3 ダンジョンクリアを始める前に
第三話新しく書き直しました。
一ヶ月後、あれだけ騒がれていたダンジョン暴行事件(仮)は、瞬く間に収束した。
僕は中学に通えるようになった。とはいえ、この学校でも僕は浮いたままだった。
そりゃそうだろう。あれだけの事件を起こした僕だ、クラスメイトも先生も腫れ物扱いで近寄ろうとしなかった。
主犯である三人は退学となったが、クラスに残った生徒、教師、学校は加害者のレッテルを貼られたまま、今も叩かれている。
ノイローゼとなり、休んでいる生徒や教師がいるぐらいだ。
彼等にとって、僕は自分達を地獄に落とした張本人であり、はやく卒業してもらいたいのが本音であろう。実際に落とされたのは、僕のほうなのにね。
普通だったらここで落ち込むだろうけど、僕には『ダンジョン超裏技大辞典』がある。
高校受験もしながら、少しでも時間があれば、『ダンジョン超裏技大辞典』を読んで頭に入れた。
数学や歴史は頭に入れるのに苦労するのに、『ダンジョン超裏技大辞典』はすらすらと頭に入っていく。
この一ヶ月で、僕はダンジョン超裏技大辞典を全て読み終えて頭に入れることができていた。
勉強は予習復習を何度もしないと覚えないし、理解するのも時間が掛かるのに、この辞典に関しては隅々まで読み進むことができた。やはり人は好きな事になると理解力と記憶力を開花させるようだ。
そして、あることを成すために、僕はダンジョンに行くことにした。
冒険者になるには、義務教育を終えた十六歳でなければならない。
だから、皆高校進学と同時に十六歳になった際に冒険者登録をする。
でも、僕はまだ中学を卒業しておらず、十五歳だ。
まだダンジョンに入れる年齢ではなく、出入り口のゲートで引き留められてしまうだろう。
だけど、僕には『ダンジョン超裏技大辞典』がある。
この辞典によれば、裏ゲートや隠し通路が存在し、表から入らなくても入ることができると記されている。
ダンジョンの中は一度入ることができれば、特に咎められることはない。一階層と二階層には監視カメラは存在するが、それは犯罪を行なった状況証拠のためや行方不明者の捜索に使われるためであり、一冒険者を監視するわけではない。
もっとも、表ゲートから入らなかったことは、結構違法なのだけれど。そういう裏があることに国が気付いていない時点で法に背いているわけではないのだ。
ダンジョンの周囲を隈無く探すと、魔術印が記された石板を見つけることができた。
この印も辞典に書かれている通りだ。
周囲に人の気配はない。僕は辞典に記されていた呪文を唱える。すると、ズズズッと人一人分は入れる穴が開いていく。
この方法は石板とダンジョンが繋がっていて、ダンジョンの魔力を石板から通して行えるものであり、こちらに魔力がなくても使うことができる。
これはダンジョンへの抜け道として、異世界の魔術師が施したものであり、ほとんどのダンジョンに存在するという。
これで僕は冒険者にならないまま、ダンジョンの中に入ることができた。
F級ダンジョン。
階層も一階層から五階層までしかない、初心者の冒険者のためのダンジョンだ。
F級ダンジョンには、イベントが存在する。
F級ダンジョンという最下級ダンジョンは、新人冒険者の登竜門ということもあり、異世界の人間は、ここに冒険者の資格を得るための教習所へと作り変えた。
一番有名なのが、『冒険者の塔』だろう。
こことは違うF級ダンジョンの最下層にある『冒険者の塔』の頂に上り、そこにある水晶に手を当てれば、ジョブとスキルを与えられるというものだ。
ジョブを与えられた冒険者と与えられていない冒険者では、その実力が大きく変わっていく。
そして、僕が今いるF級ダンジョンには『試練の間』というものがある。
戦士の間、魔法使いの間、賢者の間という三つのイベントがある。
ダンジョンにある扉を開けると、戦士が待ち構えており、勝負を挑まれるのだ。
戦士に勝つと「おお、見事だ。そなたこそ強者」と言われて、剣士の間から出ることが出来る。負けても「まだまだ未熟。もう一度出直してくるがよい」と言われて、死ぬことなく、戦士の間から追い出される。
ようするにそこにいる英霊を倒し、クリアするというものだが、クリアしても特にアイテムをもらえるということもない。ただの力試しである。皆最初は面白がって参加していたが、意味はないと悟り、今では誰も行っていない。
だが、僕には意味があった。
ここには、単なる力試しではない、隠されたイベントが存在するのだ。
「よくぞ来た。貴様は我と戦う勇気ある者よ」
闘技場のような場所に甲冑を纏った老練の戦士が立っていた。
彼が使うのは剣と盾である。
彼は英霊であり、ここの番人である。ちなみにこの英霊のクリア方法はネットに提示されており、ひたすら遠距離射撃で相手の間合いに入らないだけである。
なにしろ有段者が正面から戦っても近づくことすらできないのだから。
負けても死ぬことはなく、外に出ることができ何度でもチャレンジできる。それにどういうわけか、その試練の間にいる間は時間が経たない。
「戦うのであれば、我と一戦交えようか」
老戦士は剣を抜いて構える。その姿に隙はない。
だけど、僕の目的は戦うことじゃなかった。
「僕はあなた様と戦うためにここに来たわけではありません」
「ほう」
「僕は冒険者ですが未熟です。あなたと戦う資格すらありません」
「ならばなにゆえ、この場に来た?」
「僕は冒険者として前に進めるためにあなたの弟子にしてほしいのです」
そう、これこそが『ダンジョン超裏技大辞典』に書かれている、強くなるために試練の間で修行するというものだった。ちなみにここで立派な戦士になりたいと言うと、永遠に老戦士の弟子兼小間使いとして働かされるので気をつけなければならない。
「よかろう、貴様は冒険者として強くなりたいといったな。ならば、我の戦士の誇りにかけて立派な冒険者にしてやろう」
こうして僕は戦士の間の番人の弟子となったのだった。
何年経っただろうか、そう思える程にずっと戦士の間で修行していた。
何度も何度も打ちのめされて、ボロ雑巾のようになり、この剣士の間の影響か、すぐに怪我は治り、再び修行の繰り返し。
この戦士の間にいる間は、空腹はなく睡眠もしなくていい。ただ修練あるのみである。
僕は剣と盾を持つ。
竹刀や木刀と違う。ずっしりと重い。
これを右手で持ち、さらに盾を左手に持たなければならない。
そして、甲冑。鎖帷子の甲冑だが、これもかなり重い。十キロ以上あるだろう。
僕は、中央にいる老練な戦士と対峙する。
なぜ、この戦士が英霊として剣士の間に鎮座しているのか、その理由はしらない。
だが唯一いえることは、この剣士はかなり強いということだ。
剣道を習ったことのない僕でも、ここ数年で剣術の腕が上がっているのがわかる。
盾を前に出し、剣が相手から見えないように構える。
最初に出たのは僕だ。
戦士から前に出られると、間違いなく先手をとられてしまう。相手が出るより先にでなければならない。
始めに当てるのは、剣ではなく盾。
盾と盾がぶつかり合い、衝撃が起こる。僕は歯を噛みしめながら、相手に押されないように踏ん張る。ここで押されたら、バランスを崩して隙を突かれてしまう。初めの頃は、何度も盾によって吹き飛ばされていたのを思い出す。
剣を振るっても、全て盾で防がれてしまうのだ。
だから、まず盾で攻撃する。盾は攻撃手段であり防御にもなる。
盾と盾がぶつかり合いながらも、引いたり押したり、相手のバランスが崩す攻防は続いていく。
力負けし、老練の戦士が一歩下がる。
ここで僕は剣を振るう。
剣士が一歩出遅れた形だが、それでも僕の剣を受け止め、さらに受け流す。だが、僕も剣の流れを変えて、上段から下段へと剣を剣士の脇腹に向けて振るう。
それを盾で受け止める剣士。剣士の剣を盾で受け止める僕。
数分、いや数十分経っただろうか。短く感じるし長くも感じる攻防が続き、最後に僕の剣が、戦士を袈裟懸けに斬り裂いた。
「ふふふ、ようやっと一撃を与えられるようになったな」
袈裟懸けに斬られた剣士の体はすぐに癒える。
「やった」
「だが、まだまだ足運びが甘いわ。一勝したぐらいでは皆伝とはいえん。儂の全てを教え込むまで、修練は続くぞ」
「はい!」
それから何度も血反吐を吐くような修行は続き、しばらくして免許皆伝にまで至ることができた。
「ようやっと、剣士として一人前になったな」
「ありがとうございます!」
「では次に槍の訓練を始める」
「・・・・・・」
この戦士は剣だけではない、槍や弓矢も優れているのを忘れていた。なにしろ、戦士の間のチャレンジの時は、剣と盾しか使わないのだから。
こうして僕は、戦士としての技術を全て叩き込まれていく。あくまで戦士としてではなく、冒険者としてだが。戦士としての弟子モードはこの何倍もきついらしい。
「勇大よ。みごと、見事この我の修行を耐え抜いた。剣、弓、槍に加え、対モンスター戦術に対人戦術を覚えた。これなら冒険者と名乗ることもできよう。我も出来が悪いとはいえ、なかなか骨のある弟子を持つことができて良い暇つぶしになったわ。わははははは」
「ありがとうございます、師匠」
「お主は弟子の中では一、二を争うほどの才能なしだった。しかし、お前は努力と研鑽で補いほんの少しの才能を開花させていった。それは賞賛すべきものだ」
「師匠」
「弟子よ」
「師匠おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」
「弟子よおおおおおおおおおぉぉぉぉ」
僕達はがしりと抱きしめ合う。
「どうじゃ、戦士として我の弟子になってみんか?」
「いえ、自分は冒険者として、師匠の剣を役立てたいと思います」
「・・・残念だ。残念だが、一人の弟子がこうして巣立っていくのは悪くないな。わはははは」
ほんと、この人は師匠と呼ぶに相応しい英霊だった。
「着けている防具、盾、剣、槍、弓矢は餞別代わりだ。持って行くがよい」
「ありがとうございます」
「うむ、よき冒険を歩むが良い」
外に出ると、時間は経っておらず日付は入った時のままだ。ほんとにどんなに入っていても日数は経たないんだな。自分を見ても年齢を重ねた様子はない。それでも筋肉はついたし、顔つきも精悍担った気がする(当社比)。
それにしても疲れた。一日で終わらそうとしてたけど、無理だ、これ。
魔法使いの間は明日にしよう。
・・・・・・あっという間に明日になった。
魔法使いの間には妙齢の美女がいた。もし戦うとしたら近距離で戦うのが定石だ。でも、僕の目的は戦うことじゃない。弟子入りすることが目的だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何年経っただろうか?
魔術のイロハを徹底的に教わり、実践で使い熟すまでひたすら修行の日々。免許皆伝の杖を貰うまで、気が遠くなるほどの年月を過ごした気がする。
「勇大よ。どうじゃ、私の弟子になって永久の刻の中で愛を育もうではないかえ」
「いえ、僕は冒険者になって、師匠の魔術を役立てたいと思います」
次の日、僕は賢者の間に入った。
以下略。
こうして僕は三日間で、剣と魔術と知識を得ることができたのだった。正直一気に老けた気分だ。
お読みいただきありがとうございます。
四話も早めに新しく書き直したいと思います。