107 推しの歌声
よろしくお願いします。
読みやすいように間に◆★●を入れてみました。
山門クララは有頂天状態にいた。
なにしろ、目の前にダンジョンモンスターシンガーと呼ばれているリリカがいるのだから。
彼女の歌を聴いたのは、リリカが路上ライブをしていた頃からである。
最初は、その美しさに見惚れて、次にその美声に聞き惚れて、そして歌詞に共感し、いつのまにか、彼女の路上ライブの追っかけとなっていた。その様子がネット動画でも上がるようになり、ダンジョン探索した後は、すぐに彼女の情報を逐一チェックするようになった。
クララと同様に彼女の追っかけになった冒険者は多く、彼等が作った非公式ファンクラブもすぐに加入し、情報を交換し合い、その後、リリカが新興ギルド『エウメニデス』の芸能班所属になり、公式ファンクラブを作った際も、運良く一桁のファンクラブ番号と手に入れることができた。
まさか、彼女が乙橘勇大の召喚少女なんて、誰が思うだろうか。
彼はまだ高校二年生であり、冒険者としての活動は、一年経ったぐらいと聞いている。津上正愛が立ち上げたギルド『エウメニデス』に初期から所属し、それから一気に頭角を現している。と、いっても、山門クララ自身もラミアに襲われた時に知ったのだが。
彼がダンジョンを攻略しても、世間では誰も知らない。一部の冒険者のみである。彼の所属しているギルドもネット等で伝えようとしない。ソロでダンジョン攻略、さらに最速ともなれば、一気に有名人になれるというのに。
彼の召喚少女こと、召喚モンスターも異質だった。
黒き翼を持つ女天狗、ヤタ・ジ・ハイペリオン。
エルフのパフェ・ジ・スィート。
氷の妖精人、エイレネ・ジ・アイスリヴァー。
花の妖精人、アンティア・ジ・チアフラワー。
ケンタウレのステラ・ジ・サジタリウス。
デルピュネのメリュジーヌ・ジ・エキドナ。
そして、なんとダンジョンの歌姫、サッキュバスのリリカである。
本来、召喚士は五枚しか、召喚カードを所持していないはずだが、なぜか彼は六枚のカードを所持している。いや、本当はもっと持っているのかもしれない。
彼女達は普通に接し、普通に会話し、普通に対応している。クララが知っている召喚モンスターとは全く違う。普通の人間の様である。
彼、乙橘勇大とは何者なのだろうか。
異世界の人間か?
今までエルフやドワーフ、ノームに、ハーフリンクは発見されているが、異世界の人間は、ダンジョンで発見されていない。 エルフによると、彼等は異世界に住んでおり、ダンジョンごと転移してきたという。
乙橘勇大は異世界の人間であり、入れ替わったと仮定できないだろうか。
いや、エルフ族や魔女達によると、異世界の人間は、亜人種を迫害しており、仲がすこぶる悪かったという。そんな存在が、亜人種を引き連れてダンジョン攻略できるだろうか。
それとも、魔術師が彼に憑依したか。いや、それもない。なら、エルフがいち早く気付くだろう。
彼はなにかを隠している。だが、そのなにかがクララにはわからなかったが、それでも彼がいたからこそ、ダンジョンシンガーのリリカが存在していることで、お釣りがくる程のチャラになっているのだった。
(今、そのリリカ様が歌う。その声は私には届かない。まるで、無音の世界で歌っているかのようだ)
乙橘勇大には、まだドラゴネットを出さないように、山門クララは言われていた。
リリカ・ジ・モリガンの歌声はドラゴン限定で聞こえるように歌っているのだという。今召喚すれば、状態異常に陥るとのことだ。
それでも亜種ドラゴン達には効果てきめんで、まるで酔ったようにふらふらと動き出す。
リリカ様が歌うのを止める。
「今です、山門さん!」
山門クララは乙橘勇大の合図に合わせて、ドラゴネットを召喚する。
スイに乗り、阿吽の呼吸で空を飛ぶ。
本来なら、山門クララが岩陰から出てきた時点で、十体のドラゴンの総攻撃が始まるはずだが、リリカの魅了の歌声で状態異常に陥っており、対応できていない。
ガアアアアアァァァァ!
ドラゴネットのスイは、竜の咆哮を行なう。純血種であるドラゴネットの咆哮は、それだけでもドラゴンに精神的ダメージを与える。四体は気を失い地に墜ち、四体は這々の体で逃げ出し、二体は服従の姿勢をとる。
私達はあっという間に、ドラゴン十体を倒すことができたのだった。
「すみません。ドラゴン全員を完全に魅了することができませんでした」
リリカ・ジ・モリガンが頭を下げる。彼女の想定では、スイの竜の咆哮で、全員昏倒させることができたのだという。
「いや、上々だよ」
勇大は、服従の意を示すドラゴンを見て、にっこりと微笑む。
クララは、唖然とするしかなかった。
亜種とはいえ、あのドラゴン十体をあっさりと撃退することができたのだ。
「まあ、B級ダンジョンのドラゴン程なら問題ないでちゅね」
「じゃあ、これ二体の内のドラゴンを召喚カードに封印するんですね」
「なにを言っているんでちゅか?」
クララの言葉に、半人半竜のメリュジーヌが眉をひそめる。
「え?」
「この程度のドラゴンでご自分の召喚モンスターを決めて貰っては困りまちゅね。山門ちゃんには、ドラゴンライダーとして見合った召喚ドラゴンを手懐けてもらいまちゅ」
「えええええ」
こうして、山門クララは、乙橘勇大と彼の召喚少女と、自身の召喚ドラゴンであるスイと共に、新たな召喚ドラゴン探しを再開するのだった。
◆★●
途中、何度か飛翔する空竜と地を這う地竜に襲われるが、リリカ・ジ・モリガンのチャーミングボイスと、ドラゴネットのスイと半人半竜のメリュジーヌによる連撃、山門クララと乙橘勇大による連携でなんとか撃退することができた。
特にメリュジーヌによるドラゴン特化の感知能力は素晴らしく、どこに数体潜んでいるかも察知してくれるのと、リリカのチャーミングボイスによるドラゴンへの状態異常は凄まじく、ほとんどのドラゴンが混乱をきたしたところを、乙橘勇大とリリカが攻撃を掛ける。
以前、乙橘勇大の召喚少女の一人である、ハイエルフのパフェ・ジ・スィートから貰った龍醒剣でドラゴンを斬り裂く。その切れ味は恐ろしい程で、どこで購入したか、ドロップしたか、気になるところである。
大きな内海に来た山門クララ一行は、メリュジーヌのここに強力なドラゴンが居るという言葉に従い、周囲を索敵する。
内海に潜んでいるのはドラゴンだけではない、魚人や爬虫類系や魚類系のモンスターが多数存在しており、軽はずみに手を入れたが最後、噛みつかれそのまま内海の中に引きずり込まれてしまうのだ。
以前、山門クララがガールズ冒険者チーム『ハイ・D・レンジア』に所属していた頃、メンバーの一人がうかつに川に手を入れてしまい、潜んでいた魚人に引きずり込まれたことがある。メンバーは救助されたが、その恐怖が忘れられず、その後すぐに脱退してしまった。
内海周辺に危険性の高いモンスターがいる気配はない。
しかし、このまま待ち続けていても、内海に潜むドラゴンが今日明日出てくるとは限らないのだ。
どうすればいいのか悩んでいると、メリュジーヌが乙橘勇大に声を掛ける。
二人は、山門クララから少し離れて内緒話をする。
「それでは、ご主人たま、メルジナたんを呼んでくだちゃい」
「メルを?どうして?」
「決まっているじゃないでちゅか。彼女に内海に入って貰って、ドラゴンを出してもらうんでちゅよ」
「それって、メルを釣り餌にしようっていうのか?」
「そうでちゅね」
「いや、そうでちゅねって、メリュ。いくらなんでもドラゴンを誘き寄せるために、メルを餌にするだけのために召喚って、メルが哀しむぞ」
「そうでちゅか。でも、それが彼女の仕事じゃないでちゅか」
「普通のダンジョン攻略のためならな。今回は山門さんの召喚モンスターを探すための手伝いみたいなものだ。安易にメルは呼ばないよ」
「でもリリカたんは・・・」
「リリカは特別。彼女は近頃かまってやれなかったし、仕事柄人前に出せなかったし、山門さんなら大丈夫と思っただけさ」
「なら、ご主人たまの知識で・・・」
「それもなし。今回は君と山門クララでドラゴンを召喚モンスターを仲間にしていくんだ。僕は移動と戦闘に力を貸すだけ」
今回の召喚モンスター捜しは、山門クララ自身で行なうものであり、乙橘勇大はあくまでサポートであると、敢えて釘を刺す。
乙橘勇大が持つ『ダンジョン超裏技大辞典』には、水棲の竜を呼び出すことも可能だ。しかし、何故その知識を知っているのかと勘ぐられる可能性が高い。知っているとはいえ、無駄に知識をひけらかす必要はない。
リリカ・ジ・モリガンも本当は召喚するつもりがなかったが、メリュジーナ・ジ・エキドナの半人半竜としての混沌とした魔力気配の結果だとしたら、これぐらいは手を貸したほうがよいという判断だった。
「うううう、計画が台無しでちゅね」
「今回僕が手を貸すのは、メリュとリリカの二人のみ。このメンバーだけで山門クララを手伝う」
「わかりまちた」
「では、私が内海に潜むドラゴンをお呼びしましょうか」
あおう提案してきたのはリリカである。
「リリカたんが、でちゅか?」
「はい。私の魅了で眠るドラゴンを誘い出してあげましょう」
リリカ・ジ・モリガンは、純粋と魅惑的な笑みを浮かべて頷いた。
◆★●
リリカ・ジ・モリガンは歌う。後ろにはコーラスである、リノ、リタ、リコがいる。彼女達はリリカ・ジ・モリガンの眷属であるリリムである。
彼女達の歌声は聞こえないが、内海に潜むドラゴンのみに聞こえるよう指向性に調節しているのだという。
「なんという魅惑の歌唱力でちゅか。それに歌詞も曲調もまるで透き通るように耳に入ってくるでちゅ。微かに聞こえるあたちでちゅら、その絶大な魅了に取り込まれそうになるのに、海の中とはいえ、水竜には溜まったもんじゃないでちゅね」
山門クララは、その歌う彼女の姿に涙を流していた。
「うう・・・、ぐず・・・、わ、私、今、一番生きててよかったと思ってる。正直、パーティを抜けた私は、彼女の歌声に姿に助けられたと言っても過言ではなかったわ。何度冒険者を辞めようかと悩んだこともあったけど、彼女の歌に救われて、そして、今があるとおもうと、冒険者辞めなくで本当に良かった・・・」
彼女もそれなりの苦労があったのだろう、冒険者ガールズパーティである『ハイ・D・レンジア』のメンバーに殺されかけ、辞めざるを得なくなった。
ほぼ路頭に迷う形でソロの冒険者となり、今を生きてきたのだろう。
「感動するのは後でちゅよ。内海の深くから強大な魔力が出てこようとしてまちゅ」
彼女の言う通り、内海の中から湧き上がるような魔力が出てきており、そこから一匹の水龍が内海から出てきて、問答無用で襲ってくる。
まあ、当たり前だが、この水竜はリリカの魅了を含んだ歌声と、メリュジーヌの怪しげな魔力を感じ取り、襲ってくるのだろう。そこに前置きは必要なく、牽制もない。
ただ純粋に敵として襲ってくるのだ。
透き通る水色の鱗を持つ水竜は、水を操り僕達に襲い掛かる。水はウォーターカッターのごとく、恐るべきスピードで放たれ、近くにあった木々が斬り裂き、僕に襲い掛かった。
お読みいただきありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いします。
元気になれます。




