11 学校で少し変わったコト
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11 学校で少し変わったコト
高校に行っても勉強して昼食摂って、勉強して帰るだけである。自分に話しかけるクラスメイトもいないし、友人もいない。家に帰る前にダンジョンに行くのがいつもの日常だった。
そんないつもの日常の放課後、僕に話しかけてきた女子生徒がいた。
その女子生徒に僕は見覚えがあった。
「やっぱり同じ高校の生徒だったんだね~」
「君は、確か、ゴブリン探しの時の・・・」
そう、あのゴブリン探しでゴブリンに襲われていた少女だ。
「えっと、名前は・・・」
「稲実、稲実アスカ。よろしくね~」
「あ、はい」
僕は彼女の制服のネクタイを見て、二年生だと判断する。
「稲実先輩」
「ふふ、よろしくね~、後輩くん」
彼女の名前は稲実アスカ。同じ高校の一年上の先輩だ。
まさか、この間のゴブリン退治で助けた少女が自分と同じ高校の先輩だったなんて、不思議な縁もあったものである。
稲実先輩は、お礼も兼ねてということで、学校近くのファミレスでお茶をすることになった。正直、家族以外でレストランに行ったことがなく、少し、いやかなり緊張する。適当なものを注文し、稲実先輩は自身の身の上話をしてくれた。僕の身の上話は、すでにネットニュースで十分知っているらしい。
彼女は中学の頃からモデルをしており、テレビにもちょくちょく出ているらしい。まあ、ちょっとした芸能人というやつである。イジメの被害者としてテレビに映った自分とは大違いだ。
そんな彼女がどうしてあんな危険なゴブリン探しに参加したのかというと、単に事務所が配信しているネット番組を盛り上げるためである。
「あたしんち貧乏でさ~。中学生だった頃、今の事務所にスカウトされてチラシのモデルとか、テレビの端役とかやってたんだけど稼げなくてさ~。いろいろ大きなオーディションも受けたんだけど、全部落選で」
稲実先輩は、初めて会った僕にすらすらと重い過去を話す。まあ辛い過去と言えば、同級生に殺されかけた自分も同じだけど。
「冒険者になって一攫千金できればいいかな~って思って、一年の夏休みに友達と一緒にパーティ組んで、なんとか簡単なE級ダンジョンクリアして、D級ダンジョンに入ったんだけど挫折しちゃってさ。
そしたら事務所のネット配信で『外に逃げたゴブリンを追え』って企画であたしが選ばれたわけ」
それなりに冒険者としての経験のある男性スタッフ二名とこの事件に参加し、C級ダンジョンの冒険者で配置された場所も山の麓だったし、事務所としてもゴブリンに会えるわけがないと思っていて、ネームバリューの一つになればいいと思っていたわけである。
しかし、まさかのゴブリンと鉢合わせしてしまい、さらに冒険者経験のあるスタッフが稲実先輩をおいて逃げてしまったのである。
「そりゃあたしもさ~、ダンジョン内でゴブリンと戦ったことがあるけど、ダンジョンの外、ようするにあたし達の世界っていうの?そんなところでゴブリンに遭遇するのは、すごい怖かったし、まさかスタッフが逃げちゃうなんてさ~」
彼女も言うこともわかる。ダンジョン内ではない、ダンジョンの外で遭遇するゴブリンの怖さが。
「その気持ちよくわかるよ。自分も少し前までそうだったし。なんていうのかな、ダンジョンの中だと非現実的でゲームみたいな感覚というか。ゴブリンにしてもゲームの中の敵みたいなものに感じちゃうんだよね」
「そうそう~、だからダンジョンの中でゴブリンに会った時最初は怖かったけど、ずっとダンジョンに入っている内になんだかここが現実じゃないような気がしてさ~。
一緒にダンジョンに潜っていた友達もさ~。最初はビクビク怖がっていたけど、ずっと潜っていると別人のようになっちゃって、モンスターを平気で殺すようになったんだけど。ダンジョンの外に出るといつもの彼女に戻ってるんだよね~。
友達が言うには、ダンジョンは私達の世界じゃないからって」
ダンジョンと僕達が住む世界。現実にダンジョンは存在し、ゲームや漫画よりも繋がっているはずなのに、別世界だと認識してしまう。いわゆる体感型シュミュレーションを行っているようなものだろうか。ダンジョンに入ると感覚が麻痺してしまうのだ。ダンジョンに現われるモンスターは倒していい生き物であり、アイテムや魔石を所持している金を生むイベントアクションに過ぎないと。
だけど、ダンジョンに入れば、怪我もするし最悪死んでしまう。国は国の発展のためにダンジョンの中に潜り、冒険者は自分達の稼ぎのために危険なダンジョンに潜っているのだ。
「だからかな~。私達の世界でゴブリンに遭遇した時、ほんとに怖かったっていうか、現実にゲームのモンスターが入り込んだみたいな?そんな怖さがあるよね~」
「そうですね」
だけど今は違う。僕の中では。ゴブリンも生きている、彼等も生き物であることに変わりはないのだ。そう感じることができている。もちろんダンジョンの内と外でもゴブリンは害獣であることに変わりはないが。なにしろ、ゴブリンは人間を襲うのだから。
「でも、どうしようかな~。いくら怖いゴブリンだからって、あたしを置き去りにして逃げちゃうようなスタッフがいる事務所にいようとは思わないし~。でもお金は必要だし~」
彼女にとって自分の所属する芸能事務所で働くことは、うまくすれば高給取りになれることができる。でもそれは芸能界という特殊な社会で上手に世渡りできればの話しだ。
もちろん視聴者からの嫉妬による芸能人叩きや、成り上がろうとするライバルからも足を引っ張られて、引きずり落とされることもあるし、非才であれば上がれないし、才能が枯渇すれば全てを失う博打のような場所だ。それだけに信じられる事務所でなければ、自分を預けることなどできないのだろう。
「だったら、僕が所属しているギルドに移ってみては?」
「え?」
「自分のところのギルドは、今芸能関係にも幅を広げているから移籍してみるのはどうですか」
僕の提案に稲実先輩は驚く。
「乙橘くんのギルドってどこなの?」
「エウメニデスってとこです」
「ああ、あのダンジョンシンガーのリリカがいるとこの」
「知っているんですか、リリカを?」
「当たり前だよ~。今ダンジョンでも地上のネットやテレビでも、すごい歌唱力と美貌で有名だし~」
そんなに有名だったのか。そういえばこの間テレビや雑誌の取材を何社か受けたな。
僕が召喚したサッキュバスプリンセスのリリカは、ダンジョン内でライブをしたり、ギルドのネット配信に出演したりと、かなり忙しい日々を送っている。とはいえ、マスターである僕がいる必要があり、この後もダンジョンに潜ってリリカのPV撮影に参加しなくてはならない。
「会ったことあるの?リリカに~」
「え、あ、まあ」
「へ~、すごいじゃん。やっぱすごいきれい?」
「そうだね。で、移籍の話しなんだけど」
僕はなんだか恥ずかしい気持ちになり、話しを元に戻す。リリカが褒められるのは嬉しい事なのだが、面と向かって言われるとそれはそれで照れくさくなる。
「それはやっぱ無理かな~。したいけど、ほら、そういう話しってなかなか難しいじゃん。どの事務所でも簡単に移籍できないと思うよ」
特に自分は活躍していないのに籍を置かせてもらっている身分だしさ、と稲実先輩は言う。芸能界という事務所同士の繋がりが多い世界では、今の事務所を辞めて別の事務所に行くのは難しい。芸能人には一度事務所を辞めてフリーになり、別の事務所に行く例もあるが、新しい事務所では前の事務所との兼ね合いもあり、使いづらくなってしまう。使いづらいのなら、仕事を別の女優に回したほうが効率がいい。もしくは個人事務所を作るしかないが、それにもコネがいるのである。
それこそ事務所が破綻寸前で、大手事務所に拾われるというのがあるが、それもそれなりに活躍している必要がある。
「じゃあ、とりあえずギルドに相談してみるよ」
「ううん、自分も無理だと思うけど、あたしもちょこっとだけ事務所に話してみるよ~」
その後、その移籍話は転がるように進み、稲実アスカの冒険者ギルド『エウメニデス』の芸能枠に移籍することが決まった。まさに青天の霹靂というものだ。
彼女の事務所としては、この間のゴブリン退治で名を上げたことは良かったが、カメラマン兼護衛のスタッフ二名が逃げたのがまずかった。彼女の名が上がれば、彼女を置いて逃げたことが、ネットや週刊誌に知られてしまうことは明白だし、炎上拡散する前に稲実アスカを手放したかったのだ。エウメニデスとしてば、芸能面の拡充としてダンジョン雑誌のモデルは欲しかったし、このままダンジョンのみならず、彼女を売り出して地上波テレビの足掛かりにしたいと思っていた。
こうして稲実アスカは、円満に現芸能事務所から冒険者ギルド『エウメニデス』への移籍が円満に決まった。
申し訳ありません
少し自分探しに出掛けます
次回投稿は3月9日に23時頃となります




