15 困っている人を見過ごせない僕
よろしくお願いします
僕こと乙橘勇大は、C級ダンジョン四十五階層までカードモンスターと一緒に探索している。基本D級ダンジョンは十から三十階層、C級ダンジョンは三十から五十階層まであるのが普通である。要するに後少しで五十階層に到達し、B級ダンジョンに行ける資格を得ることができる。自分の場合は『ダンジョン超裏技大辞典』によって、こっそりA級ダンジョンを潜ったり超レアアイテムを確保したりしているわけだけど、それ非合法だし、見つかったらえらいこっちゃだし。とはいえ、C級ダンジョンも下層まで来ると、モンスターも強くなってくる。
僕達は現在幾つもの川が入り乱れている湿地帯にいた。足元の地面は泥であり、泥濘で歩けないわけではないが足場としては最悪だ。さらに川が枝分かれして幾つもあり、川を渡らなくては先に進むことができない。そして最後に大河が存在し冒険者の道を塞いでいるのだ。
ここを通るには船が必要になってくる。ダンジョンの下層ということもあり、船を持ち運ぶことも筏を造るにもモンスターが邪魔して、ほとんどの冒険者は通ることができない。しかし問題は解決していた。ダンジョン後方支援の自衛隊が船を用意してくれてあるのだ。さらに魔力コーティングでモンスターが船を壊さないように隠蔽してくれてある。ただし、使用料も払わなければいけないし、燃料は自己負担だし、壊したら弁償だから、冒険者にとってはかなりの負担となる。とはいえ、使わなければここを通ることはできないのである。自分は『ダンジョン超裏技辞典』でどうにでもなるが、正式に踏破するには船を使わなくてはならない。
そしてモンスター。
僕達が船のある場所まで進んでいると、先頭を歩いていたエイレネがモンスターの気配に気付いたようで、手で後方の僕等に合図を送る。
エイレネはフローズンと呼ばれる氷の妖精人だ。水色の髪に蒼い瞳の美少女だが、全身に装飾された古代の鎧とマントを纏い、兜ではなく耳と額を守る額当てを付けている。しかも普段から寡黙で冷静沈着だ。
どこから来る?瞬間、鞭のような物が僕の足を掴み、体を大きく引っ張られる。なんとか剣を地面に突き刺して止めることに成功する。きちんとレベルを上げていなかったら、体を持っていかれただろうし、足を引き千切られていたかもしれない。
泥の中に潜んでいたモノ、全長二メートル近くあるビッグフロッグだった。色が泥と同じ保護色の茶色だし、こうやって泥に隠れて獲物を舌で捕らえて食べていたのだろう。ギルドからの情報では、泥に潜んで存在に気付かない冒険者を長い舌で捕まえ一瞬で口の中に入れる。冒険者はビッグフロッグの口の中で無呼吸状態に陥り、自分になにが起こったのか気付くまもなく気絶し捕食されるという。先頭のエイレネが気付かなかったら、身構えることもできなかった。
僕は引っ張られるのをなんとか堪える。
「お頭!」
僕の近くにいた女天狗であるヤタが持っている団扇で風の斬撃を作り出し、ビッグフロッグの舌を切り裂く。なんとかビッグフロッグの舌から抜け出した僕だが、泥に潜んでいたのは一匹だけではないらしく、計6匹のビッグフロッグに囲まれていた。
ビッグフロッグは僕達の動きを注視し、舌で取り込もうかと狙っている。
僕はライオットシールドと剣を構えて、左後ろは女天狗のヤタが、右後ろは人魚のメルジナが付き、三角の形で互いを護り合う。最初に動いたのは、先頭にいた氷の妖精エイレネだった。
「高まれ、私の魔力!全てを凍らせろ、私の拳よ!」
すごく威勢の良い言葉を吐きつつ、エイレネは拳を構える。
「シャーベットナックル!」
ビッグフロッグが舌を出す前に滑るように近づき、拳をふるう。本来なら柔らかい腹部とねっとりとした粘膜で打撃を通さないビッグフロッグの体表が一瞬で凍結し、右ストレートによって砕かれる。さらにエイレネは振り返ることなく、滑るように別のビッグフロッグに近づく。実際、彼女の足元は凍っており、アイススケートのように滑って相手の前に現われているのだ。ビッグフロッグが距離を取ろうとした時には、彼女の一撃であえなく砕かれる。ちなみにシャーベットナックルなんて技はないし、彼女の創作技である。
あるアニメを視聴した彼女はそれに嵌まり、体を鍛え始め、ボクシングや空手等あらゆる格闘技をネットで学び、毎日欠かさず筋トレをするようになった。
吹雪で相手を攻撃するだけだった氷の妖精人の特性は、僕との血の滲むような特訓により、氷に指向性を持たせ自由自在に操れるまでになったのだった。
エイレネの放つ冷気が辺りを寒冷化させ、ビッグフロッグの動きが鈍くなる。そこを狙い、僕と女天狗のヤタ、人魚のメルジナが攻撃を加え、残り四匹も倒すことができた。
「ふう、なんとか倒したな。さすがエイレネだな」
「ふっ、これぐらいのこと大した運動にもならん」
マントを翻し、当然の表情の態度をとるエイレネ。しかし、その頬は高揚して赤くなっており、目尻が嬉しそうに動いているのを見逃さなかった。
「そ、それにしても、や、やっぱり足場が悪いと、ど、どうにもならないですね」
人魚のメルジナが三つ叉の矛を大事そうに持ち、びくつきながら僕に追従する。
軽装の西洋甲冑を纏い、辺りを見回しながら歩く姿は、農民から徴兵された一般兵士のようでもある。波打つような煌めく碧色に深い海のような蒼い瞳の美少女だが、その怯えた表情からはその良さが半減していた。
「それに小雨ばかり降るしどうにもならんのう」
女天狗のヤタは平安時代のような甲冑を纏う、黒髪黒目の見目麗しい少女だが、右目に眼帯をしており、勇壮な立ち姿を魅せている。
確かに彼女達の言う通りで、このC級ダンジョン四十五階層は、その足場の悪さだけでなく、どんよりとした雲行きと小雨が鬱々とした気分にさせる。
「とにかく前に進もう。もう少しすれば川があって、情報通りなら船があるはずだ」
僕達は、その後もモンスターを戦いながら目的の場所へと辿り着く。
ダンジョンの中でエルフと出会った人類は、様々な叡智を授かった。それまで困難で行き詰まり状態だったダンジョン攻略は、エルフの知識と魔術を学び、大きく前進した。自衛隊や軍属でもない一般人がダンジョンに潜ることができるのもエルフのおかげであり、彼等がダンジョンを探索すればするほど、国に新しい技術とエネルギーをもたらすことに繋がるのだ。自衛隊は、今ある銃器や戦車をダンジョン使用にし、今も難度の高いダンジョン攻略を行っている。ただ攻略したダンジョンを制圧し基地を造り、砦を築こうにもモンスターが破壊していくため、攻略のみにとどめ、ダンジョンを行き来しやすいように路を造ることに専念したのだった。
「あった」
手元にあるタブレットをもとに地図画像から位置を特定し、魔術によって隠されていた船を見つける。ちなみにこのタブレットはネットが使用できないため、GPSも通信アプリも使えない。中の機能のみである。
辿り着いた先にあった場所にあったのは、中型の船である。普通の船だが所々に魔術の文様が施されており、乗れば目的の場所まで送ってくれる優れものだ。問題はエネルギーである電気であり、バッテリーが必要になってくる。普通の冒険者では重くて持ち運ぶことができない。
そこでマジカルバッグが必要になってくる。大小様々だがバッグの口の中に入れば、別空間に収納でき、保存も利き、重さも感じない。ダンジョン探索に必須なアイテムである。ただし、ダンジョンでドロップするならともかく、ダンジョンマーケットだとかなりの高額であり、一般の冒険者だと手に入りづらい。だけど、僕には『ダンジョン超裏技大辞典』がある。この本の書いてある収納マジックアイテムが手に入りそうなエリアを探索し、なんとか風呂敷型のマジックアイテムを手に入れたのである。そんなわけでマジカル風呂敷に念じて、船舶用バッテリーを取り出し、船に乗り込むことにした。
「お頭」
ヤタが僕に近づき小声でささやく。
「わっち等の他に誰かいるようじゃ」
「わかってる」
僕も小さく頷く。おそらく船に誰かが来るのを待っていたのだろう。エイレネとメルジオもとっさの行動がとれるよう軽く身構える。
「あのう、すみません」
現われたのは、二十代から三十代くらいの冒険者六名だった。軍人の格好をしているが、装備はちぐはぐであり、見た目サバゲーを楽しんでいる大人に見える。
「なにかようですか?」
おそらくリーダーである男が前に出る。無精髭を生やし、少しやつれているように見える。他の面々も疲れの色が見えている。
「すまないが、俺達もこの船に乗せて貰えないだろうか」
そう言って深々と頭を下げる。他のメンバーも同様に頭を下げる。
「どういうことですか?この船に乗り込むには、この船の専用バッテリーが必要で、日本ダンジョン協会が配信している資料によって提示されているはずです。それが無ければ船に乗ることはできないはずです」
「わかっている。しかし荷物を確認している際、バッテリーが一台不具合であることに気付いたんだ。仕方なく帰ることも考えたが、君達もわかるだろう。C級の四十五階層に辿り着くということが。ここまで来るのに俺達は二年以上近く掛かったのだ。とてもバッテリーの故障で諦めるわけにはいかないんだよ」
C級ダンジョンは、D級ダンジョンとは比べられないほどレベルが違う。
それは、一つに階層の多さであり、階層一つ一つの広さである。
D級ダンジョンは一年あればクリアすることも可能だが、C級ダンジョンが一般の冒険者であれば、その倍は必要となる。
大手ギルドに所属しているのであれば、有能なマッピングにより、最短ルートで通ることも可能だが、中小ギルドに所属している冒険者は、ギルドから渡された頼りない地図を頼りに、ほぼ手探りで攻略しなくてはならない。
「僕達の目的は四十五階層のボスを倒し、最終的にこのダンジョンの五十階層ボスを倒すことなんですよ。一度ボスが倒されれば、そのダンジョンはボス不在のダンジョンになりますし、ボスを倒したという称号もなくなります。つまり、あなた達を船に乗せるということは、競争相手を一組増やすことになりますよね」
一度ダンジョンのボスがいなくなれば、ダンジョンモンスター同士で争いが始まる。
モンスターの目的はダンジョンコアの独占だ。ダンジョン最下層の中心部にあるダンジョンの核、通称ダンジョンコア。その膨大な魔力がモンスターを魅了し、強大な力を与える。そして、それは冒険者のみならず、国家でさえも手が出せない代物であった。なぜなら、ダンジョンコアこそ、魔石や魔宝石を生み出す存在であり、それが無くなることはダンジョン崩壊を意味するからだ。他国での話しだが、国の調査団がダンジョンコアを持ち帰ろうとしたところ、ダンジョンが崩落し、調査団とそれを守る軍隊が生き埋めになったのは有名な話しである。
ダンジョンコアだけでなく、各階層にも一つずつコアが存在する。それは階層コアと呼ばれる代物で、実はダンジョン攻略に不可欠なものとなっている。
階層コアには転送魔法があり、冒険者には必ず必須となる転送石に階層コアの転送魔法をアップデートさせると、その階層の入り口に転送できるようになる。つまり、一階層から、今いる階層にワープできるというわけだ。
「わかっている。君達も我々と同じライバルだということを。君達がどのように苦労してここまできたのかも理解している。だが、我々もここで諦めたくないのだ。この階層ボス前まできたらマッピングし、我々は一端地上に戻るつもりだ」
ダンジョンで一番重要なのが、マッピングである。それで地図を作り、独自のルートを開拓していく。さらに大きなギルドに所属していれば、他の冒険者が作ったルートと示し合わせ、最短コースができあがる。これがあれば数年掛かるダンジョンを半分の年月で攻略することも可能だ。
階層ボスを倒したら、階層コアと四十六階層に下りるゲートが存在する。まあ、別にそのゲートを使わなくても下層に下りる方法を知っているが、今は普通の冒険者である。
さて、どうしようか。僕は連れの仲間のところに戻り、会議をする。
「というわけなんだけど」
「構わん」
そう言ったのはエイレネである。
「階層ボスもダンジョンラスボスも、奴らよりも早く私達が倒せばいいだけのはなしだ」
「わっちもエイレネの意見に賛成じゃけ。ようは旅の途中で出会ったなにかの縁じゃ、人助けも一興じゃ」
「わ、わたしも、お二人がいいならいいです」
三人の意見を聞き、僕は男の元に戻る。
「帰りのバッテリーはあるんですよね」
「もちろんだ。ギルドルールに則り、今回の件についてそれなりの金額は払うつもりだ」
また人助けか。こういうことしていると、いずれは足元掬われるなと思いつつ、僕達四人の他に六名を足した十名は船に乗り込んだ。
次回投稿は3月13日13時頃です




