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53 連戦

よろしくお願いします

 カフェ・ジ・ビターは、両剣を構え、魔法を唱える。

 彼女の魔法は魔王軍の幹部である魔女マーシルフェスから教わったものだ。そこに自分なりのアレンジを加えて近接用に仕上げていた。


「【黒衣】」


 彼女の周囲に黒い靄が湧き出て、彼女に纏わり付く。それは魔女の法衣のようでもあり、一昔前の特攻服のようにも見える。


「【黒刃】」


 さらに唱えると、両手に持つ双剣の刃が漆黒へと染まっていく。

 目の前のコボルトは十体。皆、錆び付いた軽甲冑を着用し、剣や槍を持っている。まさに完全武装といったところだ。


 ここはコボルトの集落がある森。いわば彼等のテリトリーだ。全てを知り尽くし、落とし穴や撒き菱等の罠もある。コボルトにしてみれば地の利を得ている以上、負ける要素がないのだ。しかも、D級ダンジョンやC級ダンジョンのコボルトのような人真似ではなく、B級ダンジョンという過酷な状況の中で生き残る努力と勝つために工夫を重ねてきた結果だった。同種族同士のテリトリーの奪い合いもしているし、戦いを重ねてレベルも高く、生半可な冒険者やモンスターでは、彼等の餌でしかない。


 姿を表したのは十体だが、伏兵も用意してあるし、徐々に囲い込みつつある。

 相手は四体。ダークエルフ、人型の妖精、白い狼、人間。ここまで来たのだからレベルの高い冒険者だろうが、このコボルトの森では檻に入れられた猛獣と同じなのだ。


「おらおらおらおらおら!誰もうちの前を歩かせねええええぇっ!」


黒い靄を纏ったカフェ・ジ・ビターがコボルトを斬り裂く。その傷は浅く、斬られても動けない程ではない。もともとコボルトは痛覚が鈍いほうであり、少しぐらいの痛みなら恐れるほどではない。甲冑を纏っている以上、致命傷を与えることも難しい。


「ガルルルルゥ・・・ガァ!」


 軽傷を負ったコボルトがニタリと笑い、カフェに襲い掛かろうとする。風の噂でエルフの肉は旨いと聞いたことがある。相手はダークエルフだが、エルフはエルフだ。手に持つ剣をカフェに向けようとするが、その手が無いことに気づく。さらに言えば、傷を負ったところから、徐々に黒く滲みボロボロと崩れていく。自分の危機を知った時には頭部だけとなり消えていく。


 カフェの黒刃に斬られたモンスターは、掠り傷でも黒く崩壊していく。さらに纏っている黒衣だ。マント状に大きく広がり、コボルトを襲う。黒衣に覆われたコボルトは、なにもなかったかのように消えていく。まるで手品で布を被せたら消えているコインのように。

 コボルトは畏怖した。目の前のダークエルフは、ただのダークエルフではない。得体のしれない呪術か魔術を使っていると。

 逃げなければ。

 コボルトはそう判断した。だが、動かない。体が自分の意思に反して動かなくなる。そう、魔女に魅入られたように。




「無茶をするわね」


 アンティア・ジ・チアフラワーは、カフェ・ジ・ビターの無双状態に呆れ、少し嫌悪する。彼女が気の良い奴だということは知っている。そして、異世界では魔王軍にいたことも彼女の口から聞いている。


 魔王軍と勇者軍の戦いは、妖精の口伝として伝わっている。

 100年前、魔王率いるモンスター軍と勇者率いる人間種と亜人種の戦争。

 そこにカフェ・ジ・ビターが魔王軍に所属していたという。

 アンティアは異世界にいた頃から噂話やお伽話が大好きだった。いろいろな話しを聞いて、楽しかったり怖かったり哀しくなったり、聞いた後はその物語を思い出し、同じ妖精の友達に話して共有するのも好きだった。

 異世界であるこっちに来て、物語は広がりを見せた。なにしろ絵が動くのだ。この世界では何枚もの絵を会わせて動かすアニメがあり、絵に台詞がある漫画がある。

 アンティアはすぐにそれに染まっていった。中でも好きなのは、『超美少女戦士一緒にプリブレ』だった。


 プリブレとは、少女二人がひょんなことから妖精の国を救うため、女王から魔法の腕輪を与えられ、変身しプリブレになって悪の組織と戦うというものだ。ちなみにプリブレとは、プリティブレイバーの略称である。彼女は一作目からネットで視聴し、ファンコミュニティにも参加している。

 カフェ・ジ・ビターの戦い方のそれは、まさしく妖精の国に仇をなすプリブレの敵のそれである。だけど、アンティアは知っている。彼女は冷酷無比な魔王軍に所属していたとは思えない程に真っ直ぐで優しい少女なのだと。多少暴力的なところもあるが。


 ケンタウレのステラやフローズンのエイレネに言わせると、「感じるだろう。彼女の内に眠る熱き正義の心を」である。


 確かにプリブレ四作目で、悪の敵幹部が主人公との戦いを得て正義の心に目覚め、新しいプリブレに変身して仲間になったし、アンティアにしてみれば、そういう展開はアリなので、彼女が変わるのを期待するとしよう。

 アンティアはそう思いつつ、周囲のコボルトにデバフを掛ける。彼女はマスターである乙橘勇大に教わった、コボルトが苦手な臭いの知識があり、それを撒き散らすことで、コボルトの嗅覚を鈍らせ、発狂するほどの臭いを与えていく。コボルトは視覚よりも聴覚、嗅覚に優れ、特に嗅覚は1キロにいる相手を判別出来るほど優れている。アンティアが放つ花の匂いにコボルトは視覚や聴覚よりもまず嗅覚に頼るため、臭いを嗅いだ瞬間悶絶し、意識を失うものや耐えきれなくなり逃げる者まで現われていく。

 肉弾戦を得意とするプリプレと違い、アンティアは支援を得意とする。本当は拳や関節技で戦いたいアンティアであったが、こればかりは仕方ないともいえる。


 アンティアが放つ花の臭いにより、コボルトに動揺が走る。その臭いに耐えきれずもがき苦しむ者もいた。そこに乙橘勇大の剣がコボルト達を襲う。今回持つ剣は光の刃【クラウ・ソナス】ではなく普通の剣だが、勇大が超裏技大辞典により、探し当てたレア鉱石から作り出した一品である。


 盾でコボルトの攻撃を防ぎ、剣で迎え撃つ戦いは、とても安定しているといえよう。

 B級ダンジョンに生息しているだけあって、コボルトのレベルも高く、攻撃防御も非常に高い。並の剣ならばすぐに折れてしまうだろう。

 盾で受けて、さらに踏ん張り相手のバランスを崩し、そこから攻撃を加える。多対少の戦いの中でも、勇大はカフェやアンティアに負けず劣らずの実力を示していた。さらに勇大は索敵のアマテ、支援のアンティアを護る役割を持っている。コボルトの群れをいかにして自分に惹きつけるかが重要になっているのだ。

 



 次々とカフェと勇大により、コボルトが蹂躙されていく。伏兵として囲んでいたコボルトの群れは同胞の血の臭いを知り、現場へと急ぐ。だが、彼等は失念していた。彼等はあの冒険者を狩るために戦っているのではなかったことを。より恐ろしいモンスターを迎え撃ち、自分達の集落を護るために集まったことを。

 最後方に控えていたコボルトは、現場に行こうとした矢先、ズンッと音がし全てが途切れた。何事かと仲間が気づいたときには遅く、コボルトが巨大ななにかに踏み潰されたことをしる。そして、勇大やカフェ達が知らぬところで別の蹂躙が始まるのだった。


 ―――なにか来る。


 始めに気付いたのは、オオカミのアマテだった。彼女の索敵能力は、このB級ダンジョン十五階層全域にまで届くことができる。ただ、それをすると頭がパンクしてしまうので、あくまでこの一帯のみに限られている。

 ズシンッズシンッズシンッと少しずつ音が聞こえてきており、それが足音だとわかるのに時間は掛からなかった。


「ご主人様!彼奴らがこちらに向かってきます!」


「わかった!」


 すでに何が来るかはアマテによって確認済みだった。

 本来ならカフェ1人でコボルトの群れを倒す事など容易だ。それをしないのは、次に襲い来る脅威を刺激させないためだ。

 とはいえ、手を抜いてもコボルトが退いてくれるわけではない。カフェのお陰で目の前のコボルトを倒すことができたが、逆に退いて様子見し遠くから石や槍を投げている状態だ。僕達は大樹を盾にして避けているものの、前に進めない状態になっている。

 この膠着状態を崩すのは遅くはなかった。


 ズシンッズシンッッツ。


 10メートルはあるであろう、大きい巨体。全身が体毛で覆われており、黒もいれば茶色もいる。人の形をしており、さらに頭部と胴体に甲冑を着けている。手には巨大な棍棒や槍を持っており、盾を持っている者もいる。


 トロール。全身を体毛で覆われた巨人。


 無論C級ダンジョンにもトロールはいる、が、棍棒を持って襲ってくる程度であり、並の冒険者でも、パーティ同士が組んで二十名程で罠を張って倒す事ができる。しかし、B級ダンジョンのトロールは違う。自衛隊やA~B級冒険者の情報によると、人間との戦いに馴れており、集団での襲撃を得意とし、人間側の罠を見破ることも長けている。

 ハイエルフのパフェ・ジ・スィート曰く、おそらく異世界で人間の兵士に調教されたモンスターなのだろう、と。


 それが十体。

 ここは彼等の餌の狩り場なのだ。食料であるコボルトを捕まえるために、定期的に襲っているのだろう。集落を襲うが全滅には持ち込まない。ある程度コボルトを捕まえたら、自分達の住処に帰るだけだ。それがコボルトとトロールのルーティーンのようなものだった。

 トロールの三体ほど大きな麻袋を背負い込み、その内の一体の袋は大きく膨らんでいる。そこから手足が見えており、もぞもぞと動いている通り、捕まえたコボルトをあの袋に詰め込んでいるのだろう。

 僕達の石や槍を投げていたコボルトは、トロールの存在を見て逃げることを決断する。しかし、トロールはその巨体には似合わぬ早さで、コボルトを囲い込み槍で突き刺す。コボルトは胴体に傷を負うが人間よりも生命力が高いため、これぐらいでは死ぬことはない。トロールはそれを知った上で、突き刺さったコボルトを手元に引き寄せて、手足を折って動かなくし、袋に入れる。

 まさしくトロールによるコボルト狩りが始まったのだ。




 僕こと乙橘勇大とカフェ、アンティア、アマテの四人は、トロールに見つからないように物陰に潜む。隙を見てはここから撤退することが重要だ。なにもコボルトとトロールの争いに首を突っ込む必要はない。とはいえ、不意を突かれたコボルトは完全に劣勢であり、トロールは慌てふためいているコボルトを狩っていくだけである。


「じゃあ、今のうちにここから逃げよう」


「ああ」


「わかったわ」


「あ、は、はい!」


 僕達は、できるだけ気配を消して、森を抜けるよう動き出す。途中コボルトが仕掛けた罠があったが、カフェやアマテが見つけて触らないよう気をつけることで進んでいく。


「ご主人様・・・」


「どうした、アマテ?」


「おそらくトロールですが、こちらに気付いているようです」


「んだと!」と、カフェ。


「つまり、僕の存在に気づき動向を伺っているとみて間違いないんだな」


「はい」


「さすがはB級ダンジョンのトロールね」


 元々トロールは身を潜んで、小山と勘違いして通ろうとする旅人を襲う習性がある。おそらくは隠れて、襲う手筈でもしているのだろう。


「僕達の動きに気づいたトロールは何体だ?」


「二体ほどです」


「二体かあ・・・」


 倒せないわけではない。問題は、派手に倒すと他のトロール達が集まる可能性が高いということだ。今、トロールはコボルト狩りで夢中になっているだろう。そこに水を差してしまうことは、ここから逃げ出すのに手間が掛かりすぎるというものである。


「じゃあ、二体のトロールを一気に仕留める。できるだけ大きな音を出さないようにな」


「ちっ、しゃあねえな」


「いいわ。超美少女剣士アンティア・ジ・チアフラワーにお任せよ」


「あ、は、はい」


 こうして僕達はトロール二体と戦う決意をするのだった。


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