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56 山門クララ

よろしくお願いします

 そこに立っていたのはさらりとした亜麻色の髪を腰まで流した美少女だった。


「なんだ、お前は?」


「あなた達がしていることは、この店の迷惑ですし、『ギガス』の冒険者の名を汚しかねません。この店から出て、もう二度と関わらないでください」


 言っていることは丁寧だが、内容は辛辣である。二度とこの店を跨ぐなと言っているのだから。


「ああん」


「テメエ、俺達にいちゃもんつける気か」


「ガキの癖に俺達のすることに口出しすんじゃねえよ」


 冒険者パーティ『ホーリー・エーモン』は少女を囲み出す。

 ステラは、これはまずいと思った。可憐な少女が野蛮な連中を相手にするなんて、ステラの騎士道がそれを許すはずがなかった。立ち上がろうとすると、肩に手が乗り制止させられる。誰だと思い、その手の先には乙橘勇大の姿があった。


「我が君・・・」


「お前達、よく我慢したな」


 ステラはこの言葉で救われた気がした。我慢するということは体に悪いとはよく言ったものだ。見ると、パフェもアンティアも矛を収めている様子である。


「しかしどうする?あんな少女一人じゃどうすることもできないぞ」


「できるさ。この状況で彼女は適任だ」


 ステラは、勇大の言葉に疑問を持つが、一応成り行きを見守ることにした。冒険者パーティ『ホーリー・エーモン』は、四人。そして相対する少女は一人。この現状をどう収めると言うのだろうか。


「てめえ、なにもんだ?」


 『ホーリー・エーモン』の一人が少女に突っ掛かる。どこかで見た容姿だが、思い出せずにいると、仲間の一人が思い出したように声を出した。


「あっ」


「どうした?」


「タカちゃん、こいつ俺達と同じ『ギガス』の冒険者ですよ」


「なんだと?」


「確か、B級ダンジョン攻略中のガールズ冒険者パーティ『ハイ・D・レンジア』のメンバー、山門クララだ」


「ああっ?」


 そういえばテレビで見たことがあったのを思い出す。女子のみの冒険者パーティで、その中でも美少女でテレビや雑誌に出ていることが多い、まさしく冒険者達のアイドル的存在だ。しかも、B級ダンジョンに潜っているということは、レベルでも彼女の方が上ということになる。


「もう一度言います。あなた達のしていることは、『ギガス』の冒険者として品位を損ないます。もう二度とこの店に立ち入らないでください」


「んだと、この・・・」


「タカちゃん、やめた方がいいぜ。相手は『ギガス』のお気に入りだ。彼女になにかあったら、ギルド除籍になっちまう」


 ここまで言われて、黙ることはできず言い返そうとするが、仲間に止められる。このままでは『ホーリー・エーモン』としての面子が丸潰れだが、『ギガス』から除籍されることの方がリスクは大きかった。


「くそっ!わかったよ」

 彼等は仕方なく店から出る。こうして飲食店に再び平和と静けさが戻っていった。




 山門クララは、ふうっと息を吐いた。


 こわかったああああ。


 いやあ、正直怖くて怖くて仕方なかった。


 でも、同じ『ギガス』の冒険者だし、ギルドとしてのブランドが傷ついてしまうのも迷惑だったので、勇気を振り絞って彼等に注意した。襲い掛かってきたらどうしようかと思ったが、なんとかなった。なんとかなってよかったと思う。


 やばい。まだ心臓がばくばくいってる。


 現在、私の所属しているギルド『ギガス』の品性が下から崩れているのを耳にしていたが、ここまでチンピラ崩れの冒険者が所属していたなんて意外だった。


 とはいえ、これで落ち着いてご飯が食べられる。


 ここはアルコールも出るが、なによりパスタとパンケーキの味が好みであり、以前はパーティメンバーと一緒に来ていたのだが、今は一人で食べに来るのが日課だった。


「すごいわね、あなた!」


 急に声を掛けられ、私は吃驚する。何事かと思って見ると、恐ろしいほど美しいエルフが笑顔で立っていた。


「エ、エルフ?」


「そうよ。あたしの名前は、パフェ・ジ・スィート。ここにいる乙橘勇大に召喚されたバディよ」


「は、はあ」


 聞いたことがある。同じB級ダンジョンを潜っている冒険者の中で、他ギルドのソロで活動している無謀な冒険者の噂を。噂は噂だと思っていた。何故ならソロでB級ダンジョンを攻略するなんて命知らずでしかないからだ。

 だが、『ギガス』の冒険者パーティの中には、どういうやり方かはわからないが、召喚モンスターを長時間召喚し、まるで冒険者パーティのメンバーのように扱っている姿を確認されている。まだダンジョンでのスキルについては開拓中であり、ギルド間での探り合いとなっている。


「おい、パフェ。自分だけ紹介なんてずるいぞ。私はステラ・ジ・サジタリウス。よろしくお嬢さん」


「そうですよ。私だって彼女の正義の行動力に感激したんだから。私はアンティア・ジ・チアフラワーよ」


「わ、わ、わたしも、よかったと思います。わ、わたしはメルジナ・ジ・ネレイスです」


 スタイルがよく中性的な美女と、とても可愛らしい美少女と儚げな美少女が現われて、クララは少し目眩を覚えるほどだった。


(なに?この人形のような精巧な美しさ。こんなの卑怯過ぎるじゃない)


 私自身も自分の容貌には多少の自信があったわけだが、この四人の美しさは限界突破していた。


「ほら、勇大からもお礼を言ってよ」


「ええ、俺この店の者じゃないし、今までいなかったんだけど」


「そんなことないわよ。あたし達の楽しい飲み会を救ってくれたのよ。マスターとして、ここは礼を言うのは当然だと思うわ」


「そ、そうです」


「ううん、わかった。ありがとうございます」


「いえいえ」


 この人が彼女達の召喚士か。年齢は十六、七ぐらいか。若いなあ。顔はまあモブ・・・いやいや、中の下、大きく見積もってもフツメンといった感じで。

 この年齢で、ソロでダンジョンに潜ることができるなんて、若さゆえかしら。


「あたし達と一緒に食事をご一緒させてもらえないかしら。もっと貴方のことを知りたいわ」


「それはいい。こんな素敵な女性と席を一緒に食事できるなんて、この上ない喜びだ」


「私も賛成だわ」


「わ、わたしもお話聞きたいです」


「おいおい、彼女は他ギルドで、有名な冒険者パーティ『ハイ・D・レンジア』だぞ。誘うにしても彼女の意思を聞いてからだ」


 強引に一緒の席にしようとする彼女達を制止させる乙橘勇大。それにしぶしぶながら従う彼女達を見ると、召喚士としてきちんと制御できているようだ。


「いいですよ。私もあなた達の話を聞きたいですし」


 わっと喜ぶ四人。乙橘勇大は申し訳ないと頭を下げる。

 本当は一人で食べる方が好きだが、こうやってこの店に大人数で食べるのは久し振りだった。その名残でも思い出したのだろうか。

 まあいい。ここ場にてソロでダンジョン攻略している乙橘勇大の内情を知ることができれば、ギルドにとっても有益になるだろう。

 こういう目論見もあり、乙橘勇大達と食事を共にする山門クララだったが、彼の召喚モンスターの話しは、ほとんど趣味一色であり、少女漫画を多少嗜むと言ったら、ステラとメルジナが盛り上がり、クララは久し振りに楽しい食事会をすることになるのだった。




 久し振りに楽しく食事ができたと山門クララは思った。

 彼女は今、B級十五階層クリアを目指し、『ハイ・D・レンジア』のメンバーと合流した。だが、合流直後にメンバーから言われたのは詰問だった。


「クララ、ちょっといい?」


 『ハイ・D・レンジア』のリーダー黄林カヲルは、クララを呼び出す。


「なに?」


 黄林カヲルは『ハイ・D・レンジア』を作った張本人である。彼女は友人達を誘い、冒険者パーティを作り、アプリでパーティメンバーを募った。クララはアプリの募集を見つけて加入したのだ。こうして女性四名組の冒険者パーティができたのだ。冒険者の良いところは、レベルさえ上がれば女性も男性もないところである。確かにレベル上げには個人差があるものの、女性でも経験値を積み重ねれば、男性に負けない強さを手に入れることができるし、スキルを手に入れれば充分ダンジョンで戦うことができた。だけど、その道程は平坦ではなかった。


 怪我をして辞めた子、モンスターが怖くなった子、初期の戦闘じゃ稼ぎと釣り合わないと判断した子、長期のダンジョンに潜る生活に耐えられなくなった子。いつの間にかメンバーは替わっていき、初期メンバーは黄林カヲルと山門クララのみとなった。

それでも山門クララは、少し前までパーティのお荷物だった。なにしろ、どんなに戦って経験値を得ても、一向にレベルが上がらなかったのである。新規に加入してくるメンバーは、どんどんレベルが上がっていく中で、クララのみレベルが上がらず、モンスター戦では後方支援に徹し続けていた。ジョブはライダーであり、限られたモンスターを操り乗りこなすことができるという、優れていそうな職種だが、五枚使える召喚士と違って使えるカードは三枚だけであり、モンスターに乗らなければ戦えないという実利の伴わないものだった。


 それでも山門クララは、初期メンにも関わらず、荷物運びやマッピングチェック等の雑用に一度も文句をいうことなく、仕事をこなしてきた。メンバーの中には彼女を外そうという子もいたが、黄林は見捨てずに彼女を使い続けていた。

 あの日がくるまでは。


 山門クララは、黄林カヲルに呼ばれて行くと、そこには『ハイ・D・レンジア』のメンバー全員が集まっていた。その数、黄林と山門クララを入れて総勢6名。一人一人がB級ダンジョンで戦い続けている歴戦の冒険者といっていい。


「あんた、『ホーリー・エーモン』と問題起こしたんだって?」


 最初に口火を切ったのは黄林だった。


「それは・・・」


「『ホーリー・エーモン』からギルドを通して苦情が来たのよ。いきなり『ハイ・D・レンジア』の山門クララがいちゃもんつけてきたって」


「それは違うよ。あの人達、私が食事している際に、店に文句を言っていたから」


「『ホーリー・エーモン』を怒鳴ったわけ?」


「そうだけど」


「そうだけどじゃないでしょ。そういうのは警察の仕事でしょ。あんたが絡まれたのならともかく、なんであんたが奴等に絡むわけ」


「それは・・・そうだけど・・・」


「あんた、ちょっと調子乗ってない?」


「調子なんてのってないよ」


 黄林の発言に否定するクララ。正直言って、クララはこの問答が辛かった。以前の黄林なら、彼女を「しょうがないな、クララは」と言って、許してくれたし、庇ってくれたはずだ。なのに、今の彼女はクララのすること全てに糾弾する姿勢をみせている。


「ちょっとメディアの露出が増えたからって、いい気になってるんじゃないの」


「ダンジョンで活躍できるようになって、そんなに嬉しい?」


「きも」


 他のメンバーまで山門クララに心ない言葉を向ける。冒険者としても、パーティとしてもクララの方が先輩のはずなのに。山門クララは泣きそうになるのを、ぐっと堪える。


「してない。調子に乗っていないし、いい気にもなっていないよ!」


「・・・まあ、いいけどさ。今回の事、上に報告しといたから」


「わかった」


 黄林は、クララを睨みつつどこかに行ってしまった。行くところといえば、マネージャーの所だろう。彼女が『ハイ・D・レンジア』のマネージャーと付き合っていることは、誰もが知っていた。

 その姿を山門クララは悲しみの瞳で見つめていた。


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