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23 復讐の終わり

よろしくお願いします

「君の体は妖精の呪力によって全身が汚染されている。その呪力を抜くための解呪魔術が必要で、元の体に戻るには日数が掛かるだろう」


 彼、刀堂昂司に会ったエルフはそう言っていた。

刀堂は体を呪文が描かれた包帯で巻かれている。体は重く思うように動かず、時々体中から激痛が走る。それがバーサーカーになった彼の代償だった。

 その後、国の役人が来て、本来は呪術を解くために莫大な治療費が掛かるらしいのだが、君の体を調べさせてくれるのなら、国が肩代わりしてくれるとのことだ。そんな大金を彼も彼の両親も持っているはずはなく、二言で了承する。


 なにが間違っていたのか、刀堂自身わからなくなっていた。

 彼が冒険者になったのは、中学で仲良かった多田倉に久し振りに会い、冒険者に誘われたのが始まりだった。刀堂と多田倉の男子二人、津木下と戸坂の女子二人は中学時代よく遊んだ友達同士だった。中学卒業後、四人は違う高校に行ったが、今もこうして連絡を取り合っている。


 多田倉は中学卒業後、高校の先輩に誘われて冒険者になったのだという。

刀堂は中学高校と剣道部に所属し、高校総体にも出場経験もある。高校を卒業してからは大学に進学し、以降剣道は道場で軽く汗を流すだけだが、実力は衰えていないと自負していた。

テレビ番組のゲストでA級ダンジョンクリアを目指している冒険者を見たことがある。テレビの中の冒険者は、あのモンスターは手強かった、あのエリアをクリアするのは大変だったと体験談を語っていた。テレビを視聴していて思ったのは、自分だったらモンスターを倒すことも簡単にできるのではないか、と。

 だからこそ、多田倉の誘いにのったのだ。三津谷と村勢も刀堂が冒険者になるのであればと、冒険者ギルドに登録し、パーティを組むことになった。


 パーティ名はT4T。名前の頭文字が全員タ行だったからだ。

 刀堂のジョブは、剣士。多々倉は鎗使い、津木下はヒーラー、戸坂は魔法使いだ。四人のうち、多田倉は冒険者経験があり、他三人は初心者という形だ。

 彼等はD級ダンジョンでレベルを上げていく。多田倉はすぐにC級ダンジョンに行きたがったが、止めたのは戸坂だ。彼女はネットでC級ダンジョンの難易度がD級ダンジョンと比べものにならないぐらい高いことを調べ上げ、D級ダンジョンの階層が多いダンジョンを攻めて、じっくりレベルを上げたほうがよいと提案したのだ。

 戸坂は相変わらずだな、と思った。慎重派で物事に軽んじない性格は中学時代のままだ。

 刀堂と戸坂は、中学時代付き合っていたことがある。卒業と同時に自然消滅したが、二人にとってはよい思い出だと思っている。


 難易度の高いD級ダンジョンをクリアし、戸坂もC級ダンジョンに挑戦を認めた。その頃には、皆かなりのレベルが上がり、C級ダンジョンのモンスターでも手こずることなく、難なく進めるようになっていた。


 そんな時だった。多田倉が青紫の魔宝石を偶然見つけたのは。

 多田倉は喜んだ。こんな魔宝石見たことない。これはSレアアイテムだ、と。

 確かに青と紫の魔宝石は、刀堂はダンジョンにある魔宝石ショップのショーウインドウから見たことがあるが、両方掛け合わさった魔宝石は見たことがない。津木下もすごいじゃないと喜んでいる。しかし、素直に喜んでいない人物がいた、戸坂だ。


「ねえ、その魔宝石。嫌な予感がするのだけれど、元の場所に戻すことはできない?」


「なに言ってんだよ、戸坂!レアアイテムだぞ。今まで見たことのない青紫の輝き!売ったら相当の金額だ。捨てるわけないだろう」


「で、でも」


「このアイテムを拾ったのは俺だろ。だったらこれは俺の物で、なにかあったら俺の責任だ。大丈夫だよ。金が入ったらお前らにも奢ってやっから」


 脳天気に笑う多田倉。多田倉はこのまま冒険者のプロになる気はないことを刀堂は知っているし、それは刀堂も同じことだ。ダンジョンでアイテムを拾って換金して、それなりに稼いだらダンジョンを引退するつもりでいる。この青紫の魔宝石がレアアイテムだとしたら、一気に大金を手にしたことになる。


「多田倉の言う通りだ。もしその魔宝石が呪われていても、地上に戻って解呪してもらえばいいよ」


「ちょ、縁起でもないこと言うなよ」


 その時である。刀堂達の前にそれが現われたのは。


「あれ?なんか暗くなった?」


「空が黒い雲に覆われていく」


「なにか強い魔力がやってくる、気をつけて!」


 その気配に最初に気付いたのは、魔法使いの戸坂だ。その言葉通り空間が歪み、そこから黒い馬に乗った漆黒の騎士が現われる。


「みんな気をつけろ。騎士のモンスターだ!配置に着け。多田倉!」


「あ、ああ」


 呆然としていた多田倉も事態の異常に気付き、配置に着く。

 前衛は刀堂と多田倉、後衛は戸坂と津木下。まず刀堂が先陣を切り、次に多田倉が攻撃を加える。戸坂が魔法で援護し、津木下がバフと治癒魔法で支援を行う。いつもの戦法、これで切り抜けていた。今回も大丈夫、のはずだった。


 それは一方的だった。パーティT4Tは為す術もなく蹂躙され、多田倉と戸坂は死亡、津木下は重傷を負い、刀堂も大怪我を負った。多田倉が死ぬと同時に青紫の魔宝石が消えて、それを追うように漆黒の騎士も消えていった。偶然冒険者が倒れている刀堂と津木下をみつけなかったら、全滅していただろう。

 刀堂は、ダンジョン一階層に送られ、すぐさま上級治癒魔法を受けて助かることができた。津木下は心に傷を負い、今も通院しているという。会おうとしても拒否されて、いつしかメールを送ることもしなくなった。

 刀堂は憎んだ。あの漆黒の騎士を、あの青紫の魔宝石を。ダンジョンでゴブリンを理由もなく斬り刻み、怒りをぶつけていると妖精が囁いた。


 力が欲しくないか、と。


 その日から刀堂昴司の復讐は始まったのだ。ダンジョンで青紫の魔宝石を探し、レアな魔宝石を見つけたという冒険者を襲う日々が。

しかし、結果はこのざまだった。凶戦士の能力に操られ、上手に使いこなすこともできないまま、自分の体が耐えきれずパンクしてしまった。

この凶戦士の呪いが解けたとしても、刀堂は冒険者を襲った罪で逮捕されるだろう。復讐を果たすこともできないまま、刀堂の人生は絶たれたのだった。

 次の日、エルフが再びやってきた。


「大丈夫、ではないな。体が相当痛いだろう。だがそれが闇の力に手を出した結果だ。受けいれる罰と考えたほうがいい」


「・・・・・・」


「君に報せたいことがある。私の、この世界の、知り合いと言うべきか。知り合いの冒険者パーティが青紫の魔宝石を拾ってね、黒馬に乗った漆黒の亡霊を倒したそうだ」

「な、なんだって・・・?」


 刀堂は耳を疑った。あの、自分達では手も足も出なかったモンスターを倒したというのだ。であれば、あのダークエルフを引き連れた少年がやったというのか。


「私も信じられんよ。あれほどのモンスターを軍隊も使わずに倒すとはね。彼を見くびっていたかな。いやはや、姫君が、いや元姫君が仕えるはずだ。しかし、君も気分が晴れただろう。復讐の相手は無事倒されたのだからね」


「・・・・・」

 エルフが去った後、彼は泣いた。なんの涙だろう、あのモンスターが倒された涙か。それとも自分で復讐を果たせなかったからか、所詮自分はダンジョンでは弱者でしかなかったということを思い知ったからか。

 こうして刀堂昴司のダンジョンにおける復讐は終わったのだった。


次回投稿は3月21日13時頃です

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