40 大間田さん
よろしくお願いします
船はモンスターを倒しながら大河を進み、モンスターの気配が無いところで一端休憩を取る。情報によると階層コアは、この先の島にあるらしい。その先に階層ボスモンスターがいるはずなのだが、すでに他の冒険者クランによって倒されて、階層コアを手に入れるためにモンスターが鎬を削って争っている状態だ。
僕達はそのモンスターのバトルロイヤルの中に飛び込まなくてはいけなかった。
今自分と一緒にいるのは、操船をしている大間田さん、そして半魚人相手に見事な交渉を行ったメルジナ・ジ・ネレイス。空からの警戒が必要のため、ヤタ・ジ・ハイペリオン。そして、氷の妖精人エイレネ・ジ・アイスリヴァーの4名だ。
情報によると、あと一時間で着くらしいのだが、それはなんの障害もなく進めたらの話しであり、海中からのモンスターが襲ってくるのは明白だった。
小休止の間、携帯食で食事休憩を取る。
今まで僕達に距離をとっていた大間田さんだったが、メルジナ、ヤタ、エイレネの活躍を目にして感動したようで、よく喋るようになっていた。
「いやあ、乙橘君の活躍もさることながら、召喚した御三方の強さは大した物だね」
「それほどでもない」
すまし顔で応えたのはエイレネだ。彼女は河の水面を凍らせて、モンスターの動きが止まったところを叩くのが定石となっていた。
最初の半魚人の交渉は上手くいったものの、二度目は上手くいかなかった。なにしろ、こちらが別の半魚人の縄張りに入った瞬間、いきなり話し合う余裕もなく襲ってきたのだ。それに対し、エイレネは河一面を凍らせて半魚人の半数以上を氷の中に閉じ込めて、後は彼女得意の拳の連打で倒していった。このまま氷の河では通れなかったところだが、ヤタの炎で氷を解かし、前に進むことができた。
「すみません。最初のように上手くコミュニケーションがとれませんでした」
「いや、メルの所為じゃないよ。交渉で上手くことが運べばいいけど、時と場合で進まないこともあるし、相手による。半魚人も全ての半魚人のように話しが通じる相手じゃないってことだ」
「そうですよ。俺もエルフ以外のモンスターと交渉するなんて聞いたことがない。成功例が一つあるだけでも凄いことだ」
「ありがとうございます」
「それにエイレネさんやヤタさんもかなり強いですね。大河一面をモンスターごと凍らせたり、空から襲い来る怪鳥を風と炎で倒したりと、氷や風、炎を使う魔法使いはいますけど、その中でも御二方は飛び抜けていると思います」
「ふふ、そうじゃろうそうじゃろう」
ヤタも褒められて嬉しくないはずがない。
「乙橘くんの魔法銃の腕も素晴らしい。俺は津上社長が口外しないでほしいと言った言葉を理解できました。ここまで育てた乙橘くんの召喚士としての技量は、大したものです」
あまりに持ち上げ過ぎじゃないかと思う。自分達はそこまで凄いことをしているわけではないと思う。全て程ではないが『ダンジョン超裏技大辞典』のお陰はいうまでもないし、召喚モンスターの彼女達がここまで強くなれたのは、自分達で研鑽してきたためだ。彼女達は自分達の意思で強くなろうと努力をした結果だと思う。
「大間田さんも冒険者だったんですよね」
「ううん、冒険者というより、俺は自衛隊のダンジョン攻略部隊に所属していたからね」
初めて聞く大間田さんの経歴に驚く。
「自衛隊のダンジョン攻略組って凄いじゃないですか」
「マイロードよ、それほど凄いことなのか?」
「そりゃそうだよ。今の自分達は自衛隊の過去の踏破記録で階層の情報を得ているわけだけど、その自衛隊はほとんど手探りでダンジョンを進んでいるわけだから、とても困難な道のりだと思う」
「す、凄いんですね」
「それほどじゃないよ。現に俺ダンジョン攻略が無理で体壊して自衛隊も辞めちゃってるし」
「で、今はエウメニデスで働いているんですか?」
「まあ、ほとんどデスクだけどね。自衛隊でダンジョン攻略時代に津上さんに世話になって、自衛隊を辞めた後も気を遣ってもらってたからね。
自衛隊を辞めた後、色々と職場を転々としていたけど長く続かなくて、家族も養わなくちゃいけなかったし、どうしようか困っていたところに津上社長にギルドで働かないかって誘われたから」
「そうだったんですね」
「正直、津上社長に今回の仕事を頼まれたとき、断ろうかと思ったよ。ソロでB級ダンジョン攻略を目指している召喚士を助けてほしいなんて言われて、首を縦にふる奴なんて早々いないからな」
「はは」
「だけど、本人もそうだが召喚している彼女達も神話級の実力を持っている。それぞれが一騎当千の腕前だ。本来B級ダンジョンなんて二十人以上のクランじゃなきゃダンジョンクリアなんて目指せない。俺が自衛隊にいた時は百名の大隊でダンジョンを踏破していたからな」
「それは津上社長や自衛隊がダンジョンを切り開いてくれたおかげです。こうやって船に乗って階層コアに目指すなんて一般人には無理なことですから」
「そう言ってくれるとありがたいよ」
ここでエイレネを見ると、少しそわそわしている。
「どうしたの、エイレネ?」
「あの、大間田さんに聞きたいことがあるのだが・・・」
「なんだい?」
「大間田さんは『週間少年ダイブ』を読んだことはあるか?」
「『週間少年ダイブ』?ああ、高校生の頃までよく読んでいたよ」
「ほほう、で?どの漫画を読んでいたのだ?」
いや、エイレネ。今はそんな事を聞く事じゃないと思うが。もっと、こう自衛隊時代とか、ダンジョン探索で大変だったこととか、こういうことが役立つとか、聞くことはたくさんあると思う。
僕は思わず心の中で嘆息する。エイレネに漫画やアニメを勧めたのは僕だし、元を質すと僕が原因なんだけど、以降彼女は漫画やアニメに嵌まり、特に昔の少年漫画によくある勢いと演出で乗り切る系の虜となっていった。口調や表情もクール系となり、ボクシングや空手を勉強して拳で戦う打撃を主体になっていったのだった。
「ううん。やっぱりダブピーか、タルトかな」
「おお、いいな。私はハイターが好きだな」
「ハイターか。それは流し読みくらいだったな」
「それは残念だ。だが、ハイターは面白いからお勧めだ」
「君は漫画をよく読むのか?」
「ああ、少年ダイブも少年クリップも少年サタデーも読んでいるな。まあ、読み始めたのは最近だし、どちらかというと古い漫画が好きだがな」
「そんなに・・・」
「意外か?」
「え、いや・・・」
エイレネの言葉に大間田さんは言葉が詰まる。それはそうだろう、少年漫画が好きな召喚モンスターなんて聞いたことがないだろう。
「大間田さんが意外と思うのは当たり前だろう。だが、私は面白いから嵌まったのだし、日本の漫画の面白さは万国共通だ、いや異世界共通だ。面白いものは面白いのだ」
「わ、わたしも、漫画好きです。どちらかというと少女漫画ですけど・・・」
「わっちは時代劇かのう。悪者をバッタバッタと斬り倒して気分爽快だしの」
メルやヤタも会話に参加する。まあ、この二人も好みのものに嵌まった系だけど。
「君たちは本当に変わっているな」
「はは、すみません」
大間田さんは僕の方を向き、驚きと嬉しさが入り交じった表情をしていた。
「いや、正直俺はダンジョンに生息する生き物とは馴れ合えないものだと思っていた。エルフもコミュニケーションがとれているが、こちらを警戒している様子が見て取れる。あくまで彼等は異世界の亜種族であって、俺達人間とは別世界に生きている、と。
しかし、君達を見ていると、別の接し方があるのかもしれないと思えてきたよ」
「そういえば、大間田さんはどうして自衛隊をお辞めになられたんですか?」
なんかようやっと会話を戻せたような気がする。
「そのことか。要は怖くなったからかな」
「怖くなった?」
「ダンジョン攻略部隊に所属し、ダンジョンクリアとアイテム回収に動いていたけど、その都度モンスターに襲われて、仲間も自分も何度も大怪我を負い、死んだと思った状況もあったし、瀕死の重傷にもなった。死にそうなところを津上さんに救けられたこともある。だけど、すぐにアイテムや治癒魔術で復活して、休む間もなくモンスターと戦っていく内に、自分はもう人間じゃないんじゃないかと錯覚してしまい、ダンジョンに進めば進む内に段々と恐怖が湧き上がり、もはや心が耐えられなくなったんだ」
「そうだったんですか」
「自衛隊を辞めた後もモンスターに襲われる夢を何度も見たし、通院を繰り返す日々を送っていたわけだけど、家族がいなかったら俺はずっと心の中でダンジョンに彷徨っていたと思う」
いわゆるPTSD《心的外傷》をこの人は負っていたことになる。
「仕事は長続きしないし、貯蓄していた金は減っていくばかりで、これはもう離婚しかないと思っていたわけだけど、津上社長に誘われたってわけ」
「そうだったんですか・・・」
そんな心に傷を負っていたのに、大間田さんは僕達のために再びダンジョンに入ってくれたのか。
「すみませんでした。僕達のために苦手なダンジョンに・・・」
「いやいや、確かにダンジョンには少しトラウマがあるけど昔ほどじゃないし、こうしてダンジョンに潜れるくらいには克服しているしね。今は津上社長の下でダンジョンをよりよくしようと動いているわけだから、いろいろあったけど悪いことばかりじゃなかったと思うよ」
「大間田さん・・・」
「お、お、お、おえ、うわああああん!」
いきなりの泣き声に何事かと思い、そちらに顔を向けると、ヤタが大声で号泣し、エイレネやメルも涙を滝のように流していた。
「ひっく、わっちは感動したぞ!こんなん泣いたのは久し振りじゃあああ!大間田さん、おんしはほんにええ奴じゃのう!う、うえ、うお、おおおおおおおん!」
「うう、クールな私がみ、みっともない所を・・・ずびばぜん・・・」
エイレネ・・・鼻水出てるぞ。僕はエイレネにポケットティッシュを渡すと、全て使い切るぐらい、チーンッと鼻を何度もかむ。
「わ、わたしも感動しました。うえええええん」
メルの持っているハンカチはすでにビショビショに濡れて使い物にならない。
「えええ、いや俺はそんなつもりは・・・」
あまりのことにドン引きする大間田さん。こんなに同情を買うとは思っていなかったのだろう。
「お頭!」
「あ、はい」
ヤタは強く僕を睨む。その目は泣きすぎて真っ赤になっていた。
「はようこの階層を攻略して、大間田さんを地上の家族の元に帰すぞ!」
「そうだ!」
「わ、わたしもそう思います!」
三人に詰め寄られて、少し引く僕。まあ、三人が本気になってくれて良かった。
「じゃあ、休憩終わり!十階層攻略に向けて行くぞ!」
「「「おー」」」
こうして僕達は休憩を終わりにして、再び階層クリアを目指すことにした。
次回投稿は4月10日23時頃です




