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109 報連相は大事

よろしくお願いします

津上正愛・・・ギルド『エウメニデス』社長。ギルドが大きくなり、偉くなったらしい。

大間田高志・・・ギルド『エウメニデス』の社員。専務となり偉くなったらしい。

 僕は今、所属しているギルド『エウメニデス』の本社にいる。


 1年前は、ギルドですらないプレハブだった、ギルド『エウメニデス』は、気付けば豪華なお屋敷へと変貌を遂げていた。


 僕との約束を得て、冒険者ギルドを作ることになった津上正愛社長は、ほとんど知り合いで固めたギルドを作ることとなった。


 資金面では僕がバックアップし、ダンジョンで採掘した魔石と魔宝石とレアアイテムで援助を行ない、支援者が集まるまでの補填とした。


当時はあまり知らなかったが、僕が持ってきたレアアイテムは億を軽く超えていたらしい。その代り、僕は冒険者となった今でも『エウメニデス』に所属しながら、ダンジョンを自由に動き回ることができるようになった。


 エントランスを通り、受付嬢に話しかける。


「すいません。津上社長にお会いしたいのですが」


「アポイントはお取りでしょうか」


「いいえ」


「すいません。アポイントをお取り出ない方は、代表とはお会いにできません。正式に予約していただいてから、お越し下さい」


「ええと」


 アポイント?


今、アポイント必要なの?


 今まで津上社長からの呼び出しで来ていたから、知らなかったなあ。受付嬢も変わっているし。


「あの、津上社長に乙橘が来たと連絡していただけませんかね。そうすればわかると思うのですが」


「すいません。大変申し訳ありませんが、アポイントをお取りになられていない方は、冒険者であっても、お会いにはなられないのです」


 マジか!


 もう一度、戻って電話で予約してから来るか?


 いやいや、それはないだろう。


 どうしようか、悩んでいると一人の男が声を掛けてくれた。


「おや、乙橘くんじゃないか」


「大間田さん」


 以前、B級ドキューダンジョン十階層で、船の運転をしてくれた大間田高志さんである。


「大間田専務!」


 受付嬢がお辞儀をする。僕との扱いが酷い。


 大間田さんは、僕と受付嬢を交互に見て、理解したようだった。


「ああ、彼は特別なんだ。すぐに津上社長に連絡をとってくれないか」


「は、はい!」


 受付嬢はすぐに電話をする。受付嬢、微かに手が震えているけど、大丈夫?


「お会いするとのことです」


「では行こうか。乙橘くん」


「あ、はい」


 僕は大間田さん、いや、大間田専務に連れられて階段を上がる。BWダンジョンには景観を損なうため、エスカレーターやエレベーターはない。足や不自由な人や老人に優しくないという人もいるだろうが、ここはダンジョンであり、冒険者が命懸けで探索する場である。普通に考えてバリアフリーがあるわけがない。


 まあ、日本ダンジョン協会やダンジョン省には、すぐに思った場所にいける転移システムがあるらしいが。


 僕は社長室に辿り着く。


「すみません。代表は、今会合中でございまして、五分程お待ち下さい」


 社長室の高価そうなソファに座り、秘書が出された高価そうなお茶を飲む。


 美味しい。1年前までは、デパートの大安売りで購入したお茶だったのに。


「待たせてすまん。少し押してしまってな」


 スーツ姿の津上正愛社長が入室する。そして、乙橘勇大の対面のソファに座る。


「お久しぶりです。津上さん」


 僕が津上社長のことをさん付けしたことに、少しむっとする秘書の人。


 もう面倒くさいなあ。


 会社が大きくなるということはこういうことなのね。


「久し振り、というわけではないだろう。で、今日はなにしに来たんだ?」


「ギルド『ギガス』所属の冒険者によるクラン募集に、山門クララが加入することです」


「やはりそれか」


 津上社長はわかっていたらしく、渋い顔をする。


「どうして、彼女をクラン参加を認めるんですか?罠かもしれないんですよ」


「まあ、普通は考えるか」


「普通じゃなくでも疑います。津上さんの考えをお聞かせ下さい」


「そうか・・・。ちょっと君、少し部屋から出てもらえないか」


「えっ」


 津上社長は、話を聞いていた秘書の人に向けて言う。


「は?は、はい、わかりました」


 津上社長の言葉に、秘書の人は驚くが、大人しく部屋から出て行く。


「今回の話しはかなり重要な内容となる。これから話すことは外部に漏らさないことが前提だ」


「わかりました」


 神妙な表情で見る津上社長に対し、僕は頷く。


「社マジメは、俺が『ギガス』にいた頃に冒険者としてのイロハを教えた事がある。実力はあるが、初めて会った時は酒と女にだらしない奴だった。しかし、5年前、クランのリーダーとしてB級ダンジョンの最下層ボスと戦い、クランは壊滅。社マジメ自身も心に大きな傷を負った」


「その社マジメがもう一度、B級ダンジョン攻略に動いているというわけですか」


「ああ、B級ダンジョンでも最難関と言われている、ドキューダンジョンにな」


「ドキューダンジョン?今、僕が攻略中のダンジョンじゃないですか」


「やはり知らなかったか。普通だったらダンジョン攻略をしているライバルだと認識するぞ」


「同じダンジョンの攻略を目指している冒険者なんて、知る必要ないですよ。ただダンジョンを攻略すればいいだけですから」


 僕は、どちらが先にダンジョンを攻略するかなんて、あまり興味ない。ダンジョン探索して知らないことを知る事の方が大事である。ダンジョン攻略は手段であって、目的ではないのだ。


「まあ、お前のようにたった一年で最難関ダンジョンを次々と攻略して、逆に外部から怪しまれる冒険者はいないしな」


 また釘を刺す。


「・・・で、その社マジメはどうしたんです?ドキューダンジョンで躓きましたか?」


「そうだ。今回の件で、ドキューダンジョンの最下層ボスについて調査した結果、ヒュドラというのがわかった」


「ヒュドラ?」


「そうだ」


 ヒュドラ・・・、ヒュドラかあ。その毒は英雄殺しともモンスター殺しとも謳われている。僕は一度ダンジョンの階層ボスとして戦ったことがあるが、あれはレベルが低く、体も大きくなかった。ある程度攻略法を知っていれば倒せる相手である。


 しかし、B級、しかもドキューダンジョンともなると、モンスターとしての強さのレベルが違うと考えるのが当然だろう。


「ヒュドラなら毒対策をとり、蛇の弱点をついた罠を張る必要がありますね」


 ヒュドラは蛇だ。竜のような強固な鱗はなく、強大な魔力もない。しかし、視覚で捕らえきれないほどの瞬発力と、柔軟な胴体と凶悪な毒は、はやり脅威というほかない。さらに多数の首は、どこから襲ってくるかも掴みづらい。


「社マジメは、五年前、別のB級ダンジョンの最下層ボスでヒュドラと戦い、攻略に失敗し、大勢のクランメンバーを失っている」


「今回はリベンジのつもりですかね」


「そのつもりだろう」


 そのつもり、か。僕はほとんどソロだし、ダンジョンで大きな失敗はしていないから、彼の心情はわからない。が、もしも、自分が、あの時、ダンジョンで『ダンジョン超裏技大辞典』を手に入れていなかったと思うと、怖さが少しわかってくる。


 偶然地上に出れたとしても、再びダンジョンに入ろうと思うだろうか。


 怖くて絶対に入れないはずだ。


 友達(と、自分が勝手に思っていただけ)に裏切られ、崩落したダンジョンに取り残された恐怖。今思えば、あの時、自分は手に入れた『ダンジョン超裏技大辞典』にすがっていなければ、心が押し潰されていたかもしれない。


 社マジメは、一度ダンジョンで大敗し、自身が死にそうになりながらも、もう一度立ち上がろうと、B級ドキューダンジョンをクリアしようとしているわけか。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だけど、僕にはなんの関係もない話しだが。


 そりゃ、B級ダンジョンクリアを目指し、そこで挫折し、クランを失い、世間に叩かれただろうし、全てを失ったのだろうけど、それはダンジョン冒険者にはよくある話しである。


 ここで彼に同情するのは筋違いだろう。


「でも、それだけじゃないですよね」


「と、いうと?」


「社マジメが、頑張っているから手を貸すというだけで、山門クララという有望株になりうる存在を貸すなんて、少し短絡すぎますよね。本当の狙いはなんですか?」


 津上さんは、ソファに深く座り、足を組む。


「そうだな。やはり話すしかないか」


 津上社長は、大間田専務を見る。大間田専務も意図を読み取り、頷いた。


「やはり、まだあるんですね」


「社マジメがギルドの意向を無視して、独断でクランメンバーを募集する。これは、ギルド界隈では知られている話しだ。しかし、不審な点がある」


「不審な点?」


「ギルド『ギガス』の動きがみられないという点だ。個人同士のやり取りで、クランメンバーを募るというのはおかしなことではない。その場合、採取したアイテム等で揉めることもあるが、それも個人同士の問題となる。問題なのはギルド『ギガス』が自社の冒険者パーティのクラン参戦を認めないということだ。もちろん、そういうギルドルールはない。あくまで『ギガス』による暗黙のルールというやつだ」


「暗黙のルール」


 ギルドの中には、自社のみの暗黙のルールというものがある。ダンジョンにおけるルール上では認められているが、自分達のギルドでは内々で禁止されているものである。


「そうだ。ギルド『ギガス』は他のギルドや冒険者パーティを認めることはない。『ギガス』の目的は、知名度と魔石や魔宝石等のレアアイテムの独占だ。彼等と手を組みたかったら、引き抜かれるか、傘下に入るしかない」


「なるほど」


「本来なら、社マジメが動いた時点で、相応のペナルティがあるはずだ。もしくは、こうなる前になかったことにするだろう。だが、今のところそれがみられない」


「ギルド内部でなにかあったということですか?」


「そう考えるのが自然だろう。そして、俺は伝手で、とある情報をリークした」


「とある情報?」


「今、『ギガス』では、内部分裂が起こっているらしい」


「内部分裂?」


「首謀者は、代表の平金十三の長子である、平銀呉。そして三男の平石八だ」


「長男と三男が」


 三男のことは知らないが、長男の平銀呉は有名である。大手ギルドを腐敗化させた張本人である。ちなみに五男の平周近は、すでにギルドとも家とも離れているらしい。


「代表の平十三は、現場を離れており、実質次男の平周一郎が会社を仕切っている状況だ。しかし、近頃、平銀呉が会社に戻ってきており、裏から重役や冒険者パーティを引き込もとうとしているらしい」


「会社を乗っ取るつもりですか」


「いや、新たな会社を作るつもりらしい」


「新たな会社?!」


「まだ未確定情報で深くは掴んでいない。しかし、今回の社マジメの独断行動に対して、『ギガス』の動きが遅すぎるのが怪しい。しかし、内部分裂で荒れているとしたら」


「今回の件は一致する」


「俺としては情報が欲しい。なんらかの、な。だから社マジメのクランメンバー募集に対して、こちらの冒険者を送り込み、なんらかの情報が欲しいと思っている」


「それが狙いですか」


「他のギルドも同じようなものだ。特に長男の平銀呉は、今後のダンジョン探索の大きな障害になりかねない。他ギルドも所属する冒険者パーティに声を掛けて、個人契約という形で社マジメのクランに入れるつもりだ」


「全ては『ギガス』の動きを把握するためですか」


「そうだな」


 なんというか、いつの間に大手ギルド『ギガス』は、そこまでドロドロになってしまったのだろうか。


「で、山門クララの願いを聞き入れた、と」


「そういうことだ」


 要するに、山門クララは元『ギガス』の冒険者であり、それを利用して社マジメのクランに参加してもらい、元『ギガス』冒険者観点から異変を探ろうというのだろう。


 つまり、今回の件は、クランに参加してヒュドラ討伐が目的ではなく、討伐しようができまいが、その後の『ギガス』の動きが重要なのだろう。


 なんていう面倒くさい話しだ。


「僕はどうすればいいんですか?そろそろ僕もドキューダンジョンを攻略したいと思っていたところですし、彼が寄せ集めのクランを作る前に、最下層をクリアしちゃいますよ」


「それも仕方のないことだ。だが、世間が社マジメのことで騒いでいる最中に、B級ドキューダンジョンをソロでクリアしたとなれば、否が応でも君のことが世間に周知されるだろう」

「えええ?」


 そういうこと言う?ちょっと汚くない?


「そして、俺と君がなんのためにこのギルドを作ったのかもわかっているだ。知名度か、目的遂行か」


「言うことが狡いですよ。僕も手伝えってことですね」


「その方が山門君も助かるだろう」


 要は僕もクランに加わり、山門クララを護ってやれと言っているのだ。


 僕と津上社長が望むのは、ダンジョンの清浄化だ。無論、全てが浄化されることはない。ダンジョンである以上、モンスターに立ち向かう以上、闘争心があり、命を惜しまず、金であれ承認欲求であれ、荒くれ者でなければできない職業だ。問題を起こさない方がおかしい。


それでも、他者を脅す、密輸や人身売買や殺人等の明らかな犯罪行為は厳しく取り締まらなければならない。


 そして、その中心にいたのが、大手ギルド『ギガス』である。


 その『ギガス』に異変がある以上、こちらも調査しなくてはならないのは当然である。


 僕がB級ドキューダンジョンを攻略したとしても、世間に公表しない以上、所属ギルド『エウメニデス』にとって利益にならないこともあるのだろう。


 さてさて、どうするべきか。


お読みいただきありがとございます

これからも応援よろしくお願いします

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