57 ドラゴネット
よろしくお願いします
私こと、山門クララは失望の中にいた。
カヲルが去った後、他の子達は蔑んだ目で私を見る。その目は以前よりも重く濃く感じる。私は逃げるようにその場から離れた。
現在私達は、B級ダンジョン15階層で休息を取っている。マッピングをあらかた終えており、後は階層ボスに辿り着くだけだ。ここまで苦難の道程だったが、なんとかここまで辿り着くことができた。階層ボスに近づくにつれて山岳地帯が増えて、今いる所は切り崩したような崖が多く存在している。強風が吹き荒れて歩行がままならないため、強風が止むまで小休止となったのだ。
ここに到るまで、六名の冒険者パーティで普通に考えて辿り着くことなど不可能だ。そのため同じギルド内の冒険者パーティと手を組み、クランとなってB級ダンジョンクリアを目指すのだ。
その時、別の冒険者パーティからモンスターが出現したと報告があった。
私は急いで空を見ると、巨大なロック鳥が三羽現われ幕舎を荒らしていた。巨大な風を巻き起こし、空を旋回しつつ冒険者を襲う。他パーティは魔法で結界を張り、風を防ぎつつ弓矢で応戦するが、ロック鳥には届かない。ロック鳥は魔法使いの結界を破り、冒険者を襲う。鋭く大きな爪が冒険者の盾を破壊し、甲冑を突き刺してそのまま空に連れて行こうとする。
「ぐわっ」
このまま空に攫われそうになるところを、別の冒険者数人が槍でロック鳥を突き刺す。ただの槍ではない、魔法によって強化された魔法槍だ。ロック鳥の羽毛を突き破り、肉体を斬り裂く。このまま囲い込もうとするが、他のロック鳥が強風を巻き起こし、その隙にロック鳥は逃げ出すことができた。
『ハイ・D・レンジア』のメンバーも盾持ちと槍使い、弓手の三班を作り応戦する。しかし、戦いは芳しくなかった。
私は召喚カードを取り出して、モンスターを召喚する。
「【召喚】ドラゴネット」
私の言葉でドラゴンの子供が召喚される。亜竜種ではない真性のドラゴン種。
私が大きく変わった理由、それはこの子を手に入れたためである。
C級ダンジョンに潜っていた頃、他のメンバーとはぐれてしまい、道に迷っている際に一匹の怪我をしたドラゴンの子供と遭遇した。私はこのドラゴンの子が、怪我が治った直後、襲ってくる可能性があるとわかった上で、この子に残り少ないポーションを使い、持ち歩いている救急セットで傷の手当てをした。
私はこの子を背負いながら、なんとか皆と合流することができた。その頃にはドラゴンの子は、私にすっかり懐き、私はドラゴンライダーになることができた。
その後、私のレベルは経験値を得る度にどんどんと上がっていき、剣士としてのスキルも体得した。それがメディアやマスコミの目に留まり、気付けばテレビやネットで注目の的となっていった。
『竜乗りの美少女剣士』
ネットニュースは、恥ずかしいネーミングで私を取り上げ、テレビではドラゴネットに乗る私の映像が連日流れた。私はあまり目立つのが好きじゃなかったけど、これが『ハイ・D・レンジア』の知名度に繋がればと思っていた。しかし、待っていたのは冷ややかな視線とメンバーからの陰口だった。
彼女達は私だけがメディアに取り上げられるようになったのが気に入らなかったらしい。私と仲間達との間に大きな亀裂ができてしまっていた。
ドラゴンの子といえども、私を背に乗せて飛ぶことができるくらいには大きい。
「行くよ、スイちゃん」
ガアアアアァァァ。
私が名前を呼ぶとスイちゃんは大きい翼を広げて空を飛ぶ。ドラゴンライダーとなった私は長槍と盾を持ってロック鳥に立ち向かった。
私達の存在に気付いた三羽のロック鳥は、翼を大きく羽ばたかせて強風を生み出す。その余波に吹き飛ばされる冒険者もいたが、ドラゴン特有の結界により効くことはなく、私達は構わず特攻を掛ける。スイちゃんの口から衝撃波が生み出され、先程の怪我を負ったロック鳥が正面から当たり、体が粉々に砕け落ちる。二羽目のロック鳥が迂回して私達を襲い掛かろうとするが、私は長槍で牽制しつつ、ロック鳥の首元に槍を突き刺す。
「ふっ!」
ドラゴンの魔力を帯びた槍は、ロック鳥の首を容易く突き刺し、地面に落とす。そこに待つのは武器を持った冒険者達。
残り一羽は逃げようとするが、地上からの矢と魔銃の応酬により傷を負い、さらにスイちゃんの衝撃波により、地上に追突した。
おおおおおおおおっ。
冒険者達は自分達の勝利に酔いしれ雄叫びを上げる。
私はほっと息を吐き、地上を見ると、そこには苦々しそうに私を見るカヲルを始め『ハイ・D・レンジア』のメンバーの姿があった。
黄林カヲルは、憎々しげに翼竜に乗り空を舞う少女を見る。
初めて会ったとき、自分達が作った冒険者パーティ『ハイ・D・レンジア』のメンバー募集に応じてきたのを思い出す。
「・・・山門クララです。・・・冒険者希望です。・・・よろしくお願いします」
初めて会った時、おどおどとした態度に視線は泳いでおり、いかにも緊張している様子が見て取れた。甘栗色の髪をした綺麗な少女。なんでも祖母がヨーロッパ系とのことで、こんな綺麗な子が本当に冒険者になれるのか危惧したものだ。とにかく稼ぎたいというのが彼女の要望だった。これだけ綺麗なら別の職業でも食べていけそうなものだが、人とのコミュニケーションが上手くいかなさすぎて駄目だったと聞いている。
ダンジョンでの彼女は、いわゆる使えない娘だった。人とのコミュニケーションも苦手で、報連相もできない。モンスターと戦ってもレベルの上がりも遅い。それでもなんとか頑張って付いてくることができていたので、無下に辞めさせることができず、そのままずるずるとパーティに居続けさせることとなった。
ダンジョンに潜るのは辛く、いつモンスターが襲ってくるのか耐えきれなくなる、大怪我をする、泊まり込みが辛い等、どんどんと仲間が辞めて行くにもかかわらず、彼女だけは辞めずに付いてきていた。
古株メンバーは黄林と山門意外辞めてしまったが、新しいメンバーは有能であることが多く、黄林は新人に対する面倒見が非常に良かったので、皆彼女を慕ってくれるようになった。山門の方は相変わらずコミュ障で、新人からも避けられてはいたが。
レベルが上がらず、どんどん新人に追い抜かれていく彼女を見て、いずれはパーティを抜けるだろうと思っていた。大手ギルド『ギガス』への加入が決まり、これ以上お荷物はいらないという『ギガス』からの通告も得て、山門クララはどうしようもなく追い詰められていった時、彼女は最後の運を引き当てるのだった。
ドラゴンの子というレアモンスターを。
それからの彼女は今まで上がらなかったレベルが嘘のように上がり、ドラゴネットに跨がり、活躍していった。ドラゴンの子ということで、国やマスコミが騒ぎ出し、テレビや雑誌にまで取り上げられ、一躍時の人へと変貌した、
テレビで映る彼女はまるで別人のようだった。どうやらコミュニケーション下手を治すため、影で相当努力していたらしい。その彼女の努力を黄林は気付くことはなかった。
気がつけば、ガールズ冒険者パーティ『ハイ・D・レイジア』は、山門クララを盛り上げるために存在する格好となった。それまで見下していた彼女が、いきなりレアモンスターを手に入れて、変貌していく。黄林は大きな疎外感を味わうことになる。
そんな彼女を支えてくれたのはマネージャーの平周近だった。大手ギルド『ギガス』に勧誘してくれたのも彼で、私生活でも彼女のパートナーとなっている。
「なあに、ああいうのは一発芸人と同じですぐに消えていくだけさ。いずれ彼女の化けの皮が剥がれて風化していくよ」
「そうだね」
マネージャーの言うことはいつも正しい。だけど、黄林は知っているのだ。彼女が図太い性格をしているのを。どんなにあしらわれても、新人に抜かれても、落ち目のどん底にいても、決して諦めないことを。
私はメンバーを集めて今後の事を語り合った。
そう今後のことを・・・。




