2 帰ったらびっくりしたこと
第一話と第二話を改訂いたしました。
読者様には今までと違う内容が記載されている件について申し訳ありません。
第二話以降も時間が出来たら徐々に直していこうと思います
「そろそろ帰らないと…」
読み終わってはいないし、まだ読み足りないという気持ちが強いが、そろそろ家に帰るべきだと思い、腕時計を見ると日付が変わっていた。どうやら僕は一夜を過ごしてしまったらしい。
この本にはダンジョン内の裏技が書かれているが、ダンジョンの地図は記されていない。それはそうだろうと思い直した。読んでわかったが、この本は、ダンジョンの裏技が書いてあるのであって、攻略本ではないのだ。
つまり、どうすればダンジョンを誰よりも早く攻略できるかのようなネタバレ本ではなく、あくまでもモンスターの生態や、襲われた時の対処法、魔石や魔宝石のレアアイテムが採掘できそうな場所が記されており、ダンジョンクリアに繋がることは一切書いていない。
この『ダンジョン超裏技大辞典』は凄い本だった。ダンジョンにある植物や木々、モンスターを全て網羅しており、どうすれば危険なモンスターに遭遇しないか、見つからないようやり過ごすことができるかが、綿密に書かれているのだ。
僕はなんとかモンスターに襲われることなく、この本に書かれている通りにダンジョンの出口を目指していく。
冒険者でもなく魔力もない、レベルも0でしかない僕はゴブリン一匹でも命が危ない。
おそらくゴブリンに小突かれただけで、僕は死んでしまうだろう。
それでも、だからこそ、僕はこれで生き残ることができると確信した。
この本に書かれている出口を教えてくれる妖精とその生息する場所を探す。
「いた」
そこには幾つもの人の姿に羽を生やした妖精が湖の上を飛んで戯れており、そこに黄金色に輝く妖精がいた。
黄金の妖精。
『ダンジョン超裏技大辞典』には、こう記載されていた。
月明かりの中、湖で他の妖精と共に戯れる妖精。大きさは大人の男性の人差し指程、性格は臆病で単純。頼まれたら嫌とはいえない性格。
本当にいた。『ダンジョン超裏技大辞典』の情報と、この崩落したダンジョンの情報を重ね合わせて、黄金の妖精が発生する場所を特定し張っていたのだ。
僕はリュックからメモ用紙とペンを取り出し、本に書かれている通り、妖精文字で『ダンジョンの出口はどこ?』と書き、その切れ端を破いて一番高い丘に置く。
妖精達がそれに気づき、散らばっていく中で、黄金色に輝く妖精の後を見失わないようについていく。
僕の手には破いたメモの切れ端があり、黄金色に輝く妖精は、僕をダンジョンの外へと案内してくれる、はず。
『ダンジョン超裏技大辞典』には、こう記載されている。
ダンジョンで道に迷った際、黄金色に妖精を探しなさい。
そこで出口を教えて欲しいと書いたメモを、妖精の目の届く場所に置こう。
他の妖精が逃げていく中で、お人好しの黄金の妖精だけは、出口へと向かい、道を教えてくれるよ。
ただし、絶対に見失わないように。
一度見失うと、黄金の妖精は二度と目の前に現れず、出口も見失ってしまい、ダンジョンから出られなくなるかもしれない。
妖精文字だろうか。丁寧に出口を教えてという文字も書いてある。
他にも妖精が逃げない、見失わないようにする方法が本に書いてあるが、長々しいので割愛する。
気がつけば僕がダンジョンから出るのに一週間掛かってしまった。それまで僕は、妖精を見失うことなく、睡眠時間も削ってダンジョンの出口に辿り着いたのだった。
ようやっとダンジョンを出て、家に戻ると両親はかなり驚き、そして安堵と共に怒られたのだった。
両親から聞かされた内容は驚くべきことだった。
『乙橘勇大君一人でダンジョンの禁止区域に入り行方不明となる』
これが新聞の表一面に載り、連日テレビのワイドショーの話題に上げられていた。
どうやら僕は一人でダンジョンの禁止区域に入り、崖に落ちて行方不明になったとのことだ。そのため救助隊が組織され、地元の警察や消防隊も動いたが、三日経っても見つからず打ち切りになった。ネットでは、一人でダンジョンに忍び込んだ迷惑な高校生として叩きに叩かれていた。
『遊びでダンジョンに入った無謀な少年』
『周りの迷惑も考えず好奇心でダンジョンに入る危険な行為』
『救出するのは税金の無駄』
僕が一人でダンジョンから出たことを学校と警察に伝えようとすると、両親に止められる。どうやら大手ダンジョンギルド『ギガス』から警察や消防、その他諸々に連絡する前にギルドに一報してほしいというものだった。
大手冒険者ギルド『ギガス』。
民間の冒険者支援団体としてランキング一位を獲得しており、有名な冒険者パーティが幾つも加入していた。その他にも冒険者ギルドは存在するが、経営実績は『ギガス』には及ばず、草ギルドと云われるほどである。
僕は両親と共に、大手冒険者ギルド『ギガス』へと向かう。
電車を使って辿り着いたダンジョンギルド『ギガス』のビルには、その担当者が待っていた。眼鏡を掛けたオールバックの小役人といった感じの男だ。
名刺を貰い、応接室へと通される。そこから話された内容は以下の通りだった。
今回の件は、君が一人でダンジョンの中に入り、行方不明になったこと。つい好奇心で三階層に足を運び、足を踏み外して崖に落ちたということにしてほしいということだった。
「どういうことです!」
「うちの息子は、クラスメイトに殺され掛けたんですよ!」
当たり前のごとく両親は声を上げる。
「そのダンジョンカメラの記録も今回の崩落事故で壊れていましてね、名簿も担当者が紛失してしまいまして、目下の所捜索中です」
「そんな・・・」
「あなた方の息子さんがクラスメイトと共に、ダンジョンに入ったという証拠がありません」
僕は神妙に担当者の話す言葉を聞く。
「でも、息子は」
「例えそうだとしても、彼等は未成年です」
父さんが喋ろうとするのを、担当者が口を挟んで止める。
「もし仮にそれが事実だとしても、確かに彼等が君にしたことは許されることではないかもしれないが、それで彼等の未来を台無しにしていいわけがないでしょう。彼等も反省していますし、君も彼等も今年で中学を卒業します。もう二度と君に会うことはないと約束していますし、ここで水を流すべきだと思いますよ」
「そんなこと許されていいわけないでしょう!」
「では示談という形はどうでしょう」
担当者は数枚の文書を僕に渡す。それには今後この件の真実を明かすことなく、自分一人でダンジョンに入った旨を書き記したものであった。
「これは?」
「ここにサインをしてくれれば、加害者の方々から示談金が仕送りされます」
「断ります」
僕は文書を担当者に返す。
「僕は警察にもマスコミにもいいますよ」
僕は強気に言ったつもりだが、担当者は驚いた様子はない。
「勝手にどうぞ。証拠もないですし、すでに世間は君が一人でダンジョン禁止区域に足を踏み入れたことになっています。警察やマスコミになにを言っても信じないでしょうが」
その後、何度も話し合ったが、話しは一向に進まなかった。この担当者は両親と僕の言葉に耳を傾けることはなく平行線を辿る。
何時間経っただろうか、両親も僕も疲弊していたが、担当者だけは涼しい顔を崩すことはない。
「すいません。所用ができたのでここで失礼するよ」
自身の腕時計を見て担当者が立ち上がり、応接室から出ようとしたところで立ち止まる。
「もし、君がここでの話しを誰かに喋るのであれば、冒険者としての君の居場所はないものと思ってください」
扉がバタンと閉まり、応接室には僕と両親の三人が残されていた。
数日後、ある映像がネットに上がった。
四人の中学生がダンジョンに入る。
最初は和気藹々だったが、立ち入り禁止の三階層に入った辺りから、四人のうち三人がいなくなり、一人が取り残され、気付けば三人に襲われるというものだった。
どうやら被害者のヘルメットに仕掛けられた映像のようだ。
その映像は本人視点だけでなく、一階層と二階層に仕掛けられたカメラの映像も入っていた。監視カメラは動かないはずなのに、なぜ?
実はネットに繋がらないだけで、ダンジョンカメラは壊れてなどいないし、ただバッテリーが切れていただけだった。僕はダンジョンの外に配置されていた予備バッテリーの場所と機動する方法を調べて、機動しただけだった。
僕の被っていたカメラ付きヘルメットは、ダンジョンカメラの映像もダウンロードできるようになっている。僕がダンジョンの外に出る前に一階層と二階層に設置されているダンジョンカメラの記録を回収しておいたのである。
追いかけ回される少年。
追いかける少年達。その嘲け楽しむ表情はくっきりと動画に映し出される。
幾度も矢が放たれ、逃げる少年を襲ってくる。
追いかける少年達の手には盾と剣、槍を持っており、時折、まてよ、ゴブリン、退治してやる、の声が聞こえてくる。
放たれた矢の一本が逃げる少年の肩に当たり、バランスを崩した少年は、崖の下へと落ちる。
映像はそこで終わっていた。
その映像はすぐに消されたが、あっという間に拡散されて話題になり、数週間後にはネットニュースからテレビのワイドショーに上がることとなる。
その後、ダンジョン関係者がダンジョンで行方不明になった少年は、同年代の少年三人に襲われて崖から落とされたとテレビで白状する。
ダンジョンカメラも動作していなかったわけではなく、ギルド『ギガス』の社員によって回収されて、隠蔽されていたことも。
さらに彼等が在学している中学の生徒の一人が、もともと襲われた少年が学校で虐められており、担任教師を含む学校側がイジメを黙認していたと明かしたことで、大問題となった。
僕は進学する高校から、この件が落ち着くまで休学をお願いされ、自宅のネットで視聴していた。
行方不明の間、あれだけ僕を一人でダンジョンの立ち入り禁止区域に入った愚か者扱いだったマスコミは手のひらを返すように擁護し、自分たちの罪を擦り付けるようにギルドと学校側、警察、虐めていたクラスメイトを叩き始めた。ネットでは学校のクラスメイトの名前が挙がっており、誤報まで飛び交い、この件に関係のない学校まで被害を受けるようになった。
全ては僕のヘルメットに内蔵されたカメラとダンジョンカメラのお陰だった。
ヘルメットのカメラも超小型であり、ヘルメットにカメラが取り付けられていたなんて、担当者も誰も気付かなかった。
スマホは警察に押収されてしまったが、ヘルメットはスルーされたおかげで、逆襲に転じることができたけど、もしヘルメットや家のパソコンが押収されたら、打つ手がなかっただろう。
噂では、僕を対応してくれたギルドの担当者は別の部署に異動されたらしい。
僕を殺そうとした三人も他県の中学に転校することとなり、ダンジョンに二度と入らない罰を与えられたとのことだ。
こうして僕のイジメの復讐はいったん終了したのだった。
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