48 事情聴取
よろしくお願いします
僕こと、乙橘勇大の目の前には拘束されたストーカーがいる。すでにギルド『エウメニデス』によって名前バレしているのだが、特に憶える必要はないのでA君としておこう。
A君は稲実アスカ先輩をストーカーしている軽犯罪者だが、本人に自覚があるのかわからないところだ。あったとしても必要悪というか、大した罪ではないと思っているのかもしれない。大抵悪いことをする輩は、法の裁きの重さよりも自分の中での罪の重さは判断基準だと思っている。小学生の時のバレなければ罪にはならないと思っていた頃のそのままの感覚が大人になっても抜けきっておらず、バレなければいいと思っていた罪が大人にとって思いの外重く、泣いて謝れば良いと思っていた事が、泣いても覆らず重罪と下され、法の下罰せられる立場に陥った時の絶望感。怒られなかった子供の末路というものは大人になってやってくるものなのだ。
ストーカーの被害者である稲実アスカ先輩はここにはいない。当事者同士で話し合うなんて馬鹿みたいな結論を出す者もいるかもしれないが、ここでは悪手に他ならない。
なぜなら、今回ターゲットの稲実アスカと話せたことで、同じ事をすればまた直接会えるという思考になりかねないからだ。彼自身ストーカーをしているという自覚がなければ、危ういことになる。
というわけで、今回は僕とサッキュバスのリリカ・ジ・モリガン率いるリリム達がA君と話しをつけることになった、ちなみにリリカは、遠くにいるアスカ先輩の護衛についている。
「うっ、ここは・・・」
どうやらA君が気がついたようである。
「君だね、僕達の後を付いてくる輩は?」
A君は周りを見渡し、僕達に囲まれて、今自分の立場に気付いたようだ。逃げだそうとするが、ロープで拘束されていることに気付く。
「お、俺は、なにも」
「いるんだよね。レアアイテム狙いに冒険者パーティを襲おうとする違法冒険者が」
「ち、違う、俺は、そんなことはしない!」
慌てるA君の顔を見て、フードを被った一人が僕にこそこそと耳打ちする。
「あれ、その顔に見覚えがあるな。確か稲実アスカさんの後をつけ回しているストーカー・・・」
わざとらしく言い当てて、相手の反応を見てみる。元々彼をはめるために仕組んだものであるが、それを知られると自分のためにわざわざここまでしたと思われても困るからだ。
「ち、違う!俺はいちファンとして彼女の動向を見守ってきただけだ!ストーカーじゃない」
僕の言葉にそれまでおどおどしていたA君は、急に顔を真っ赤にして反論する。
「でも、ギルドが設置した防犯カメラに君の顔が映っているし、稲実アスカさんも誰かに後ろからつけられていると訴えがあったし」
「俺は、彼女のいちファンとして、彼女がどんな生活をしているか気になるだけだ!彼女が食べた物を写真を撮ったり、座ったソファを撮ってネットに流すことで、いちファンとして、他のファンと彼女の私生活を共有しようとしているだけで、ストーカーなんて侵害だ!」
そういうのをストーカーと言うんじゃないですかね。しかも、勝手に彼女の生活をネットにアップしているし。
「人の生活をネットに上げるのはプライバシーの侵害で犯罪だよ」
「きちんと彼女の顔は黒く塗りつぶしたりしている!」
「いや、それを本人が見たら不快にならない?」
「だけど、俺はいちファンとして彼女が気になるだけで、悪意でやっているわけじゃない!むしろ彼女と彼女を応援するファンのためにやっているんだ!」
「ストー・・・後をつけていることも?」
「そうだ!」
「お前はいちファンいちファンというけど、そういうファンが集まって彼女の後ろを付け回したらどうなると思う?芸能人ならファンだけど、私生活だとただの他人だぞ」
「確かにファンが集まって、後ろを付け回すのはダメだが、俺はファンの代表をして彼女の生活を見守っているだけだ!悪いことはしていない。
大体なんだ!
俺はいちファンとして彼女のためを思って善意でやってるんだ!俺は間違ったことはなにひとつやっていない。彼女の情報を得ることで、俺と同じいちファンの仲間達も賞賛してくれている。俺は正しい!間違っているのはお前達のほうだろ!
なんで俺の邪魔をする!なんで俺を否定するんだ!なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!」
あ、だめだな、と僕は諦める。これはアカン人だ。おそらく自分が嫌がらせをしていることに気がついていないから、このまま警察に突き出しても同じ事をするだろう。もしかしたら、警察に注意されたことで、彼女に危害を加えるかもしれない。
「ねえ、やっぱりこういうやり方でだめよねぇ」
僕の後ろに控えていた仲間がフードを取る。
次回投稿は4月20日です




