51 コボルトの集落
よろしくお願いします
うちこと、カフェ・ジ・ビターは、召喚士の乙橘勇大と共にB級ダンジョン十五階層をクリア為べく探索を続けているが、それは険しい旅路だった。
深い森林を通っていると、ワン公のアマテがモンスターの存在に気付く。ダンジョンに潜っている際は、白い狼の姿に化けているアマテは、うちより探索能力が非常に優れている。こいつは他にも様々なスキルを有しているが、基本ビビリなため探索以外の能力は使わない。うち等はできるだけ姿を消して、大きな木に隠れて獣道を見る。
そこにいるのはコボルトだった。それも五体。コボルトは大急ぎで駆けていく。
コボルトは犬ッコロのような頭部をした身長120㎝のモンスターで、動きが素早いのが特長だ。その見た目通り鼻が効き、ワン公よりもくそ臆病だが、好戦的な奴等は群れをなして行動していることが多い。
「五体か・・・。おそらくコボルトの集落が近くにあるな」
そう小声で応えたのは、うちの旦那である乙橘勇大である。こいつはこそこそレベルの高いダンジョンに一人で潜り、階層ボスを倒さずに下層に移動出来る術を知っており、欲しいレアアイテムを回収している。しかもどういうわけか高難易度のダンジョンにあるはずのレアアイテムを、割と安全な所から見つけているのだ。ダンジョン転移できる術を知ってからは、さらにレアアイテム回収が増えている。
実はうちも勇大に連れられて、あるモノを手に入れている。まさかアレを手に入れることができるとは思わなかった。
おそらく勇大はレアアイテムが発生する場所を特定できているのだろう。そういうものが記された書物を持っているのかもしれないが、うちが知るところそういう物を読んでいる様子も所持している様子もみられない。まあ、いずれ話してくれるかも知れねえから気長に待つぜ。うちは男が秘密の一つ二つ持ってても気にしねえ器量よしな女だからな。
話しを元に戻すぜ。
コボルトの集落か・・・。コボルト単体ならクソ雑魚だが、集落となると五十体以上はそこで生活し、さらに集落の集まりだと百か二百以上になる。B級ダンジョンは凶悪なモンスターが多いから、クソ雑魚のモンスターは自分達が生き残るために一つのところに集まり、村や里のようになっていく。そして得物を手に数の勝負で凶悪モンスターに挑んでいくわけだ。
「あの五体のコボルトが急いでいるとなると、なにか異変が起きたのかもしれない」
「異変・・・ですか」
勇大の言葉に花の妖精人であるアンティア・ジ・チアフラワーが反応する。こいつは治療に仕える薬花や即死させる毒花までを体に詰め込まれており、隠蔽にすぐれた臭い消しの花のスキルを持っていて、ダンジョンクリアには欠かせないメンバーの一人だ。アニメの見過ぎですぐに正義ぶる性格はいけ好かねえがな。
「ああ、なにか集落でなにかあったのかもしれない」
「なら、いいじゃねえか。それに気を取られてうち等の存在に気付かねえんだったら、今のうちに行っちまおうぜ」
「そうだな」
ダンジョンはやっかいごとが多い。全てのやっかいごとに手を出してたら、ダンジョンクリアなんて夢のまた夢だぜ。
「まってください、ご主人様」
口を挟んだのはワン公だった。
「コボルト達が来た方向に、強い魔力を持つモンスターが複数来ます。おそらく高レベルのモンスターです」
「高レベルのモンスターか。コボルトの集落を襲うつもりか」
自衛手段のために集まるのはいいが、それだと凶悪モンスターに襲われる良い例だな。凶悪モンスターにしてみれば、餌が集まっているわけだからな。コボルトの躍り食いってわけだ。
「どうすんだ、勇大」
「急いでここから離れよう。その高レベルのモンスターが来る前に」
うち等は勇大の出した答えに頷く。そりゃそうだ。ここにいても巻き添えを喰らうだけだからな。
うち等は大樹から離れてこの森林から出ることにする。
うち、勇大、アン子、ワン公の四名は、できるだけ気配を消して深き森を抜けるために進んでいく。
「うう・・・」
ワン公の様子がおかしい。どうやら高レベルのモンスターの存在に足がぶるっちまっているらしい。
ちっしょうがねえな。
「おい、勇大」
勇大に近づき小声で喋る。
「なんだ、カフェ」
「うちが敵の気配を探る。勇大はその使えねえポンコツをカードに戻しな」
勇大もうちの言いたいことがわかったらしい。後ろでびびりまくっているワン公に近づく。
「大丈夫か、アマテ」
「ご、ごごごごごご主人様?」
「怖いならカードに戻るか?」
「ああ、その、ええと・・・」
ワン公はしばらく黙り、考える仕草をする。この行動は珍しいことだといえる。何故ならいつものワン公なら二にも三にもカードに戻るを選択するからだ。
「アマテはもう少し残っていようと思います。あ、いえ、高レアモンスターが現われたらすぐにカードに戻りますが・・・」
「大丈夫なのか、アマテ」
「は、はい、大丈夫です」
うちはこいつの事を少しだけ見直した。こいつも成長しているのか、と。しかし、この場においては悪手ともいえなくはない。何故なら、やせ我慢を許容出来るほどダンジョンは甘くねえんだよなあ。
「あまりワン公にかまっている余裕はねえぜ、勇大。すでにコボルトに見つかってるぜ」
「なんだって?」
コボルトは、頭部が犬ッコロだけあって索敵能力が優れている。さらに臆病で警戒心が強い。自分達の縄張りには万全の注意を払っていたはずだ。おそらくワン公の臆病な態度を感じとったのだろう。ほんの小さな異変も見逃さぬように周囲を警戒していたはずだ。
「数は?」
「まだ五匹ってところだな。これからどんどん増えてくぜ」
「なら今のうちにこの森を抜ける。アン、コボルトの嗅覚を狂わせることができるか?」
「ふっ、チアフラワーに任せなさい!」
「アマテ」
「は、はい」
「走れるか?」
「も、もちろんです」
こくりと頷くワン公。怯えているが、その目に宿る意気込みは本気だ。
普通ならここでワン公をカードに戻すのが手っ取り早いだろう。だけど、勇大はワン公の成長に賭けたのだ。勇大はワン公を信じてる。だったらもう、期待に応えるしかねえぜ。アマテちゃんよ。
うちの勇大はまさしく甘ちゃんだが、そこがいい。絞め殺したくなるほど抱きしめたくなるぜ。
「カフェ」
「んだよ」
「先陣を頼む」
「おうよ」
「しんがりは僕がやる」
「お待ち下さい、撤退においてしんがりが一番危険ではないですか!しんがりは私がやります」
「いや。アン、君はこのバックレをバフとデバフで僕等を支援する必要がある。ここから抜け出すには全員がそれぞれの役割を果たすことが重要だ」
「わかりました。超美少女剣士チアフラワー、がんばります」
「他のメンバーも召喚するか」
うちはそれとなく聞く。他のメンバーとはリリカ、ヤタ、ステラ、メルジナ、エイレネ、ファブリケ、そしていけ好かねえパフェのことだ。
「いや、今回の逃走は目立たぬように逃げることが重要だ。これ以上は増やさない。この四人でやる」
「ああ」「わかったわ」「は、はい」
こうして、うち等四人のコボルトの森の逃走劇が始まるのだった。




