
パフェが戦車を引いた純白のペガサスを召喚し、乗り込む。
「【召喚】グリュプス!」
カフェが、戦車を引いた漆黒のグリフォンを召喚し、乗り込んだ。
パフェは、白銀の衣を纏い、ペガソスで空を飛ぶ。弓矢を構え、白虎に向けて矢を放つ。相手は亜竜種とはいえ、それなりに名の知れたドラゴンだ。加減はできない。
パフェが放った矢は、星のエフェクトと共に白虎に向かうが、白虎は自身を硬質化させる。しかし、パフェの矢は硬質化させた鱗を貫通し、星のエフェクトとともに白虎の護りを砕いていく。白虎が距離を取って後退すると、カフェがグリュプスを駆って、黒刃で斬り裂く。
白虎は金属性のモンスターだ。石や岩、鉄等の鉱物系を操り、自身の体を金剛のごとく硬くすることができる。まさに攻守両用の手強い亜種ドラゴンだ。しかし、パフェとカフェによる絶え間ない光と闇の凶悪すぎる強力な高位魔術と、ペガソスとグリュプスによる一撃離脱により、徐々に押されていく。
「ステラ、ウォーリーの召喚を頼む」
「はい」
僕の言葉で彼女は、僕の馬を召喚する。
「よろしく頼む。ウォーリー」
僕は赤毛の馬を撫でると、馬がヒヒンッと嬉しそうに鳴く。
「三倉さん」
「な、なに?」
「あなたは、あのパワードスーツの搭乗者や生き残りの自衛官を救助してください」
「あなたはどうするの?」
「僕はこれから四神を退治します」
「で、でも、相手はドラゴンなのよ」
「ええ。でも、このままではあなたが所属する自衛隊は全滅します。あなた達がしたことがドラゴンの逆鱗に触れたことをしっかり覚え、上に伝えてください。そして、僕達がドラゴンと戦っている間、生き残りの救助をお願いします」
「わ、わかったわ。うう、ほんとは私が指示する立場なのに」
三倉さんの小言は放っておいて、僕はステラをカードに戻し、一枚のカードを取り出す。
「スキル【召喚】!出でよ、ヤタ・ジ・ハイペリオン」
「応よ!」
漆黒の女天狗、ヤタ・ジ・ハイペリオンがカードから召喚される。
「事態は理解しているな」
「お頭がまた無茶な相手と喧嘩しているぐらいはの」
「頼む。最初から全力でいく!」
「任された」
「アマテ、メリュジーヌ」
「はい。ご主人様」
「あい。ごしゅじんたま」
僕の言葉にアマテ・ジ・ロックドアーとメリュジーヌ・ジ・エキドナが返事をする。
「お前達は、三倉さんを護って自衛官の残党の救出を頼む」
「わかりました。お任せ下さい」
「がんばりまちゅ」
「リリカ」
そして、最後に僕はリリカを見る。
「はい、勇大様」
「僕達に敵対するモノのみに状態異常を与えてくれ」
「敵対するモノ・・・。わかりました」
深々と頭を下げるリリカ。なんだろう、近頃彼女達が三文芝居じみた接し方してくるなあ。
「無理はするなよ」
「はい」
今現在、フェブリケ・ジ・ダンカイザーは、玄武と熾烈な戦いを行なっており、玄武が水を操り、足場を泥沼にして重装機ゴーレム、ダンカイザーの足場を奪い、強烈な水流で打撃を与える。ダンカイザーは盾で水流を防ぎ、玄武のひび割れた甲羅から除く傷に斬撃を与えていた。その玄武を救おうと青龍と白虎が動き出すが、エルフのパフェとダークエルフのカフェに遮られている状態だ。
「行くぞ!」
僕は愛馬ウォーリーに跨がり、女天狗のヤタと共に四神討伐に向かった。
青龍は木属性の魔術を無詠唱で行ない、ありとあらゆる植物を発生させる。樹木により敵を押し潰し、相手の攻撃も防ぐ、青龍自身は空を舞い手の届かない場所へと距離を取る。さらに玄武の水属性魔術で木々を活性化させ、攻撃と防御を倍加させている。まさに手強いモンスターだ。
「ヤタ!この三体を合わせるな。各個撃破で倒していく」
「応よ!」
四神の怖さは、相互による連係プレーだ。玄武の水の力で青龍は木属性は活性化し、青龍による木属性が地の底から鉱石を掘り出すことで、白虎の金属性を引き上げ、白虎の金の力で玄武の護りを強固にする。
玄武はファブリケに、白虎はパフェとカフェに任せ、僕達は青龍を担当する。
ヤタは右目の眼帯を外し、灼眼の瞳が現われる。一気に彼女の周囲の気温が上がる。彼女が左手の団扇、右手の剣を振るうと炎が吹き出し、青龍に襲い掛かる。
「スキル【炎舞】じゃあ!」
青龍は、樹木を大地から発生させて炎を防ごうとするが、ヤタの炎は樹木を燃やしていく。しかし、青龍の樹木は森を形成するかのごとく、炎を覆い尽くし消火する。さらにはファブリケと戦っている玄武の援護がある。もともと、自分達がここに辿り着く前には、この辺りには広く浅い水溜まりができていた。気にしなければ普通に歩ける程に浅いが、これが玄武の結界だとすると、自分達は玄武の体の中にいるのと一緒だ。
その水がヤタの炎の勢いを阻害しているのだ。
「おうおう、さすがはネームド・ドラゴンじゃのう」
「ヤタは前から青龍を狙え!ステラは左、僕は右で側面を突く」
「応よ!」
「ああ!」
ヤタは炎を集中させ、強力な火炎放射器のように発射する。それを青龍は樹木から粘液力のある樹液を吐き出して炎を防ぐ。さらにその樹液でヤタを絡め取ろうと襲い掛かる。やっかいなのはそれだけではない。青龍の植物の根は、おそらく玄武の結界にある地全てに張り巡らされており、全方位から大樹と蔦が襲ってくるのだ。
「ちゃっちゃっ、面倒くさいのう!」
眼帯を外したヤタの周囲には、熱が放出されており、並大抵の攻撃はすぐに消し炭にしてしまう。しかし大樹だと炭となって燃えつつも、ヤタに体当たりをかましてくるので、ヤタは回避しつつ、前方の青龍を相手にしなければならないのだ。
ほぼ拮抗状態のヤタと青龍を尻目に、僕とステラは側面を狙う。僕の持つマジカルライフルは、ファブリケ作の魔銃である。BWダンジョンでも販売している魔石を加工して作った弾丸も使用でき、さらに使用者の魔力によって威力も倍増する優れものである。
僕は空に浮いている青龍に向かって、マジカルライフルを放つ。馬に乗りながら撃つのは、かなり難しい。
当たった。
まるで5両ある電車が宙を浮いているかのような巨大な青龍に効果はなさそうな気がするが、青龍はゴアアアアアァアアッと悲鳴を上げる。そして、青龍はこちらに向けて蔦を大地から発生させて、攻撃してくる。僕は馬を走らせてなんとか避ける。その時左側面のステラから矢が放たれて、青龍を射貫く。宙をのたうち回る青龍。そこにヤタの炎が青龍を飲み込んだ。