44 大間田さんの報告
よろしくお願いします
「はああああ・・・」
大間田から報告書を受けとり、目を通した津上正愛は大きく息を吐いた。そこに書いてあったものは、およそ信じがたいことばかりだったからだ。
「あの、ケートスを倒すとはな・・・」
モンスターの中でも特級モンスターと云われている大海獣ケートス。そのケートスを強力な召喚モンスターを有しているとはいえ、乙橘勇大は倒したのだ。
ダンジョンで初めてケートスの存在が確認された際、その頃、すでに自衛隊はエルフの魔法技術により自衛隊艦をダンジョン内に召喚することができていた。と簡単にいえるが、巨大な魔方陣と膨大な魔力、優れた魔術師による努力の成果であるといえよう。その自衛隊艦隊の一艦一艦に魔力塗装を施し、並のモンスターでは傷一つ付けられないだろう。
A級ダンジョン探索も順調に行っていたその時、ケートスが現われたのだ。ケートスの牙は、自衛隊艦を噛み砕き、こちら側の攻撃を物ともせず次々と沈めていった。以降、ケートスを見つけた際は、全速力で逃走するのが通例となっていた。
その大海獣を一人の召喚士が倒したのだ。
報告書に書かれているものは荒唐無稽とよべるものだった。
まずケートスを幾つもの氷山で足止めし、さらに大天狗の嵐の刃で切り刻み、巨大な水の槍で突き刺す。トドメは光の剣で真っ二つにしたと書いてある。
大間田は信じられる男だ。元自衛隊隊員である彼はケートスの脅威を充分に知っている。その彼が嘘の報告書を書くわけがない。
報告書を提出してきた大間田のことを思い出す。
普段は寡黙で冷静沈着な彼が、顔を赤くして乙橘とのダンジョン探索を話す。
「彼は凄いです。強力な召喚モンスター・・・、いや、モンスターというには、とても人間に近い亜人種を仕えさせ、時には襲い来るモンスターと交渉し、時には圧倒的な武力で倒す。まさに今いる冒険者の中でまさしく彼が最強だと思います。彼ならばA級ダンジョン、いえ、S級ダンジョンすらも攻略できるでしょう!」
「それほどか」
「それほどです!あ、いえ、すみません、熱くなりすぎました」
彼は深呼吸をして、自分で落ち着く。
「津上社長が彼を世間から隠す理由がわかりました。彼のダンジョン攻略はまさしく異常です。乙橘勇大という冒険者が世間に知れ渡れば、社会を震撼させてしまうかもしれません」
「君はどう思う。彼は危険な存在だと思うか」
津上の言葉に大間田は一瞬詰まり思考する。
「私個人の意見で言わせてもらいますと、彼は勇者だと思います」
「勇者?」
「ええ、少し安直かもしれませんが、己の正義のために戦い、魔王すらも圧倒する力。その力故に疎まれ、称えられる英雄とは違った存在。それに名称を付けるなら『勇者』が一番適当かと」
「なるほど」
確かになあ、と津上は思う。勇者とは、勇ましい者という意味だが、日本では違ってくる。日本の勇者とは、強大な敵に挑み、その強さ故に他者に忌み嫌われようとも己の信念を貫き通す者になる。
彼、乙橘勇大は、人に慕われる英雄にならず、ひたすら強者に挑み勝ち続ける道を選ぶような気がする。
「さて、どうするべきか・・・」
このままあの少年を勇者としてダンジョンの贄となるか、それともなにもかも取り上げて普通の生活に戻すか。
「津上社長、少し待って頂けますか?」
「大間田さん」
「彼は、いえ、ダンジョンは大きな変革が生まれようとしています。それはこの世界にダンジョンが誕生したときから始まっていた気がします。いずれにしろダンジョンの誕生がこのままで済むとは思えないのです」
「ダンジョンが世界を滅ぼすと?」
「ありえない話しではないかと」
「世界崩壊説か・・・。またドラゴンが暴れ出すかもしれないと?」
とある国がドラゴンによって滅ぼされ、今もまだ呪いに掛けられている。自業自得とはいえ、それは人類にとって脅威そのものだった。なにしろ、今まで人類がやらかしてもそれを裁く存在がいなかったのでから。しかし、人類がもしダンジョンに対して敵対行為を向けた時、ダンジョンが裁きの鉄槌を下さないとは限らないからだ。
「それ以上のことが起こる可能性があります。ですが、彼が勇者であり調停者として世界とダンジョンとを繋ぐ架け橋になるかもしれません」
調停者か。それもまた乙橘勇大に重大な責任を負わせてしまうことになる。
「我々のできることは、彼を見守るだけか」
「いえ、彼を社会的な立場から支えるべきか、と」
「そうだな」
津上は、今自分達が彼に対してなにができるか考えるべきかと改めることにした。どちらにしろ、ダンジョンが人類になにをもたらすのか誰にもわからないのだ。心に留めとくにしろ、大げさに危惧すべきではないだろう。
次回投稿は4月25日です




