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16 船の上にて

よろしくお願いします

 船は自動操縦で目的地まで行く。幾つも枝分かれした川は結びつき大河へと出る。はっきり言ってなにもすることがないが、なにもない方が地獄だった。ダンジョン四十五階層の大河は荒波で、乗組員は全員顔を真っ青にし、嘔吐する者までいた。


「これはさすがにきついなあ」


 D級ダンジョンにも川はあり、小舟で渡ることもあるが、これほど大きい河はなく荒くもない。そのため、『ホットジョルト』のリーダー善崎さんは少し弱音を吐いていた。

 チーム『ホットジョルト』は、六名パーティの冒険者だ。

リーダーの善崎さんは二十代後半、役割は剣士。脱サラして冒険者になったらしい。もともと大学で登山部だったらしく、キャンプや山登りには詳しい。その他のパーティメンバーは戦士二人、白魔術師一人、召喚士一人の構成となっている。

船の中では軽い自己紹介で済ませたが、僕のパーティメンバーが全員召喚モンスターであることに驚いた様子だった。

船の上では、別に和気藹々と別パーティとの交流もなく僕達は僕達で、『ホットジョルト』は『ホットジョルト』で固まっている。


 『ホットジョルト』の面々は、僕の召喚モンスターであるフローズンのエイレネ、セイレーンのメルジナ、女天狗のヤタに視線を向けていた。彼女達の三者三様の美しさに見惚れていたのだ。

 見た目クールなエイレネ、少しびくびくして守ってあげたくなるメルジナ、勝ち気で剛毅そうなヤタの容貌は人を惹きつけるに十分だった。


「彼女達、本当に召喚モンスターか?あんなに美しいの見たことないぞ」


「あんまりじっと見るなよ。あの魅力で虜にして精力を奪うのかもしれないぞ」


「あんなに綺麗だったら虜になってもいいかもなあ。あのメルジナって女の子、ほんとに綺麗で可愛い」


「ていうか、三人とも乙橘ってガキの召喚モンスターなんだろ?あんな美女達を侍らしているなんて、すっげえ羨ましい」


「でも、普通召喚モンスターって、カードの中に封印されているんだろ?どうしてずっと出し続けてられるんだ」


「そういうスキルみたいなものを持ってるんじゃないのか。わからんけど」


「彼女達の召喚カードなんて売れば数千万、数億円いくんじゃないのか?」


「実力次第じゃないか」


「C級ダンジョン四十五層まで来てるんだぞ。弱小カードなわけないだろ」


「いいなあ、ほしいなあ・・・」


「おい、取り込まれてるぞ。気をしっかりもて」


「あの美しさに取り込まれない奴なんていないだろ。俺だって誘われたらほいほい行っちゃうね」


 『ホットジョルト』の男性メンバーがこそこそと話し合っている。僕はどんな内容か大体わかっていたが、敢えて無視する。


そんな中、僕が一人でいると『ホットジョルト』の召喚士が話しかけてきた。


「あの、少しいい?」


年齢は二十代前半だろうか、大きな盾を持つ、ボブカットの茶髪の女の人だ。


「なんでしょうか」


「あの、これ質問なんだけど、どうやって召喚モンスターを常時出し続けることができるの?一体ならなんとかできるかもしれないけど、複数はそうとう難しいよね。それにあのモンスター達、自分達の意思で動いているというか、なんかモンスターとは違う個性があるというか・・・」


 まあ、彼女が不思議がるのもわかる。あれは奇跡の湧き水によるものもあるけど、カードによる服従の魔法を解いてコミュニケーションをとり続けたというのもある。そして、まあ、いろんなアニメや漫画を視聴して読ませた結果が高い。

 初めて彼女達を召喚した時は、モンスターの本能で生きる空っぽの状態だった。その彼女達にこの世界の知識と知恵を与えた。僕は人付き合いが得意のほうではないが、それでも根気強く会話を重ね、彼女達が半人半獣にある半分の人の生き方ができるよう教育したのだ。

 結果、エイレネは少年漫画に嵌まり、メルジナは少女漫画に嵌まり、ヤタは時代劇に嵌まったわけだが。彼女達の行動や戦い方は趣味の影響によるものである。


「そうだね。普通召喚モンスターって、ダンジョン攻略のために召喚して戦わせるもので、強いモンスターが手に入れば、使っているモンスターを捨てて、強いモンスターに替えるのでしょ」


「そうね。弱いモンスターのままだと、今後のダンジョン攻略に支障が出るし、召喚カードは五枚しかないから、次々と強いモンスターを封印していくのが主流よね」


 例えばゴブリンを例にしてみよう。ゴブリンをカードに封印し、そこでレベルを上げてレベル50まで上げたとしても、基本が最弱だからレベル1のオーガにあっさり負けてしまう。だったら、ゴブリンをカードから追い出し、オーガを新しい召喚モンスターにして育てれば、効率がいいのが明白である。


「それも大事だし、手っ取り早いと思うけど、僕は既存の持っているカードをレベルだけじゃなくて、きちんとコミュニケーションをとって育てたいと思っているんだ。もちろん、相手はモンスターだから、人間とは性格も感性も違うし、人間のような接し方じゃ相手には伝わらない。犬や猫とも違う。どちらかというと熊や虎と接するようなものかもしれない。元は人を襲うモンスターなわけだしね」


「そうよ。召喚士の中にはペットのような対応をする人もいるけど、こうしてC級ダンジョンまで来るとわかるわ。モンスターは危険だって」


 モンスターは危険。それは正しいと思う。モンスターのほとんどは肉食か雑食であり、人間はモンスターにしてみれば、逃げる足も遅く非力であるため、手頃な食料にみえてしまうのだろう。


「モンスターを友達扱いはしないし、ペットのような近親的な接し方はしない。だけど、ある程度の絆を持つことによって、ほんの少し信頼関係を持つこともできると思う。そのためには倍の苦労が必要だし無駄に終わるかもしれない、早急にダンジョン攻略を目指す組にとって、単なる時間をロスして機を逸するだけだしね。でもさ、無駄なことかもしれないけど、僕は召喚士として彼女達と絆を作りたいと思っている。ただそれだけさ」


「なるほどね。あなたはあの3体とそういう接し方をしているのね。少しだけ理解したけど、徒労に終わるかもしれないわ。あなたがどのような方法でずっとカードから出しているのかはわからないけど、放し飼いは危険よ。よくペットを放し飼いする飼い主がいるけど、犬にしろ猫にしろ、人ではないのだから気付いた時には他人に襲いかかるわ、飼い主も含めてね。しかも、あなたのは犬でも猫でもなくモンスターなんだから、召喚士としての責任も重大になるわ」


「そうだね。まあ、放し飼いにすることはないよ。きちんと目の届くようにしているしね」

 実際はほぼ放置状態だけど。

「少し説教臭くなってごめんね。私もさ、召喚士になった頃は、あなたみたいに召喚モンスターと仲良くなれると思っていたけれど、こうしてダンジョンに潜っていく内にどんなに仲良く接しようとも根っこの部分はわかりあえないと思ったのよ。だって、モンスターはモンスター、人間じゃないのだから」


「忠告ありがとう。肝に銘じとくよ」


 本当のところはちょっと違うが、僕は予め作ってある答案通りに話した。


「まあ、すぐには納得できるとは思わないから、心の隅っこには留めておいてね。彼女達、凄い綺麗で人の姿をしているけど、人間じゃないのだから」


「お気遣いありがとうございます」


 そんな会話をしていると、メルジナがモンスターの気配がすると僕に伝えてくる。船の上でもダンジョンの中には変わりはないのだ。どこだろうとモンスターは餌を嗅ぎつけて襲ってくる。


「敵だって?」


「探知石にはまだ反応がないぞ」


「本当にモンスターなの?」


 『ホットジョルト』のメンバーが次々と反応する。


「彼女は人魚です。水棲生物の気配を感知するのは彼女が一番優れています」


「人魚って、彼女には足が・・・」


「魔術で足を作っているだけです」


 人魚メルジナは槍を抱くように持ち、こくんと頷く。おどおどしている挙動は、どうみても彼女が強そうなモンスターには見えず、『ホットジョルト』のメンバーが疑いの目を向ける。


「お、おそらく河の底で私達の様子を見ていると、お、思われます」


「河の底?」


 善崎さんが河を覗き込むが、荒れた海面しか見えない。


「なにも、いないじゃ・・・」


「き、き、き、きます!」


 メルジナが叫ぶ。その時、河から大飛沫が起き、船が大きく揺れる。皆なにが起きたか確認すると、巨大な大蛇が天を突くように現われる。大蛇はこちらを睨んだまま動かない。どうやらこちらを注視しているようだ。蛇に睨まれた蛙というのがある。レベルの低い冒険者がシーサーペントに睨まれれば、状態異常を起こし体が膠着するのだ。そして『ホットジョルト』のメンバーもシーサーペントの睨みに体が動かず固まってしまったようだ。


「シーサーペント?!」


 シーサーペントとは、名前の通り海蛇である。しかし、その大きさは海の大蛇が相応しい。牙には毒性があり、相手を胴体で締め上げた後噛みついて状態異常にし、そのまま丸呑みして食すのである。


「どうして、この河に?」


 海に生息するはずのシーサーペントが何故大河に現われたのか。その問いに僕が応える。


「おそらく海から大河に入り込んでしまったのでしょう」


 本当のシーサーペントなら、全長五十メートルはあるとネットの情報に書いてあった。このシーサーペントは十五メートル程でそれほど大きくはない。おそらくまだ子供だろう。偶然にも迷い込んでしまったと考えられる。


「やばいぞ。この船じゃあもたない」


 もし、シーサーペントが襲いかかってくれば、普通の船ではひとたまりもないだろう。


「いや、船は大丈夫です。ですけど僕達が危ない」


 この船には自衛隊による魔力防護が施されていて、並大抵では傷つかない。この大きさのシーサーペントの一撃には耐えられるだろう。だけど、船上にいる自分達は別だ。今は蛇に睨まれた蛙状態であり、不振な動きを取り次第、食べられてしまう可能性が高い。


「メル!」


 僕はメルジナの愛称で叫ぶ。


「は、はい!」


「頼む!シーサーペントを船から離してくれ!」


「わ、わかりましたああ」


 彼女は迷うことなく海へ飛び込む。


「お、おい!」


 ホットジョルトの面々が彼女の行動に驚く。しばらくして、下半身が魚となったメルジオが大河から飛び出す。その姿はまさしく人魚であり、その美しさに『ホットジョルト』の面々がつい見とれてしまう。


「わ、わたしの名はメルジナ・ジ・ネイレス!わ、わたしの歌を聴けえええええ!」

「みんな、耳をふさいで!今すぐに」


 僕の声になにがなんだかわからないといった『ホットジョルト』の面々だが、エイレネやヤタが耳を自分の耳を塞いでいるのを見て、おもわず耳を塞ぐ。


 メルジナは歌う。それは人の声ではない、人魚が放つ美しい魔物の声だ。メルジナの詩を聞いた全てのモノは彼女に魅了される。彼女はセイレーンと呼ばれる人魚なのだ。

 普段のメルジナは、リリカと一緒に発声やビブラートの練習、どうすれば人を惹きつける歌がうたえるかをネット動画を視聴しながら研究している。特に好きなのがアニソンで、メルジオの人魚の詩はいつの間にかアニソンの歌に変わっていた。うーん、アニソンを熱唱する人魚なんて、ちょっとシュールではある。

 本来のメルジナの歌は耳を塞いでも、耳栓をしても鼓膜を破っても魂を揺さぶるように訓練を積んでいるのだが、今回は手加減しているのだろう、耳を塞いでいれば歌が聞こえてくることはない。

 例えアニソンを知らなくてもシーサーペントには効果てきめんだったようで、メルジナの方へと進んでいく。


「ヤタ!空から風の斬撃だ!」


「おうよ!」


 眼帯美少女のヤタの背中から黒い翼が生える。女天狗のヤタはシーサーペントに向けて羽団扇を振る。


「聞いて驚け!見て驚け!わっちの名はヤタ・ジ・ハイペリオン!わっちの斬撃で蛇のなます斬りにしたる!」


 ヤタが団扇を振る度に風の斬撃が飛び、シーサーペントが切り刻まれ首が両断される。

 おおおおっ。

 『ホットジョルト』から歓声の声が上がる。首を失ったシーサーペントはばたばたと体を動かしていたが、しばらくして河に沈んでいく。


「す、凄いな。君の召喚モンスターは」


「ほんと。私こんな強い召喚モンスター見たことない」


「美しくて強いなんて最強じゃないか」


「それほどでもないですよ」


 いや、ほんと、謙遜でもなくそれほどでもないんだけどね。まだ、彼女達は本気を出していない。出すほどではないのだけれど、今の彼女達に必要なのは、僕も含め経験だけだ。

 僕達はなんとかシーサーペントを倒し、しばらくして到着地点に降りて大河を越えることができた。


「ありがとう、この事はギルドに正式に連絡しておくよ」


「そうしてもらえると助かります」


 僕は善崎さんと握手を交わす。


「私達は、これから君達とは違うルートで階層ボスのいる場所まで辿り着いてみせるよ」


「これからは普通の競争相手ですね」


「そうだな。ここからはライバル同士だ。乙橘くん」


 こうして、僕達は善崎さん率いる『ホットジョルト』のパーティと別れ、ラスボスのいるエリアまで目指すこととなる。

 結果はどうなったのか。

 階層ボスがどのようなモンスターなのか不明のため、一端ダンジョンから地上に戻り、情報を得てから進むのが定石かもしれないが、僕は四十五階層の調査を念入りに行い、『ダンジョン超裏技大辞典』のこういう場所で生息しているモンスターの特徴と照らし合わせた結果、なんのモンスターか目星が付いていたので、このまま進み、四十五階層ボスエリアまで辿り着いた。階層ボスは九つの首を持つヒュドラだった。

 まあ、メルジナが歌でヒュドラを弱らせて、エイレネが凍らせて打撃を与え、僕とヤタが上と下で斬撃を加えるだけである。このヒュドラも本来のヒュドラに比べてそれほど大きくなかったため、楽に倒すことができた。

こうして僕達はヒュドラが持っていたアイテムを総取りして、『ホットジョルト』より先に下階層に行くことができたのである。


次回投稿は3月14日12時頃となります

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