31 依頼
よろしくお願いします
僕こと、乙橘勇大がギルド『エウメニデス』に寄る。B級ダンジョンに潜るに当たっての情報収集と津上社長に呼ばれたのだ。久し振りというわけではないが、BWダンジョンに居を構えるエウメニデスの会社は、最初はプレハブ同然の建物だった。社員も数人しかおらず、閑散とした雰囲気だったのを覚えている。
それが今や大所帯で社員は忙しなく動いている。仕事もクラスごとに分かれており、冒険者クラスに芸能クラス、ダンジョン安全対策クラスと様々だ。プレハブだった会社は、場所を変えて大きな西洋風の屋敷となっていた。BWダンジョンの全ての建物は、ファンタジーに出てきそうな西洋風の建物となっている。エウメニデスの会社もそれに合わせた建物というわけだ。
僕は冒険者クラスに足を向ける。自分が目指すB級ダンジョンは、二十六あるB級ダンジョンの中でも難易度が高いダンジョンで、その名も『ドキューダンジョン』。番号で呼ばれる事が多いダンジョンの中でB級ダンジョンでは唯一のネームドダンジョンである。
B級ダンジョンからセミプロクラスと言われている。D級ダンジョンは初心者クラスであり、怪我も軽傷で済む。C級ダンジョンになると重傷を負いやすい。だけど、ポーションやヒーリングがあれば、命も体も無事に済むからだ。B級ダンジョンは重体か瀕死に陥りやすく、間違えば死ぬ可能性が高い。上級ポーションかエクスヒーリングといったレベルの高い魔術やアイテムが必要になる。A級ダンジョンは失敗すれば即死で、五体満足では戻ってこられないと言われている。
言ってしまえば、B級ダンジョンからが本番なのだ。ダンジョンで稼ぎたいのなら、B級ダンジョン冒険者になるのが必須でもある。だけど、B級ダンジョンは難易度が高く、そこを踏破してA級ダンジョンに行けるものは一握りであり、B級ダンジョンは、A級ダンジョンに行けない冒険者の溜まり場になっている。
ここまでは誰でも知っている情報で、真新しい情報はなかった。待合時間になったので津上社長のいる社長室に行く。
「よく来てくれた。すまないが少し二人にさせてくれ」
社長室では津上社長と他数名の社員がいたが、社長は全ての社員を引き下がらせ、僕と津上社長の二人だけとなった。
「今回来て貰ったのは他ではない。実はB級ダンジョンに行くにあたって依頼したいことがあるんだ」
「依頼ですか」
「そうだ。ネット配信者のギガギンの件を知っているか?」
「ギガギン?」
津上社長は、僕がギガギンの事を知らないとしると、ことの起こりを説明した。
炎上系ネット配信者のギガギンというのがおり、それがC級冒険者レベルでしかなかったのに、B級ダンジョンに入り行方不明になったのだという。
「その行方不明のギガギンを探すのが仕事ですか?」
「いや違う」
「違う?」
「ギガギンに付いていったスタッフの一人、千代原ジンこと千田シンジの捜索だ」
「千田シンジ?」
「正直に話すと、千田シンジは議員のご子息でな。三人兄弟の末っ子らしいのだが、上の二人と違って自由奔放に育ったらしい。そしてなにを間違えたのかギガギンに心酔し、そのままスタッフとして雇ってもらったというわけだ」
津上社長がここまで話すのは、僕と津上社長だけの関係の深さを示している。津上社長が表、僕が裏というわけだ。僕がダンジョンで好き勝手できるのも、裏でエウメニデスの仕事をしているからに他ならない。
「では、千田シンジの捜索、もしくは生死の確認ですか?」
「そうだな。だが議員はこのことを公にしたくないらしい。表向きはギガギンとスタッフの捜索だな。ギガギンの所属していたギルドからも捜索依頼が来ているからな」
聞けばギガギンは、批判はあるもののかなりの登録者数がいるらしく、ネットニュースでは、彼の誰にでも噛みつく暴言の数々が上がることが多いのだとか。彼の所属していたギルドも彼のダンジョンでの行方不明に対し無視するのは難しかったらしい。
「なるほど」
「議員は手を回して、ダンジョン省や日本ダンジョン協会に自分の息子の捜索を依頼し、こちらにお鉢が回ってきたというわけだ」
「でも、B級ダンジョンで行方不明ということは・・・」
「生きていないだろうな」
D級ダンジョンやC級ダンジョンなら生きている可能性もあるだろうが、自衛隊でさえフル装備でそれなりの人員を集めないと一階層をクリアするのも難しいと言われているB級ダンジョンは、冒険者にとっての山場ともいえるだろう。
「議員もそこは諦めているらしい。だが、遺品だけでも欲しいというのは親心なのだろうな。もちろん今回の報酬もきちんと出す」
僕は考える。議員の中にはダンジョン探索に民間を使うのに反対する党が少なくないと聞いたことがある、全て国が運営するべきだろうと。それに対し国の独占に反対する団体も少なくない。それだけダンジョンから発見されるアイテムは魅力的なのだ。
その議員がどういう方なのか知らないが、それでも今回の件で恩を売ることができると考えているのではないだろうか。謂わばチャンスなのだ。
「わかりました。できるだけ早く準備して、そのB級ダンジョンに潜りたいと思います」
「頼んだ」
津上社長は、僕がこそこそと裏道を使ってA級ダンジョンやB級ダンジョンに潜っているのを知っている。もちろん、あの辞典のことは知らないが、なにかレアアイテムを手に入れていると勘づいている可能性が高いだろう。
僕は捜索にあたって必要になるものを提示し、すぐに準備に取りかかった。
次回投稿は4月1日23時頃です




