5 鏡の魔女と魔法の手鏡
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5 鏡の魔女と魔法の手鏡
ギルドに入らずダンジョンに入るのは危険が伴う。もしダンジョンで迷ったり、モンスターに襲われて動けなくなったら、救助してくれる可能性が高くなるわけだから。
いくら『ダンジョン超裏技大辞典』というチートアイテムを持っていたとしても、ダンジョンではなにが起こるかわからないのだから。
津上正愛さんは、申請をして仮ギルドを作った。つまり現時点では同好会のようなものである。仮だとしてもこれに加入すれば、僕も無事ダンジョンに入ることができる。名前を仮ギルド『エウメニデス』にし、仲間を集めている状態だ。この間に自分も準備を進めるとしよう。
とりあえず、自分のジョブを決めようと思う。
ダンジョンの正式冒険者になるには、ジョブを決める必要がある。
それはダンジョンにある冒険者の塔に入ることによって、自分のジョブが与えられるのだ。一番マイナーなのが、剣士、魔法使い、戦士で、珍しいのだと闘士とか精霊使い、召喚士である。普通は本人適正からジョブが与えられるのが、僕には『ダンジョン超裏技大辞典』がある。ダンジョンの塔には水晶球があり、触れると魔法使いの英霊が出てきてジョブ名を与えてくれる。僕が触れると水晶球から魔法使いが出てきて、召喚士のジョブを与えてくれた。
召喚士。
五枚のカードを与えられ、そこにモンスターを封印し、自分の僕として召喚することができる。ただし、レベルが低いとレベルの低いモンスターしか封印できないし、使えるカードも一枚ずつのみである。レベルが上がると五枚同時召喚もできるし、強いモンスターを封印し、召喚することができる。つまりレベルが低いとゴブリンやコボルトを一枚しか召喚できないわけで、サポートしてくれる仲間がいないとかなりの難しいジョブといえる。
願った通りのジョブで僕は満足した。実は裏技があり、なりたいジョブを掌と足の裏に書くと、なりたいジョブになれるのだ。
次の日、僕はまた冒険者の塔に行く。ふつうジョブは一人一役であり、ここにもう一度来るのはジョブを替えたい時だけである。しかし裏技があり、副業でもう一つのジョブを得ることができるのだ。というわけで、僕は一度に二度美味しいといわれている魔法剣士を副業として選ぶこととする。
魔法剣士。
魔法を使う剣士。剣士は剣を持つと数倍の力を与えられる。レベルが上がるとレア剣の能力を引き出すことができ、さらにジョブチェンジして騎士になることができる。
魔法剣士は、剣士にはできない魔法を使うことができるお得な職業だ。こうして僕は召喚士という職業と魔法剣士という副業を得ることができた。
一週間後、僕はその足でとあるダンジョンにある鏡の間に足を運んだ。
そこは剣士、魔法使い、賢者の間と同じで鏡の魔女がいるダンジョンイベントがある。鏡の魔女の空間は、鏡の迷路によって冒険者である侵入者を迷わせ、さらに魔法によって鏡からもう一人の冒険者を作り出し、左右非対称の自分と戦わせるのだ。まさに自分対自分の戦いである。このダンジョンイベントに勝ってもアイテムを貰えることもなく、あるのは自分に勝った自己満足があるだけである、普通は。
僕は鏡の魔女に弟子入りした。ある賄賂と一緒に。
「お前は私の弟子になりたいと」
ぼりぼりぼり。
「はい」
「駄目」
ぼりぼりぼりぼり。
「なぜですか?」
「面倒くさいからよ」
ぼりぼりぼりぼりぼりぼりぼり。
そこにいたのは、ソファに寝っ転がる太っちょの魔女だった。手に必ずクッキーを持ち、食べると鏡からクッキーを取り出して食べ続ける。
「それに食べるので忙しいし」
そう言ってボリボリと食べ続ける。魔女は鏡の魔法を使って、一枚のクッキーを何枚にも分身させてそれをずっと食べ続けているのだ。飲んでいる飲み物も果実水である。
「実は差し出し物がございまして」
「差し出し物?」
「はい」
僕は背負っているリュックから、デパ地下で買い込んだ菓子を取り出す。
「そ、それは!?」
「はい、僕の世界にある甘くて美味しい高級菓子です」
「なんと!」
僕は菓子の一つを魔女に差し出す。高級チョコがのったクッキーである。魔女は有無をいわさずクッキーを口にする。
「こ、これは、う、うまい、美味しい!チョコの苦みと甘さが絶妙に合わさり、さらに丁寧に作られたクッキーの食感がそれを引き立てておる!」
驚愕に満ちた魔女の表情。まるで全裸になって飛び跳ねそうな勢いである。
「もし、弟子にしていただければ、この菓子を全て差し上げます」
「するする、弟子でも愛人でもなんでもすりゅうううう」
こうして僕は魔女の弟子となった。鏡の魔女は意外にもチョロかった。
「しかしただ弟子にするだけでは、この美味しい菓子には見合わないわねぇ。なにか交換できるものがあればいいのだけれど」
「では、魔法の手鏡があればください。それほど大きくなくていいです。このぐらいのカードが入るぐらいで」
僕は召喚士のカードを見せる。
「そんなんでいいのなら」
「はい」
魔法の手鏡は小さければ小さいほど本物に近く類似点が完璧になる。
「ならこれをやろう。私が作った手鏡の中でも一級品よ。このぐらいの手鏡はあまり作らないから、唯一無二といっていいわ。修行次第では、この鏡は私の元を離れ、完全にお前のものよ」
後で聞いた話だが、鏡の魔女は大きな鏡が好きであり、小さい鏡を作るのは希なのだとか。こうして僕は鏡の魔女に魔法と習いつつ、魔法の手鏡を手に入れることができたのだった。五年間、実質一日の地獄の修行を終えて、僕はなんとか修行の間から出る。
手に入れた手鏡をどうするか?この大きさでは人を映しても、人を投影して分身体を作ることはできない。だから、こうする。
僕は五枚のサマナーカード五枚を鏡に入れて、もう五枚のサマナーカードを作る。スキルも本物と同様のサマナーカードだ。もともとカードは召喚士に付与したもので、召喚士の能力を引き出すための道具であり、実際の力の元は召喚士にある。術者の能力を上げたり引き上げたりする魔法使いの杖や聖剣、魔剣の類いとは多少異なる。そして、手鏡は僕に譲渡されたことで、鏡の魔女のものではなく完全に僕の物となった。
こうして僕は十枚のサマナーカードで十体のモンスターを召喚できるようになったのだった。
次回投稿は2月28日23時頃となります