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60 あたしなんかやっちゃいました?

よろしくお願いします

 ヤタ・ジ・ハイペリオンが首筋に付けた【迷いの妖精糸】を二度引っ張ったことで、呪いの迷宮の本館の場所を特定することができ、【迷いの妖精糸】の道筋を辿ってゴールに辿り着くことができた。そこには、ヤタと予想通りにいた山門クララが、蛇のモンスター、ラミアと対峙していた。


「ヤタ、無事だったか」


「おう、お頭。わっちもそこの竜使い娘もピンピンしとるぞ」


 ヤタの指し示す方角に山門クララがそこにいた。大した怪我もしていないようでなによりだ。表情も覚悟を決めたようでなによりである。


「ありがとう、ヤタ。どうやら彼女を救ったようだね」


 僕はヤタの頭を撫でる。彼女は嬉しそうに僕の肩に頭を乗せる。


「わっちはなにもしてないぞ。ちょっと背中を押しただけじゃ」


「その押すのが大変なんだよ」


「ふふん、お頭に褒めて貰えるのは悪くないな」


「ちょっとヤタさん、良い仕事したからってマスターに甘えないでください」


「良い仕事なら私もする」


 アンティア・ジ・チアフラワーとエイレネ・ジ・アイスリヴァーが羨ましそうにこちらを見る。


「ヤタ、少しカードの中で休め。チアフラワー、エイレネ、頼む」


「任せてください!」


「ならば見せてやろう。我が魔力の奔流を!」


 アンの花の匂いが蛇の嗅覚を刺激する。嗅覚が鋭い蛇は状態異常に陥り混乱する。


「くらえ!我が拳!【フローズンダスト】!」


 エイレネの拳から吹雪が放たれ、ほとんとの蛇が活動を停止し凍り付く。変温動物である蛇はエイレネから放たれる冷気に耐えることができなかった。

 その内にパフェ・ジ・スィートが、山門クララに近づく。


「大丈夫?怪我はないようね」


「あなたは、店で会ったエルフさん?」


「そ。で、急で悪いのだけど、あたし貴方の推しになるわ!」


「え?」


 エルフの急なカミングアウトに山門さんは吃驚した様子だ。


「貴方のことが気に入ったのよ。もちろん性的な意味ではなくて、アイドル的な意味でファンになったわ。これからも貴方を応援させて」


「はあ・・・」


 パフェの勢いに山門さんも押され放しである。


「もっと話したいことが色々あるけれど、まずはこの状況をどうにかしないとね」


 そう言って、パフェは目の前にいるラミア達を見る。すでに弓を構えており、戦闘態勢に入っていた。

 僕達はラミア三体と対峙する。周囲の蛇の群れはエイレネの冷気で半ば冬眠状態だ。

 まず切り出したのはラミアだった。


「これはあまりよろしくありませんね」


「どうする?ここで退いて、僕達を見逃すか?」


 逃がす気はないだろう。僕達を餌と思っている以上、このモンスターがここで退くとは思えない。


「はい。ここは退きます。でしたら、ここを引き払って別の場所に移住しますわ」


 ラミアの返答は意外なものだった。


「なに?」


「正直ここで戦っても双方にリスクが高いですし、痛み分けは必定。それに私達とあなた達に恨み復讐の縁故もありませんし。この館の場所が見つかった以上、ここに執着する理由もございませんし。なんでしたら、ここにある宝物庫にある宝物もあなた方に差し上げますわ」


「戦う意味ない」


「痛いの嫌」


 他二体のラミアも同意の意を示す。なんとも物わかりのよい高いモンスターである。


「なにしろ、我が主が溜め込んだアイテム類ですし、私達にはなんの価値もありませんから。ただし、そちらの冒険者のお仲間方との契約は破棄ということになりますが・・・」」


「わかりました。ちなみに聞きますが、無効は無理ですかね」


「はあ、それはちょっと無理ですね。契約無効は、こちらもリスクが高いので」


「ですよね」


 契約無効。破棄とは呪術を一方的な都合で契約を破ることになるが、無効はその呪術そのものを無しにすることである。しかし、それは呪術にしろ魔術にしろ、契約した側の負担が大きすぎるからだ。

ここにいるラミアを倒したとしても、呪術の契約をした以上、無効になることはない。それだけ人を呪いに掛けるということは、契約する側の覚悟が必要になる。


「わかりました。というわけなんだが、お前達はそれでいいか」


 僕は、パフェ、エイレネ、アンティア達に尋ねる。


「私は構わない。目的は果たしたも同然だし、無理に戦う必要はないだろう」


「無駄な流血は必要ないわ。この方達がここを去るというのであれば、私が言うことはなにもないわ」


 エイレネとアンティアは同意する。そして、パフェだけど・・・。


「あたしも賛成よ」


「いいのか?」


「あたし、あんまりラミアと相性がよくないのよ。昔ね、勇者軍に在籍していた頃、蛇使いの魔女と使い魔のラミアと戦った事があるのよ。もちろん勝って念入りに滅ぼしたけどね。結構手強かったし、ラミアと戦うのは、もういいかなって思ってたのよね」


「お待ちください!」


 横やりを入れたのは、ラミアの一体だった。


「お前が殺したという魔女は金蛇の杖を持っていなかったか」


「えっ、持ってたよ。あの趣味の悪い杖ね」


 その瞬間、周囲の気配が変わる。それは紛れもなく殺気だった。


「すみません、人間の冒険者。どうやらここで貴方達を見過ごすことができなくなりました」


「それは、どうして」


「どうやら、そこにいるエルフは、私達の主である魔女と私達の母であるラミアを殺した疑いがあるようです。しかも、主が持っていた金の蛇杖の事を知っている以上、間違いないように思います」


「私達の主、母殺した、許せん」


「よくもよくもよくも、主と母を殺した、殺した殺した殺した、殺すうううう!」


「え、えええ?」


 驚きの声を上げたのは、パフェだった。いや、もう少し早く気付くべきじゃない、そこ?パフェは、憎悪に満ちたラミア達を見て、僕の方を見る。


「あの、あたし、なんかやっちゃいました?」


 いや、やっちゃったというか、不用意な発言多過ぎだろ。


「こうなった以上、ここでは手狭。本気で戦わせていただきます。

 キエエエエエエエアアアアアアアアアア!!」


 ラミアが叫んだ瞬間、建物が崩れていく。僕達は上から落ちてくる屋根に押し潰されないように、屋敷から脱出する。そこは大きな洞窟だった。おそらくこここそがラミア達と蛇の住処なのだろう。

 そして中央には地底湖が存在し、そこにいるのは、巨大な八頭の首を持つ大蛇だった。


「オロチか?」


 オロチ。神話級モンスターで全長は百メートル程あり、八頭の首が禍々しい蛇眼を向けている。


「マイロード、気をつけてください!あのオロチの邪眼は並の者なら恐慌状態に陥ります」



 確かに。レベルが高くてなんとか恐慌状態からは避けることができたが、それでも手の震えが残る。状態異常不可の護符を持っていても耐えきることはできなかったか。


「それでは始めましょう。まさかここで主と母の復讐ができるなんて!」


 地底湖の水が勢いよく噴射し、そのまま津波のようにこちらに襲い掛かる。


「エイレネ!」


「ああ!【フリージング・ワールド】」


 エイレネ・ジ・アイスリヴァーの足元にアスタリスクの結界が描かれ、そこから一瞬で地底湖一帯が凍結していく。地底湖湧き上がる津波は、瞬間冷凍されて氷のオブジェとなる。オロチも凍り付くが、その魔力は失われてはおらず、すぐに氷を破ってくるだろう。それまでにラミアを倒す。

 僕達は、ラミア三体に向かって突進した。



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