30 ギガギン
よろしくお願いします
ネット配信実況者のギガギンは悩んでいた。
自分の配信の伸びが良くないのだ。
以前はゴブリン一匹を数人掛かりで残虐に殺したり、逃げ回るコボルトを誰が先に矢で当てられるか等の動画を流して収入を得ていたが、近頃規制が激しくなってきた。日本ダンジョン協会が一部のギルドと手を組み、ダンジョン内における危険な行為防止に動いた結果である。その所為で、ギガギンのような炎上目的な迷惑系ニコニーチューバーにも規制のメスが入ったのである。
とはいえ、ギガギンも炎上しすぎて警察に捕まるようなヘマはしない。ギガギンが行う行為はあくまでダンジョン内だけのものであり、下級モンスターをいたぶる事も嗜虐心を満たしたい視聴者に向けて行っている真っ当なものだとギガギンは思っている。
イジメをしている人間は、自分達は暴力を振るっていると思っていない。あくまで学校内でのゲームであり、遊び感覚でしかない。芸能人が少しヘマしただけで、社会的に抹殺する勢いで叩くコメントも、少し女性の肌が多い広告ポスターがあるだけで噛みついて訴える者も男性の肌が多い広告には静かになったりと、ただ単に自分の正義の心を満たしたいだけなのであるとギガギンは思っている。もともとモンスターは倒すべきものであり、人間を襲い食べる害悪なのだから、どのように倒してもこちらの自由であるべきで、その流れで視聴者の残虐な心が緩和されるのならば、それは犯罪防止にも繋がるとギガギンは本気で思っている。
「俺の動画『ギガギンの炎上するから金をくれ』の伸びが最近よろしくねえんだが、どうしたもんかと思う」
ギガギンはスタッフに問いかける。
「またネット配信者の暴露動画を流すのはどうでしょうか。浮気したり浮気されたり、未成年に飲酒を勧めて暴行した配信者は結構いますから」
「それも悪くねえが、それをしても今より収入を得られるとは思えねえ。俺が欲しいのは金だよ、マネー!金になんなきゃ意味はねえと思っている。お前等だって金がいいから俺の会社に来ているわけだしな」
「・・・・・」
「なにか、こう世間を驚かせるなにかが必要なわけよ。わかる?普通の動画を視聴者は求めてないわけ。自分の心にある誰かを打っ叩きたい衝動の捌け口をスカッとさせるようななにかが欲しいわけ」
言っていることはめちゃくちゃだが、大きい声とその凄みがスタッフを黙らせる。
「今、自分達C級ダンジョンの冒険者じゃないですか」
「?そうだが」
「だったらB級ダンジョンを目指してみればどうでしょうか」
「は?」
いきなりのスタッフの一人の言葉にギガギンは驚きを示す。確か冒険者として経験を上げるために雇った一人だ。
「俺達はまだC級ダンジョン十階層だぞ。B級ダンジョンは難易度が半端ないと言われてるし」
「俺達は本気でダンジョン制覇目指しているわけじゃないしなあ」
他のスタッフは別に自分達を危険に追い込みたいとは思っていない。ちょっとレベルを上げて危険のない場所で奇抜なことをして配信収入を得たいだけなのだ。
「なにもB級ダンジョン踏破を目指しているわけじゃないです。ただ、B級ダンジョンのドロップアイテムは、C級ダンジョンのものよりも高価なものが多いですし、以前ギガギン社長がC級ダンジョンでドロップしたアイテムが高額な値段で売れた時があったじゃないですか」
そういえばそんなことがあったと思い出す。と、いってもドロップしたのはスタッフの一人だが。そのアイテムは会社のものだからと無理矢理奪って、さもギガギンが拾ったように動画編集したわけだが。もちろんそのスタッフにはそれなりの口止め料を払っているし、その時の視聴数もかなり伸びた。
「なるほど」
「B級ダンジョンの一階層ぐらいなら、そんなに危険はないと思いますし。ギガギンがB級ダンジョンに入ったというだけで、それだけ人気が出ると思います」
「確かにな」
B級ダンジョンからは魔境と言われている。普通の冒険者ではクリアは難しくなってくる。そんな中、自分がB級ダンジョンに入ったらどうなるかをギガギンは想像する。今まで自分を批判し叩く輩もいたが、B級ダンジョンを目指すことが知れ渡れば応援する輩も出てくるだろう。高価なアイテムを見つけることができれば、日本ダンジョン協会や国も支援してくれるはずだ。
「いいだろう。おい、お前、ええと」
「千代原ジンです!」
ギガギンは千代原の肩をがっしり掴み、笑みを浮かべる。
「お前の案に乗ってやろう。お前等!俺達はさっさとC級十階層をクリアしてB級ダンジョンを目指す。そしてレアアイテムをゲットしてマネーを手に入れようぜ!」
ギガギンは強気の声でスタッフ達に発破を掛ける。彼のそのどこから出てくるのかわからない自信こそ、動画配信者としての人気の一つなのだ。
ギガギン含む数名がB級ダンジョンで行方不明になったとネットニュースで流れる一週間前の出来事だった。
次回投稿は3月31日23時頃です




