54 対トロール
よろしくお願いします
僕達はトロールが隠れている場所の近くまで辿り着く。トロール達は、うずくまり体毛を草に変化させて小山に化けているようだ。アマテが気付かなかったら、気づかずに素通りしていたかもしれない。
アンティアが花粉を撒く。トロールに特効がある眠り粉が含まれている花粉だ。大抵のトロールならば、この花粉を嗅いだだけで眠りに落ちる。
カフェが魔術を使い、この辺り一体を無音状態にする。例えトロールが起きて騒いだところで気付かれることはないだろう。
「よし」
僕とカフェとアマテは、トロール二体が眠ったのを確認してから、まず一体目に向かう。大きな小山にしか見えないそれは、僕達が近づいても気付いた様子はない。
トロールの再生能力は高く、完全に仕留めるには首を狙うしかない。この完全に小山と化したトロールの首を斬るのは至難の業だった。
だが、僕のところにはオオカミのアマテとダークエルフのカフェがおり、2人とも勘が鋭いため、トロールの首がどこか判別できるし、僕にはダンジョン超裏技大辞典がある。辞典には、トロールが小山に化けて得物を襲う際には、どの方角に向けるか体の部位の見分け方が記載されており、僕はそれを思い出しつつ、トロールの首を見つける。
僕は魔法騎士を取得しており、ある程度の魔法は使える。トロールは土属性であり、風魔法がもっとも効果が高い。剣に風の魔法を相乗させる。
【ハイウィンドスレイヤー】
僕の剣はトロールの首をいとも簡単に斬り落とす。さて、次に・・・。
「勇大!」
カフェの声が響く。僕は勇大の「ゆ」が聞こえる前に転がるようにそこから避ける。
ブォンッ、ドガガッ。大地が弾け、石が跳ね、土煙が舞う。それまで僕がいた場所には、大きな歪な斧が存在した。もし、その場に留まっていたら、僕はその石斧に押し潰ぶされ、叩っ切られていただろう。
目の前に巨大なトロールがいた。どうやらアンティアの花粉が効かなかったが、眠りが浅かったかのどちらかだろう。さすがB級ダンジョンのモンスターだ。状態異常無効も持つモンスターもいるということだ。
トロールは首を斬り落とされた仲間を見て、怒りの咆哮を上げる。カフェが無音にしなかったら、仲間に聞こえていたのかもしれない。
カフェが動き出す。黒い衣を纏い、双剣をトロールに向ける。トロールは、その漆黒の衣に危険を感じたのだろう。巨大な石斧を地に叩きつけて、土石が舞い上がる。
「ちっ、くそが!」
カフェはなんとか飛び跳ねてくる石を避けながら、土砂に押し潰されないように後ろに下がった。僕もまた巻き込まれないように大きく下がる。その瞬間、僕の頭上に影が出来る。僕は再度転がるように大きく離れる。ズシンッとトロールの足が僕のいた場所を踏み潰す。トロールの目的は明らかに仲間を殺した僕だ。
僕は左手に盾を、右手に剣を構える。土煙はすぐに収まるだろう。トロールはそれまでに僕を倒すつもりのようだ。10メートルはあるトロールの巨大は鈍重そうに見えて、素早く動くことができる。異世界で魔術によって操られ、人間に兵士として鍛えられたという憶測だけあって、まさしくトロールは歴戦の巨人そのものだ。
振り上げられた石斧が大地に叩きつけられる。地が割れ、土石を撒き散らし、足場が崩れる。
「しまっ・・・」
避けたと思ったが、足場を踏み外してしまう。その隙を歴戦のトロールが見過ごすことはなかった。トロールの蹴りが僕を襲う。なんとか盾で防ぐが盾ごと吹き飛ばされる。
やばい。例え受け身を取ったとしても、地に着いた瞬間、トロールの一撃が襲ってくる。避ける手立てが思い浮かばない。
「ご主人様!」
その時、オオカミのアマテが僕の前に現われ、宙を飛ぶ僕を咥える。
「アマテ?」
臆病なアマテがどうしてここに?と思ったが、どうやら僕の傍をつかず離れずいた結果、トロールの戦いに巻き込まれてしまったらしい。
「どうしてご主人様は無茶するんですか!それでアマテもトロールに襲われてしまうなんて!」
「アマテ、すまない。だけど今は力を貸して欲しい!」
「嫌ですよ、戦うなんて!」
「戦わなくていい、僕の後ろにいろ!お前は僕が守る!お前はトロールの攻撃がどこから来るか教えてほしい!」
この土煙の視界不良の中、トロールの攻撃を避けるのは困難だ。だが、敵意に敏感なアマテがいれば、なんとかしのぐことが可能だ。
「わかりました。ちゃんと守ってくださいね!」
トロールの猛攻が始まる。巨大な斧を振るい、僕目掛けて叩きつける。
「ぐぅ!」
例え避けても大地に叩きつけられた斧は周囲を弾き飛ばし、二次被害を生み出す。盾でなんとか大きな石は防ぐことはできるが、凄い勢いで飛んでくる礫まではどうしようもない。地面もどんどん足場が悪くなってくる。先程と同様足を踏み外した時の隙を狙って、本気の一撃を僕に放つつもりだろう。そして、そればもっとも有効な方法ともいえる。
どうにかして後ろに下がって遠距離魔法を叩き込むか、近距離で魔法を乗せた剣で斬るか、距離が必要になる。だが、トロールのそれがわかっているのだろう。一定の距離をとり攻撃を仕掛け、僕に距離を与えようとしない。それに後ろにアマテもいる。アマテはオオカミだけあって回避能力が優れているが、いつまで避け続けることができるかの問題もある。
「ご主人様・・・」
アマテは僕を見る。正直土に塗れた僕はさぞ土臭い人間だろう。
「わかりました。アマテも戦います」
「アマテ?」
「これっきりです。いえ、断言はできませんが、今のところこれっきりですからね」
「ああ!」
「【変身】!」
アマテは全身を光り輝かせる。そしてそれば一匹の獣から人の姿へと変える。
背が高く腰まで伸ばした艶やかな黒髪、誰もが振り返り見惚れてしまうほどの美貌の主、アマテ・ジ・ロックドアーの人形態がそこにはあった。
獣から人へ。この変身事態は獣人が多く生存するダンジョンでは珍しくない。トロールも人が二体になっただけで、特に驚きはしなかった。
彼女は、剣身の左右に六つの刃を持つ七支刀を持ち、スキルを叫ぶ。
「ふ、ふひひ、スキル【神魔封界】!!のおおおお【弱】」
なにかが変わった様子はない。しかし、この辺り一帯が大きく変わるのを僕は実感していた。それはトロールも同様だったのだろう。なにも変わっていないのに、全ての色彩が少しだけ影を潜めたような感覚。
「うひひ、さて、ご主人様ぁ」
アマテは振り返り僕を見る。その口調はネットゲームしている時の口調である。
「こ、こここ、これであのトロールの魔力を封じましましです。後はよろしこです」
そう、彼女のスキル【神魔封界】は、ダンジョン一帯の全ての魔力を無力化させるというとんでもないスキルだった。しかも、僕やカフェ達以外の全てである。
ダンジョンにとって、魔力とは地上においての火力、風力、水力、原子力のようなエネルギーであり、生き物にとっては筋力、体力のようなものである。それが無くなるということは、生命活動を停止させられたに等しい。
今あのトロールはレベルが200程度だとして、それがレベル0になったということである。
トロールは何事かわからずに石斧を持って振ろうとするが、先程よりも動きが鈍い。明らかに石斧が重く持ち上げることも困難な様子だった。なんとか石斧を持って大地にぶつけるが、大地には傷一つつけることはできなかった。
僕は剣と盾を構えて、トロールに向かう。トロールは避けようとするが、体の動きが鈍く、体毛を硬質化させようとするが、変化させることもできず、僕は飛び上がって首を一刀両断する。トロールの首はズシンッと落ちて、首を失った体も崩れるように倒れていった。
「ありがとう、アマテ」
「い、いえいえ、で、でもあまり無茶はだめですよ、ふひひ」
そう言って、獣の姿に戻るアマテ。
「わかった。気をつけるよ」
なんとかトロールを倒したし、コボルトの森も抜けたし、万事良好としておこう。
「ちっ、しぶてえ野郎だ。心配して損したぜ」
「無事でなによりね、マスター」
カフェとアンティアも合流することができた。
「さて、これからだけど」
「どうするんだ?」
「階層攻略ですか?」
「階層攻略も大事だけど、トロールがいるということは、その住処もあるということだ。おそらくトロールのほとんどが狩りに出てしまって、おそらく彼等の根城は空いているはずだ」
その言葉にカフェが察する。
「なるほど、そういうことか」
「どういうことなの?」
「トロールは宝物を収集する習癖がある。おそらくレアアイテムを溜め込んでいるはずだ」
「今、そこに行けばレアアイテムを根こそぎ奪取することができるってわけだな」
「マスター、それでは泥棒ではないですか!」
「んなケチくせえこと言うなよ。大体あいつらだってダンジョンで拾ってきた物を集めてるだけだろう。それに階層ボスを倒してレアアイテムを手に入れるのだって、言ってみれば、そいつを倒して、そいつが持っている宝物を手に入れるんだから、やってることは同じだろう?」
「う、そ、それは・・・」
「まあ、アンティアが怒るのもわかるよ。でも、トロールを無闇に倒してアイテムと奪うより、トロールがいない隙を狙ってアイテムを手に入れる方が無駄に命を散らすわけじゃないんだから・・・ね」
「ううう、わかりました。まあ、ここは地上のように人間の世界じゃないわけですし、弱肉強食のダンジョンですから、一歩、いや百歩譲渡して理解しましょう」
「なんで、てめえの理解が必要なんだよ」
「また汚い言葉を吐くし。私は超美少女戦士チアフラワー!マスターの正義の心の体現です!謂わば必要正義!私の理解は必要です」
ビシッとポースを決めるアンティア。
「ありがとう、チアフラワー。君のお陰で僕の平和が守られているからね」
「あわわわ、その、あの、当然です」
何故かアンティアは顔を真っ赤にする。
「よし、チアフラワーの理解も得られたわけだし、ここはさらっとトロールの根城を急ぐか。彼等が戻ってくるまでに」
「ああ」
「わかったわ」
「わかりました」
こうして僕達はコボルトの森を抜けて、トロールの住処を目指すのだった。
後日談
予想通り、トロールの根城にはほとんどいなかった。子供と牝のトロールだけだ。全員を眠らせた僕達は、レアアイテムがある宝物庫で、時間がないため選り好みは最小限でアイテムを手に入れることができた。当面の資金はこれで安心だろう。




