38 修行
よろしくお願いします
レベルステータスとは、魔力による強化だ。
僕こと、乙橘勇大は思考する。
ダンジョンは魔力で満ちている。常人には見えないものなので空気と同じようなものかと思ったら違う。魔力は生きており、生物に呼応する。冒険者がモンスターを倒すとレベルが上がるのは、そのモンスターの魔力を吸収し糧としているのだ。
魔力を上げるには、より魔力値が高く凶暴なモンスターを狩るしかない。これはどこの国でも研究されており、周知の事実になりつつある。しかし、本当にそうだろうか?魔力を上げるにはその方法しかないのだろうか?もちろん、それだけではない。バーサーカーのように妖精と契約するか、アイテムを使って自分の魔力を最大限まで底上げすることも可能だけど、それは一時的なことにすぎない。
そう一時的だ。僕は一時的にでも魔力を上げられないかと愚考を重ねている。僕はダンジョンに漂う視えない魔力を見ようとし、感じようとしてみる。全てのものに流れがあり、流れが止まれば沈殿し腐蝕していく。正しい流れの魔力は光に昇華され、腐蝕した魔力は闇へと堕ちる。ならば正しい魔力の流れを掴み、それを体内に取り込むことでレベルが上げることができないだろうか。
無理かもしれないけど、やるだけのことはやりたいと思う。
「勇大はなにをしているの?」
ハイエルフのパフェ・ジ・スィートは、考え込んでは体を動かしている乙橘を見て、ケンタウレのステラに聞く。
「なんでもモンスターを倒さずに独力でレベルを上げる方法を考えているみたいですよ」
「ふうん」
そんなことできるのかとパフェは思う。魔力を上げるのならば魔術によるバフをすることが必要である。魔術の詠唱なしに魔力を操るなぞできないだろう。それでもやろうとするからには、なにか考えでもあるのだろうか。
乙橘勇大の行動にはパフェは驚かされてばかりだ。勇大はなにかを知っている、いや、なにかを手に入れたのだろう。例えば異世界の深い知識が記された書物かなにかを。それを公表せずに自分で色々と試しているように見える。とはいえ、ダンジョンの攻略情報やダンジョンがなぜ出来たのかとか、パフェ等の亜人種が何故今ここにいるダンジョンに転移したのかまではわかっていないようだ。彼がダンジョンで自分達を見つけてくれなかったら、他の亜人種と同様ダンジョンで路頭に迷っていたわけだし、いずれは自分達に話してくれるものだと信じておこうと思う。
「では、もう一戦お願いします」
パフェは今ケンタウレのステラ・ジ・サジタリウスの訓練に付き合っていた。
彼女は、あの青紫の魔宝石を求めていた漆黒の将軍との戦いで、自分の未熟さを痛感したらしい。そのため、馬上鎗や騎射の練習をあたしや他の亜人種と一緒に行っている。
パフェは普通の馬に乗り、槍を構える。と言っても、彼女自身細剣や弓矢以外はそれほど上手ではない。ネットの動画を視聴して一緒に勉強している。
元来、ケンタウレ、いやケンタウルスという種族は遊牧民族で弓矢よりも槍の投擲を、剣よりも棍棒を使って獲物を仕留めるのを得意としている。それが人間のように甲冑を着込み、馬蹄を嵌めて騎馬技術を得ようとするのは、異質ともいえる。
あたし達は槍と盾を構えて、ステラは自分の足をあたしは馬を走らせる。槍の間合いに入るとステラが槍であたし目掛けて突き刺す。それを盾で防ぐと彼女の脇に槍を突き刺そうとするが、ステラはステップを踏んで避ける。
突く、防ぐ、捌き、避ける。さすがに自分の足だけあってステラの方が動きは早い。あたしは馬を操らなければならないから、どうしても槍と盾だけというわけにはいかなかった。念のために言っておくが、あたしの槍と盾は木で出来ており、かなり軽めだ。対してステラの槍と盾、甲冑にはオモリが付いており、かなり重い。一見実力伯仲に見えて、どちらもハンデがある状態なのだ。
こうして馬上訓練を行っていると、異世界のことをパフェは思い出す。
両親の元を離れたパフェは冒険者で金を稼ぐことになった。どこの世でも食べる手段が必要だ。乗馬の技術も早く移動でき、狩猟するための技術の一つで冒険者仲間から教わったものだ。ハイエルフであるあたしは差別もされてきたし、彼女自身が美しさゆえに商品として狙われることもあった。だからこそ、生き残る手段を多く学ぶ必要があった。
ステラの槍がパフェの肩を突く。魔力がのっていないため、ダメージも少ない。ステラも馬上鎗が上手くなったものだと思う。
もともと才能があったにしろ、それも努力で磨いてきたものだ。それでも弓矢はパフェのほうが優勢のため、負けず嫌いのパフェにしてみれば自分の得意分野では負けていないと意地を張る。
「神槍のほうはどう?使い熟すことはできてる?」
「なんとか。でもレベルが届かないので、やはり完全に能力を開放するには魔力が足りませんが」
魔力を上げるにはレベルをあげることが重要である。パフェもステラもこの世界の冒険者に比べればかなり高いのだが、それでも『ケラウノスの槍』には届かない。
さて、どうするべきかとパフェ悩んでいると、突然彼女達のマスターが「掴んだ!」と叫びだした。
「はてさて、なにを掴んだんでしょうね、私の主くんは」
パフェは碌なことじゃないだろうな、と内心思った。
次回投稿は4月7日23時頃です




